HOBIAほかの主催で、「組換え作物の現状と将来:日本、アジア、世界」をテーマに、国内3ヵ所(東京・大阪・札幌)で標記シンポジウムが開催されました。
札幌では5月26日(土)、HOBIAとバイオインダストリー協会の主催により、北海道大学学術交流会館で行われましたので、その概要を報告します。
まず、「わが国における組換え作物の動向」と題して北海道農業研究センターの佐藤 裕氏から講演がありました。世界における組換え作物の栽培状況、日本で食品として安全性や栽培が承認されている組換え作物の状況から始まり、日本における開発状況が紹介されました。生産性向上を目的とした組換え作物、いわゆる第1世代では、不良環境耐性の強化を狙った研究開発が、機能性等を付与する第2世代では花粉症緩和米、CoQ10含有米等の開発が、環境修復等への応用が期待される第3世代では土壌中のカドミウムを除去するタバコなどの開発が進められており、北農研センターでは本来稲が持っている遺伝子の高発現により冷害耐性を強化した稲などの開発を進めていることが報告されました。
次に「アジアにおける組換え作物の現状とゴールデンライスの研究開発」と題してフィリピン稲研究所のDr. Rhodora R. Aldemita女史から講演がありました。フィリピンでの組換え作物についての法規制の紹介があった後、Btコーンが普及し始めていること、ゴールデンライスの研究開発の進捗状況が紹介されました。
アジアやアフリカでは、ビタミンA欠乏による乳幼児の死や視力障害が深刻な問題となっていることを背景に、ビタミンAを胚乳に含むゴールデンライスの開発が進められました。ドイツの大学を中心にまずカロテノイドの生合成系に関わる2つの酵素遺伝子を導入しビタミンAを産生する稲が開発され、その後胚乳特異的プロモーターを組み込むなどして、飛躍的に含量を向上させることに成功しました。現在はフィリピンのほかベトナムや中国なども加わったゴールデンライスネットワークで開発が進められています。フィリピン稲研究所ではこれらの稲の特性のフィリピンの品種への導入を進めるとともに、貯蔵中のビタミンAの安定性や摂取による有効性の検討などを進め、2011年からの普及を目指しているとのことでした。
特筆すべきはフィリピンのパブリックアクセプタンスへの取り組みで、飽食の日本とは背景が違うとはいえ、組換え作物についてのシンポジウムの開催やマスコミを利用した大々的なキャンペーンにより多分野の方々が有用性を認めるに至っているとのことでした。
パネルディスカッションでは両氏に冨田会長を加え、会場からの質問に答える形で議論が展開されました。
(企画運営委員 大同 久明 記)