「HOBIA-近畿バイオ交流事業」 実施報告

去る7月4日(水)、旭川ターミナルホテルにおいて標記事業(講演会)が、42名の参加を得て開催されました。また、講演会終了後には交流会も行われ、近畿バイオインダストリー振興会議との親交を深めることができました。以下に、当日の講演内容を紹介します。

== 基調講演 ======
【演 題】「森林バイオマスの有効活用」
【講演者】北海道大学名誉教授 寺沢  実 氏

これまでの林業においては、木材としての利用価値から真っ直ぐ伸びた木材が重要だった。木を植えてお金になるまで50~60年の時間がかかるので、今は伐採後の植林をすべきかが問題になっている。シラカンバなどを平地で造林ができると、機械化などで作業がし易いので非常に都合がよい。休耕地などを利用する方法(農用地備蓄林)も考えられる。樹木の生活組織(葉、花、果実、形成層(樹液)、内樹皮など)の利用も今後の課題である。間伐材の利用やその他のバイオマスの利用、平地での植林などが重要になってきている。
今日は、主としてオガ屑の利用についてお話しする。①オガ屑を使ったエネルギー原料としての木質ペレットの生産では、人件費などの問題で石油には、まだ十分には対抗できていない。②バイオエタノールの生産の場合でも、リグニンの有効利用ができないとペイしない。エタノール生産には農産物原料の方が圧倒的に有利だが、将来の食糧難の時代を考慮すると、木質からのエタノール生産にも意味が出る時代が来るかも知れない。③活性炭は、水の浄化などの大量使用を考えると木質に有利さがある。④木質のガス化も最近研究が進んできている。水素ガスの生産の研究は面白いが、ようやく燃料電池用のガスの生産が実用レベルに達したところである。⑤オガ屑の消臭作用を利用したり、キノコの菌床への利用、ボードへの加工などの利用がある。⑥オガ屑から有用物質・機能性物質(リグナン、キシラン、フラボノイドなど)を抽出利用することも重要である。抽出した後のオガ屑を「人工土壌マトリックス」として利用できる。⑦バイオマス廃棄物の無臭分解消滅や資源の循環を考慮したホタテウロなどの処理・カドミウムの海洋への徐放など、奥の深いものがある。
ここでは、オガ屑を「人工土壌マトリックス」として利用する例として、バイオトイレを紹介する。バイオマス廃棄物である生ゴミや屎尿、家畜糞尿は、オガ屑と混ぜることで臭気の発生を伴わずに分解・消滅させる事が出来る。使用後のオガ屑は、有機肥料や土壌改良材などになる。
屎尿の分解には屎尿側の存在するバクテリアではなく、オガ屑や土壌にいるバクテリアが有効に働いていることが判明した。即ち、オガ屑にγ-線照射を行って存在するバクテリアを殺生すると屎尿の分解が進まない。屎尿分解の主役は、オガ屑に存在したバクテリアが主要な役割を担っており、その主なものは、好気性菌で、バチルス属の耐塩性・耐アルカリ性・耐高温性のバクテリアであった。
オガ屑の特徴として、高い空隙率(85~90%)、適度な保水性(35~40%)、保気性(50%)が挙げられ、見かけ比重が小さいので撹拌が楽で省エネ的である。リグニンの存在から・耐摩耗生や抗菌性があり、長期間の使用に耐える。顕微鏡写真によれば、オガ屑の粒子自体に大きな空隙があるとともに、粒子と粒子の間に更に大きな空隙があることが分かる。この空隙の多さがオガ屑を好気的条件に保持することに貢献しており、好気性の維持こそがオガ屑の特殊能力である。5~6ヵ月ほどは使い続けることができる。
木質廃棄物は、日本国内では年間8,000万tも生成しており、十分な量がある。しかし、問題は生じる場所が各地に散らばっていることである。オガ屑を集めることは空気を運ぶことに等しい状況となり現実的ではない。発生現場近くで処理活用することが重要である。そこで、オガ屑をバイオトイレに利用する事を提案する。
バイオトイレは移動可能で、災害時やイベント時に有効であり、介護用に室内にも置ける。トイレの仕組みは簡単で、反応槽にオガ屑を入れ、撹拌と保温と排気がしっかりできれば良い。日本人は1人1日で1Kg強の屎尿を排出するが、その94%が水である。水を蒸発すれば、残りの6%の固形分は好気的に分解消滅が出来る。好気的条件下では、ウリアーゼの生成が抑制されアンモニアの生成が抑制され、臭いがしない。また、オガ屑にはペクチン質のカルボキシル基やリグニン中のフェノール性水酸基などが、アンモニアをトラップし、アンモニアの揮散を抑制する。屎尿の80倍量のオガ屑があれば、ほぼ臭気を発生させずに屎尿を分解消滅させる事が出来る。各地で下水処理能力の限界が想定されている問題からも、水を使わないバイオトイレは注目されている。
家畜糞尿処理装置で、1日1t処理できるものを作って実験している。このように、オガ屑の産出される地域では、オガ屑の有効利用の一つとして、生ゴミ・屎尿・家畜糞尿・農水畜産加工残渣などのバイオマス廃棄物の無臭下での資源化・循環処理への活用が期待出来る。
なお、「おがくずを用いた乾式屎尿処理装置の開発」で、平成17年度の第32回環境賞を正和電工(株)と北海道大学とで共同受賞した。

