「第23回北海道バイオステージ」 実施報告 Part 2

 前号に引き続き、今夏8月24日(金)、「バイオ技術の活用事例と発展性」をテーマとして、函館市産学官交流プラザにて行われた標記事業(講演会)の講演内容を紹介します。

=== 講演3 ======
【演 題】「小型海水電解殺菌装置の開発と水産分野への応用」
【講演者】北海道大学大学院水産科学研究院 助教 笠井 久会 氏

 水産養殖、水産加工では、海水を多用している。海水を殺菌できれば、防疫ならびに漁獲物の衛生管理などで種々役に立つ。海水を電気分解する海水電解殺菌装置を大学と企業で小型化し、水産物の安全性を容易に高める技術を開発できたので紹介する。
 食塩水に電気を通すと低い濃度の次亜塩素酸が発生する。厚生労働省にも認可されて既に食品加工現場で使用されている。
 海水を用いて、電解機に水を通すと次亜塩素酸が発生する装置となる。海水の電解水は既に使われている。代表的なのは、発電所のパイプへの貝類の付着防止の用途であるが装置は大きい。中小企業でも買える価格の機械ならニーズがあると考えた。
 小型化した海水電解装置で作った電解水を用いて、有効塩素濃度0.1~0.4 mg/mlで、魚類病原菌への殺菌効果を調べたところ、生菌数を0.01%以下に減らすことができた。
 一方、電解水のヒラメに対する毒性を調べたところ、有効塩素濃度0.5mg/L、140分で全数死んでしまった。そこで、使用後の余分な塩素を除く必要が出てきた。活性炭素層を通すことによって電解海水中の塩素を除くことができた。
 なお、一部を電気分解して、普通海水と合流させて使用する方法で、より大量の海水を処理することも可能である。
 魚の養殖において、稚魚の飼育用濾過海水を殺菌し、飼育槽からの排水を殺菌することによって、魚の健康を保てるとともに、排水にも病原微生物がいない養殖を実現できる。さらに飼育器具類の殺菌にも使われている。
 従来の方法と比較してみよう。原液の次亜塩素酸の添加と比較すると、原液を0.2mg/Lまで希釈するのは、数トンもの量を考えると、濃度を均一にする操作が必要で、手間がかかる上に均一になったという保証が得にくい。紫外線による殺菌も装置としては販売されているが、現場海水をろ過せずに紫外線殺菌しようとすれば、その効果は低い。しかもランニングコストは高い。
 めざしているのは、漁場から食卓までの安全性である。実際は、漁獲から加工場に至るまでは、法律や制度的にも食品衛生の管理が行き届いていない。管理できると安全性への効果は高い。
 標津漁港をモデルにした実証試験を行った。酪農地帯を背後に控えそこを通る川の河口が漁港の側にある。漁港での大腸菌の検査をしたところ、大腸菌群ならびに大腸菌が検出され、比較するために測定した道内29漁港すべてで大腸菌群が検出され、1000菌体/100mlの漁港も多かった。
 衛生状態改善の事業を実施した。経産省の予算で、7隻の漁船に電解装置をつけた。漁船の器具類を電解水で洗い、漁獲後の魚も洗浄することで、港内海水による漁獲物の汚染を防ぐことが可能となった。また養殖の牡蠣を電解水0.3mg/Lで処理すると、生牡蠣の成分規格の大腸菌230菌体/100g以下を達成できた。

Q:中国産のウナギでマラカイトグリーンが話題になっているが、電解水と比較するとどうですか?
A:マラカイトグリーンは、水カビに対して高い効果がある。電解水では、カビに対しては、試験していないので比較はできない。
Q:機械を小型化したということだが、実際の価格はどれほどか?
A:電解水製造が10トン毎時で数十万円です。
Q:牡蠣と言えば、細菌よりもノロウイルスの方が重大です。抗ウイルス性能は、いかがですか?
A:ノロウイルスに対しても試験をしているが、結果がまとまったら改めて発表します。
Q:電解水は、製造後どれほど保存できるのか?
A:保存性は、温度と日光と時間に左右される。製造されてすぐ使うことを勧めます。
 
=== 講演4 ======
【演 題】「小豆食酢の開発とその特性」
【講演者】北海道立食品加工研究センター 醗酵食品科長 田村 吉史 氏

 株式会社丸勝(帯広)との共同研究により小豆を原料にした食酢を開発した。今週の日曜日(2007年8月26日)に㈱丸勝より帯広の藤丸デパートにおいて販売される。本日は小豆食酢の開発経緯について報告する。
 豆は、大きく大豆類と雑豆類に分けられる。大豆はタンパク質(38%)が多いのに対して、小豆は炭水化物(58.7%)が多く、ずいぶんと性質が違う。小豆は国内で9.1万トン作られており、北海道が全体の76%と多く、なかでも十勝が日本最大の産地である。十勝において、小豆は輪作体系の中で必要な作物なのである。
 小豆のイメージ調査をすると、「甘い」のほかに、プラスイメージは、「健康によさそう」などがあり、マイナスイメージでは、「調理に時間がかかる」などがある。ここから手軽に小豆を摂る方法があれば摂りたいと考えている人たちがたくさんいることが分かった。小豆は炭水化物が高く、ポリフェノールも多いことを利用して酢を作ることを検討した。市場では、いろいろな種類の酢が販売されている。大きく3種類あり、①としては、リキュールタイプで、既存の酢にいろいろな原料を漬け込むまたは混ぜたもの。②としては、原料に購入したエタノールを入れて、酢酸発酵だけを行うもの。③としては、原料から酒を造って、次に酢酸発酵をするもの(本格醸造酢)。我々は、本醸造の小豆酢を作ることにこだわり検討を行った。
 食酢を作るには、まずアルコールを造らねばならない。しかし、これまで小豆からアルコールを造ったことはなかった。雑豆類はデンプンは多いが、加熱すると餡になるため麹による糖化が出来ず、アルコールや酢の原料には用いられなかった。
 小豆食酢の開発では、十勝産小豆を原料に用いた。小豆を加水、加熱した後、粉砕して、酵素と酵母を同時に作用させる並行複発酵法を採用した。酵素としては、プロテアーゼ、アミラーゼ、ペクチナーゼ、キシラナーゼ、など数種を混合して使用して液化糖化を進行させ、同時に酵母スターターを加えて、アルコール発酵を行った。これにより腐敗を抑えながら充分な量のアルコールを確保する。本試験では醸造協会清酒用酵母701号を用いた。酵素の組み合わせをいろいろ試験し、その中から上澄みがきれいで回収量が多かった組み合わせを採用した。アルコール発酵終了後、固液分離を行う。アルコール発酵の終わった液は、汁粉のような感じで固液分離が難しく、プレスでは分離が難しく、遠心分離により分けている。得られた上清に酢酸菌Acetobactor pasteurianus IFO14814を添加して、酢酸発酵を行った。
 醸造された小豆食酢を市販の酢と比較すると、蛋白質量は10倍、ミネラルは3倍高い値であった。遊離アミノ酸は、鹿児島県産黒酢の2倍、そしてグルタミン酸は4倍含まれており、うまみの濃い濃厚な風味となった。ミネラル分では、カリウムおよびマグネシウムが格段に高く、ポリフェノール量も鹿児島県産黒酢の1.5倍であった。小豆酢は健康機能性を期待させる成分が特徴的に高い値となっていた。
 本小豆酢は、270ml入りで1,575円(税込み)と一般的な食酢よりも高価な商品である。今後は回収率の向上や機能性の検討および用途開発など、さらに検討が必要と考えている。