Category Archives: ISAAA(国際アグリバイオ事業団)

ダニに対しての抵抗性を増したGMパパイヤ

 ハワイ農業研究センターとUSDA-ARS太平洋農業研究センター( Pacific Basin Agricultural Research Center)の研究者がスノウドロップ(snowdrop)レクチン(Galanthus nivalis agglutin [GNA])遺伝子を入れた組換えパパイヤが carmine spider ダニ (Tetranychus cinnabarinus)に対してより優れた抵抗性を示すことを報告した。レクチンは、天然界に存在するタンパク質で特異な炭水化物に結合することが知られており、植物、動物、細菌、カビに存在する。
 Heather McCafferty氏とその共同研究者はKapohoというダニがつきやすい商業品種を組換えた。このグループは、バイオリスティック法で胚形成カルスにGDN-DNAを含むプラスミドを導入した。実験室内での試験では、全体の再生能力は組換え植物を摂食したものはそうでないものの3分の1程度しかなかった。研究者によると、組換え体植物で接触する時間も少なく、この摂食行動もタンパク質の摂食抑制を証明するものだ。
McCafferty氏とその共同研究者は、この組換えパパイヤが他の病害に対する抵抗性の試験を行なう予定である。またGNA発現パパイヤのハワイの生態系への影響も検討する予定である。この報文は、Plant Science journal のサイトhttp://dx.doi.org/10.1016/j.plantsci.2008.05.007.にある。 

いもち病と紋枯病に耐性の組換えイネ

 インドのBagoda大学の科学者たちは、世界中で米の生産に損害を与えているいもち病と紋枯病に耐性の組換えイネを開発した。科学者たちは、ダリアからとった抗カビ力のあるディフェンシンをコードする遺伝子(Dm-AMP1を導入して作成した。Dm-AMP1の発現レベルは、組換え植物全体の可溶性タンパク質の0.43%から0.57%を占める程度を構成的に発現していた。組換え遺伝子の構成的な発現が、いもち病と紋枯病の生育をそれぞれ84%、72%阻害した。組換えタンパク質は、アポプラスト経路(細胞間の拡散可能な領域)に特異的に発現されていた。この領域でカビの細胞膜が膜の不安定性を引き起こし、カビの増殖を減少させるのである。
 Transgenic Researchの購読者は以下のサイトで全文を入手できる。
 http://www.springerlink.com/content/g1112022l627mk35/fulltext.pdf
 非購読者は、以下のサイトで要旨を読むことが出来ます。
 http://www.springerlink.com/content/g1112022l627mk35/?p=007281c8d6f744b69ae1cd86a3c90e0d&pi=0

作物の必須アミノ酸の含量を増やす遺伝子工学

 アミノ酸は、タンパク質の構成分として中心的役割を果たすと共に代謝の中間体でもある。ヒト及び多くの家畜はある種のアミノ酸を生合成できない。ヒトでは、これの必須アミノ酸のうちたった一つでも不足すると自分の体のタンパク質を分解してそのアミノ酸を供給することになる。科学者たちは、作物中のアミノ酸を富化することを遺伝子組換えで成功した。リジン、メチオニン、トリプトファンが最も注目を集めているものであるが、これらは穀類や豆類で不足がちであるからである。Plant Physiologyに発表された総説によるとアミノ酸の富化作物を組換えDNA法で行なうことに関する最近の進歩がまとめれている。
 多くの研究者が、トリプトファンとメチオニンの含量の増加を種子特異的な方法で行なえることを示している。リジン含量の高いトウモロコシの品種、Ly038、が第一世代の多くの国々で商業利用が承認される栄養価値の高いアミノ酸富化GM作物を代表するものである。メチオニンが多いルーピン品種も同様に承認されている。
 この総説の著者であるShai Ufaz氏とGad Galili氏は、アミノ酸富化GM作物の参入とそのインパクトは、一般消費者の受容性にかかっている。LY038トウモロコシの商業的栽培が多くの国で承認されているにも拘わらずその安全性についての一般市民の議論がまだ残っている。
この文献は、以下のサイトで見ることが出来る。
http://www.plantphysiol.org/cgi/content/full/147/3/954

バイテクは、植物種子油の人の栄養のための改善が可能

 脂肪と油はヒトの食事必須のものである。しかしながら栄養の見地からは、同じ効果を生ずるものではない。例えば、ヒトは糖類から一不飽和脂肪酸を生合成することはできるが、高度不飽和脂肪酸(例えば、リノール酸、リノレイン酸)は、食品として摂取する必要がある。バイオテクノロジーを使うと油種子植物のそれぞれの脂肪酸の組成を変えることも通常は存在しない脂肪酸を作らせることができる。Plant Physiologyに発表された総説には、油種子をヒトの栄養価値を上げるようにバイオテクノロジーを活用することが議論されている。
 FAD2遺伝子の発現を変えることでダイズのオレイン酸含量を高めたものをこの研究者たちが開発した。開発と安全性試験を長年にわたって行い、必須脂肪酸であるstearidonic acidを含むダイズ油が商業開発されており、これが最初のオメガ-3高度不飽和脂肪酸を含む組換え食用油になることになる。Howard Damude氏 と Anthony Kinney 氏の著作の報文は、無料で以下のサイトから入手できる。http://www.plantphysiol.org/cgi/content/full/147/3/962

GMトマトはアルツハイマー病を阻止するかもしれない

 韓国の研究者によるとGMトマトがアルツハイマー病、Alzheimer’s disease (AD)、の経口ワクチンに適切であるとしている。ADは、極めて一般的な認知症の原因である。神経系が破壊されるこの病気は、毒性タンパク質であるβ-amyloid (Aβ)の脳内蓄積によって起こるものと信じられている。この病気を阻止するには、Aβ生成を抑制する物質の開発が必要と考えられている。Aβの脳内蓄積を減少するには免疫系の強化が一つの方策となる。
 Aβの毒性の問題があるから微生物の発現系ではその生産を行なうのは難しいので、植物細胞での組換えタンパク質の発現を検討した。トマトがワクチンの生産に選ばれた。その理由は、熱をかけずにそのまま食べられるので免疫機能を上げる異種タンパク質を破壊するリスクが減ずることにある。GMトマトの全抽出物を経口投与してマウスを免疫したところブースターを投与後、免疫反応がみられた。この結果は、勿論未だ極めて早期の段階にあるが、食べることの出来るADに対するワクチンの第一段階の成功を約束するものと考えられると研究者たちは評価している。
Biotechnology Letters に発表されたこの報文は以下のサイトにある。
http://www.springerlink.com/content/63756gk168471265/fulltext.pdf 
また要旨は以下のサイトで見ることが出来る。t http://www.springer-sbm.com/index.php?id=291&backPID=13182&L=0&tx_tnc_news=4591&cHash=cbda703f83