Q:植林の際は、北海道では何を植えればよいのか?
A:30年では価値が出なかったが、50~60年生のカラ松はとても良い木材になった。50~60年育てると、檜とまでとは言わないが、杉材に勝る価値が出て、本州方面に高値で出荷されつつある。トド松は植林の仕方を間違えると、水分の多い材(水喰い材)になってしまうので注意が必要である。国内でログハウスを作る場合は、カナダやフィンランド材には価格では負けるが、乾燥による亀裂や変形できにくい点では国産材のカラ松が優れている。
杉のオガ屑も、バイオトイレに適しているので、どうか有効利用してほしい。また、下水道があるところでは水洗トイレしか認められていないが、法律を変えるべきである。
Q:間伐材を使ったストーブは無いのだろうか? 奈良では、間伐材で炭を作ってダムの水質浄化に使っている。また、木の根は利用価値がないか?
A:木質ペレット用のストーブが開発されているが、まだ一般的ではない。木の根の利用には一般的には粉砕の必要があり、土砂・石などの除去が問題である。ただし、炭化して水浄化に使う場合は、多少の土砂や石の混入は問題ない。
Q:地元で成長の早い柳の植栽をしているが、そのオガ屑はバイオトイレに使えるか?
A:使えます。一般的に広葉樹の場合、そのリグニンの構造上、針葉樹に比べ摩耗しやすい。摩耗して細くなったオガ屑の粒子は、保水性が高くなり水分を放しずらい。水分の蒸発を促進する工夫で対応できる。但し、全体的に使用期間が若干短くなる。木質以外のバイオマス廃棄物である麦桿、稲藁、籾殻などをバイオトイレに使用すると、使用期間がさらに短くなり取り出し作業が頻繁になる。しかし、堆肥を作るための機械と考えれば、堆肥の需要の高い地域では有効であろう。

=== 企業発表1 ======

【演 題】「特産キノコを用いた商品開発」
【講演者】㈱スリービー 品質管理室長
冨山 隆広 氏
当社は北海道南幌町にある会社で、食を通して人々の健康に貢献しようという経営理念のもと、「たもぎ茸」を使用した製品を製造している。平成17年度には、食品産業優良企業等表彰・農林水産大臣賞を受賞している。
たもぎ茸は、ヒラタケ科ヒラタケ属の夏場に生えるきのこである。当社は昭和60年に人工栽培を始めた。カラマツのおがくずをポリ容器にいれて菌床としている。今年3月に「エルムマッシュ291」という名称で品種登録を行っている。このきのこの特長は、日持ちが良い、栽培期間が20日間程度と短い、食品としての機能性などである。免疫賦活力などすぐれた高機能性があるといえるだろう。
私たちが大切に育てている「たもぎ茸」を100%有効活用する三つの方針がある。
一番目は、刈り取った「たもぎ茸」をフレッシュなまま自動包装したのち1株1株丁寧に仕分けして「自然がくれた旨み」を北海道内スーパー・市場に出荷することである。
二番目は、刈り取った新鮮な「たもぎ茸」を短時間ボイルして、無添加・無着色のレトルトパック製品にした。全国学校給食会やびっくりドンキーなどの業務用素材として「安全・安心」で「栄養豊富、調理しやすい」と評価され採用されている。
三番目は、たもぎ茸の持つ豊富な機能性成分分析、効用などのエビデンス取得とそれらの研究成果を製品化することである。免疫力賦活作用に優れる(1→3)βグルカンの優位性に着目して、平成13年5月健康食品「バイオゴッド」として製品開発に成功、HBCビタミンテレビに取材され大きな反響を呼んだ。現在は、ツルハドラッグが準PB商品として販売。また、創業126年の歴史を持つ生薬メーカー太田胃散が「バイオゴッドゴールド」ブランドで販売するなどして全国に販売拡大中である。
本日は、講演会の場なので、大学などとの共同研究の結果もお話しするが、バイオゴッドには抗腫瘍効果があり、免疫抑制効果がある。また病院での臨床データでは、アトピー患者さんの4分の1くらいが、症状が軽減したと答えている。
今後も、エビデンスのある商品開発を行っていくものであり、今年度は、平成15年度から研究開発中の「グルコシルセラミド」を製品化し、試験販売を予定している。弊社の大黒柱になる事業に発展するプロジェクトとして取り組んでいる。
私たちのこれまでの実績は、北海道大学、札幌医科大学、北海道立旭川林産試験場、北海道食品加工センター等の研究機関、北海道、北海道経済産業局、北海道科学振興財団等の各機関等、大変多くの機関や企業・個人等のご協力のおかげであると感謝している。

