地域バイオ推進育成講座IN函館 「DHA、EPAの健康作用」~さらなる活用を求めて~

平成16年10月8日(金)14:00~17:00、函館ハーバービューホテルにおいて、企業関係では日本化学飼料、北海道乳業、研究関係から北大水産学部函館水産高校、道立工業技術センターなど参加者10名で開催された。
基調講演には「海洋微生物による有用脂質の生産と応用」と題して、広島大学大学院先端物質科学研究科助教授 秋 庸裕 氏にお願いし、その後HOBIA冨田会長をコーディネーターとして討論会を行った。  
秋先生の講演及び討論会の概要は以下の通り。 


[基調講演]
日本の食生活はアメリカ型に近づいており、食生活における油脂中の不飽和割合を6%~42%(USA)から’60年代の日本の10%~30%に上げることをめざすべきだ。それには不飽和脂肪酸の生産高め、応用を考える必要がある。
ドコサヘキサエン酸(DHA)は青魚などに多く含まれていて、食べると頭が良くなると言われている脂質成分。動脈硬化、炎症やガンを抑える働きもあり、健康食品の素材として注目されている。しかし、魚から取り出して精製するのは効率が悪いなどの問題があった。海洋微生物によって不飽和脂肪酸が作られることは以前から知られていたが、特にラビリンチュラ類Schizochytrium limacinum
SR21は高い増殖性と脂質蓄積性を示すドコサヘキサエン酸(DHA)生産性海洋性微生物であり,DHAの工業生産への応用が検討している。オレイン酸からDHAに至る生成工程において、その途中を阻害剤で止めればEPAなどの他の有用産物を得ることができる。
ラビリンチュラは生物種で言えば、クロミスタ類に入り海洋の一次生産物である。凍結保存や形質転換しやすく使いやすい微生物である。分裂が早いので生産性が高い。
現在、KH-105を使って発酵漕での生産を行っているが、空気の送り込みが重要で、リパーゼを入れてやるとDPAの濃度を上げることができる。1回の工程の生産効率は40~70%、もう1回やると90%まで行ける。この他界清算効率をもとに企業化が検討されている。
 
今後の仕事はコスト下げることである。遺伝子操作で形質転換して機能を向上させることも目指している。
[討論会]
質疑では冨田座長の主導で、主に実践的な話題で進行して有意義なものとなりました。
・日本化学飼料より、自社の生産実績ではリパーゼ処理を5~6段もやっても70%まではとても行かない。秋先生の実績は驚異的である。今後指導していただけないかとの要望が出された。
 ただ、広島では既に実用化に向けて動き出しているので、かんたんに参入できる状況にないと思われるが、穂刈氏の熱望は十分伝わったものと思われます。
・ラビリンチュラは海水中の炭素源あるところに至る所いて特異な生物ではない。(例えばマングローブ、海草などの生育地域)
・タカ、トンビの眼球の後ろにはDHAがたくさんあることが知られている。このDHAは獲物をねらって急降下する時の、眼の素早い動体視力コントロールに大きな効果を発揮していると言われている。アスタキサンチンも動体視力に効果ある。
DHAの食品への応用例では、DHA入り植物性油のドレッシングがある。函館地域では、DHA入りラーメンが開発されている。DHA入りヨーグルトは試してみたが臭いが残ってうまくいかず、今は取り組まれていない。
EPAの製法もこの方式で効率的にとれれば魅力的である。EPAはすでに医薬品になっているので、高価格の確かな市場が存在する。日本化学飼料では従来法での医薬品仕様のEPAを製造していて医薬品ノーハウを持っているので、むしろEPAの濃縮しやすい製法をぜひ欲しい。
秋先生の研究はDHA中心でEPAについてはやっておられないことから、共同研究の可能性はあるものと見受けられた。
日本化学飼料では現在イワシを原料としている。イワシだと最初から脂肪酸の種類が多いので、効率的なEPA濃縮が難しい状況にある。
EPAの医薬品としての効果はハンチントン病に対してはデータがとれている。また、うつ病にも効果が期待されており、マーケットが極めて大きいと期待されている。
 本講座では、DHA入りヨーグルトの開発テーマが出され、コンソーシアムを作って地域新生コンソーシアム公募への挑戦の企画が検討された。
USAやオーストラリアなどでは、既にDHAをアイスクリームなど乳製品に入れる研究が行われているが、魚臭を消すのが難しいらしい。今はDHA入り飼料を与えて腸から吸収させる方向のようだ。
カルシウムの腸管吸収研究の実績のある冨田先生から、飼料に入れて牛の体内で効率よく取り込ませられないかなど応援意見も出て盛り上がりました。この件は、その後の懇親会でも話題になり、ぜひ企画を固めようという方向が強くなったと思います。
 この度の地域バイオ育成推進講座in函館は、参加者は少数ではあったものの、当事者意識の高い専門家の参加によって大変深い議論になりました。研究開発の企画話も出て今後、秋先生と地元産学官、さらに北大を含め連携が深まることが期待されます。(文責 西陰研治)