=== 企業発表2 ======
【演 題】「HEFL照明による人工植物栽培技術」
【講演者】日本アドバンストアグリ㈱ 辻  昭久 氏

当社は、滋賀県長浜市に本社を置き、野菜の人工栽培(植物工場)技術開発を行っており、すでにリーフレタスやベビーリーフを地元の大手スーパー「平和堂」にてテスト販売を開始している。リーフレタスに関しては、この8月から日産200株程度の出荷を予定している。親会社は、照明器具メーカーで、家庭用、業務用照明器具の設計、製造やバックライトの加工、検査などをおこなっている。
リーフレタスは、種植えから39~40日程度で出荷できる。店頭販売においては、大きさや見かけが非常に重要で、当社製品は1株あたり、Min.100gという重量のものを出荷している。
既存の野菜の人工栽培で使われている照明は、高圧ナトリウムランプ、蛍光灯、LEDなどがあるが、それぞれ長所短所を持ち合わせている。例をあげると、蛍光灯は、安価だが発熱が高く、光を均一に野菜へ照射するのが難しい。 LEDでは、赤波長の均一性は高いが、見かけの良い野菜の生産が難しく、1株あたりの重量が小さくなるなどの短所がある。また、予想以上に、ランニングコストに課題がある。
当社が開発したHEFL(ハイブリッド電極蛍光ランプ)照明装置は、実績の高い大型液晶テレビに使われるバックライト(4mm径、890mm長)を改良、利用し、次のような長所がある。
① 照度が非常に安定しており、長寿命である。
② 植物の成長に必要な青と赤の波長が強い。
③ 発熱が少なく、植物への超近接照明が可能となるため、栽培の棚数を多段化することで高収穫育成装置が設置できる。
④ 平面に光を均一照射できるため、均一な光を照射でき、野菜の歩留まりが向上する。
⑤ 空調、照明のランニングコストが低減できる。
当社栽培の農薬不使用、日持ちの良い野菜、高い栄養価、安定生産のできる野菜は今後の天候不順や消費者の安全志向から、ますます市場で求められていくだろうと考えている。
今後は、付加価値の高い野菜、薬草などへのアプリケーションの転換も図って行きたい。
さらに、照明技術や栽培技術の向上を図り、本格的な事業化に向けて、熱意を持って、社会、環境に貢献できる事業として、進めて行きたいと考えている。
参考WEB  日本アドバンストアグリ
http://www.adv-agri.co.jp/
新しい農業を創造します。
http://www.biwa.ne.jp/~tsujiko/
ママズ・ファーム
http://mama-farm.jp/

=== 企業発表3 ======

【演 題】「BDF事業の現状」
【講演者】㈱ペカルト化成 篠原 泰則 氏

当社の歩みも含めて、BDF事業について紹介する。日本とドイツにおけるBDFの生産の大きな違いは、ドイツでは新しい油で生産しており、軽油取引税はなく、過去形になるが任意の混合比率で軽油と混ぜることができたことである。現在、日本においては廃食用油を用いることになっており、採算性の問題からも新しい油で作っているところはなく、間もなく操業する帯広の事業所では2番搾油で作り、ここだけが廃油を使わない所となる。食用油がBDFになると、メチル交換でグリセリンが落ちるので、廃グリセリンの処理が必要になる。界面活性剤の技術を用いて廃グリセリンと廃油をエマルジョンとして、これを燃料とする方法を当社では取っており、この熱で工場を動かすようにしている。他社では飼料に混ぜるとか、製紙会社のボイラーの補助燃料などにしていると言うが、本当かどうか分からない。
3年前に京都と松山のBDF製造と利用の例を見てきたが、廃グリセリンの処理と原料の調達、製造したBDFの売り先を重点に調べた。京都では100ヵ所ほどの廃油ステーションがあり、ここでは一般の市民から集めていた。5,000?を処理できる大きな装置だったので確認したが、廃油をやはり業者からも1?当たり20円で買っていた。現在、小規模なところでは廃油の取り合いになっており、今や200?のドラム缶1本5,000円の値段が付いてしまった。現時点では当社の装置が北海道内最大で、2,700?/日生産可能である。無人運転可能な装置で7時間に900?生産可能だから、計算上はこれだけ処理できる。
廃油には水分が付き物なので、これを除去する必要がある。そうしないと、苛性ソーダを使う都合から、廃油が石鹸になってしまう。自治省の産業高度化事業をいただき、寒冷地対応の低温流動性の高いBDF生産を検討した。その結果、旭川の気温で利用可能なBDF生産ができるようになり、旭川市の清掃トラックに利用してもらうことになった。安定した廃油の回収を目指し、今年の8月から旭川市内の40ヵ所で回収ステーションを作ったが、回収できる量には不安がある。試験的に3ヵ所のステーションから1ヵ月にどれだけ集まるか調べたところ、140?だった。しかしそれは旭川市の推定排出量にほぼ等しいものである。当社の工場はニートFAMEの規格を満たしており、設置費を含めた機器の価格は2,400万円だったが、100円/?でペイする最低水準でもあると思う。原料は消防法上一番保管規制の緩い指定可燃物であるがBDFは第三石油類であり一定の施設基準が必要、BDFはエンジンの改造無しで使うことができる。一般のガソリンスタンドでの販売は許されてなく、公共の車両のみでの使用が許されている。本来はこうした公共性の高い仕事は行政がするべきだと思うが、委託加工という立場で臨むつもりである。
当社としては、行政とリンクして地域ごとにそうした企業ができるのが望ましいと思う。
廃油利用方法としては、インキやペイントの溶剤やボイラー燃料として使っているのが多かった。BDFが有名になってしまい、そうしたものを作っている業者に原料が回らなくなっている。自身が廃油を扱う産業廃棄物処理事業者でもあるので、他の事業者が苦労している様子を見ると、業界の将来が心配になる。行政にも何らかの配慮を求めたいところである。

Q:廃油の中の水分量とその除去の方法は?
A:水分は、真空にして70℃の低温加熱で除く。水分は排出するところによって様々だが、中に入っているゴミの除去の方が問題である。揚げかすなどがあるのは仕方ないが、タバコの吸い殻など入るはずのないものも入っている。水分の除去よりもメチル化の方が重要で、メタノールを過剰に入れて処理している。メタノールは原料の中で一番高価で、1?当たり125円もするので、回収して再利用するようにしている。
Q:BDFの品質保証は?
A:清水の舞台から飛び降りたつもりでHPLCを買って、処理バッチ毎に検査している。

=== 企業発表4 ======
【演 題】「ベンチャー企業経営の醍醐味」
【講演者】クリングルファーマ㈱ 岩谷 邦夫 氏

今日のテーマは先月、近畿バイオインダストリーの総会で話した内容だが、北海道の皆様には初めての話になると思う。新規事業を始めることに日本では欧米に比べて大変な抵抗感があり、若い人がどのような企業を選んで就職しているかの統計を見てもベンチャー企業を選ぶ人は大変少ない。以前勤めていた武田薬品時代には、欧米亜での海外法人の立ち上げなどの仕事をし、ベンチャー企業の立ち上げ的な仕事を数々経験した。又北陸製薬にいた時代には外資の傘下に入り、TOBを伴うM&Aの経験もした。このような経験から私自身ベンチャーを立ち上げ経営することに特別な抵抗はなかった。そしてクリングルファーマへの参加を決めたのは創業者の大阪大学中村先生、松本先生との出会いである。両先生にはガンで苦しむ患者さんのために制ガン剤を開発したいという情熱があり、それに強く惹かれたことから参加することになった。両先生のNK4の発見は癌学会賞等を取るほどの業績だが、日本の製薬会社は興味を示さなかった。そこで自分たちでNK4を薬にするためにベンチャーを作ることになったわけだが、会社の理念としては「NK4ならびにHGFの研究開発を介して、病に苦しむ患者さん、世界の癌患者さんを新しい治療法によって救済します。」というものだ。その後多くのVCの賛同を得て資本金も8億6250万円となった。プロジェクトとしては、NK4を医薬品とするための研究開発とHGFを医薬品とするための研究開発の2つを推進している。
MK4は、ガン細胞の浸潤・転移を防ぐ機能を持っている。分子標的抗ガン剤市場は2005年から2010年までに0.9兆円から2.5兆円になり、我々の商品は将来的に非常に有望である。最近のトレンドはマルチ・ターゲット・インヒビターで、まだ市場に出されたものは少ない。HGF-cMet系をターゲットとするものは今後増えると思われる。
もう一つGMPレベルでの製造に成功したものは、内因性再生・修復因子HGFだが、肝臓や腎臓、肺、血管、心臓、皮膚、脳。神経系、循環器系などの疾患に効果がある。対象とする疾患によって異なるが、動物試験からフェイズⅠやフェイズⅡを準備中のものもあり、今後も対象疾患毎に提携することを考えている。
ベンチャー企業を支えるのは3つのPで、特許(Patent)、人(Person)、情熱(Passion)であると思っている。初期には人集め、お金集めなどの会社の基盤作りに忙しかったが、GMP対応の製造に成功するなど物作りの体制が漸く整った。大学発ベンチャーにおいては、研究開発と知財の取得、研究者と経営者とのコミュニケーションなどが課題となる。その他の経営課題は、一般的ベンチャーと同じである。研究開発型ベンチャー企業なので、それに見合った人材が必要である。人材の中で見つけるのが難しいのは、開発経験者と財務担当者(CFO)である。解決策として考えられるのは、自社で育てるとかNEDOフェローの利用、それに他社から引き抜きをしての雇用などである。今後関係者が考えるべき事は、500もあるバイオベンチャーの再編による人材、資金等の効率的活用であろう。
今の上場バイオ企業はまだまだ小さいがそれだけに作り上げていく面白さがあり、将来性もある。アメリカの企業との間には差があるが、まだまだ伸びる余地がある。ベンチャー企業の成功は、産官学協力の成果の好例である。官からの協力の中でも「革新的創薬の為の官民対話」など、育成策の質を高めてきており、今後は支援策もさらに増えそうである。ベンチャー企業経営の醍醐味は色々あるが、何よりチャレンジする事の爽快感、達成したときの喜びなど何物にも変えがたく、多くの人にもベンチャー企業経営に参画し同じ気持ちを感じてほしいと思う。

Q:ベンチャー志す人材が大企業にいると、何処が拙いでしょう?
A:大企業は組織で動くので、取締役会での力関係や、提案が上層部に到達するまでの障壁が大きい。
Q:ベンチャーには特許がないといけないとのことだが、基礎的な研究では特許が取りにくいし、多国間特許を取るのは大変だと思う。そのためのお金集めはどうしているか?
A:確かに大学では特許を取るのは大変だが、実用化のためには起業するか既存の企業と組むとかするしかないと思う。当社でも特許維持だけで大変であるが、自社の知財戦略委員会では戦略的取捨選択をしている。大学の先生は学会発表をしたがる傾向があるので、特許取得を優先する習慣を付けるべきである。お金集めは一番の問題だが、VCに本音の話をして信用を得て、共感できるVCと協力して行くべきである。
Q:この講演の結論は、ベンチャー企業には岩谷さんのような社長が必要ということだと思うが、どうしたらそうした人が見つかるだろうか?
A:中村先生とは直接の面識があった訳でもないのだが、仲立ちをしてくれる人がいて、先生方の情熱や自分自身の環境の変化が後押しをした。幅広いネットワークが役立つと思う。