NPO近畿バイオとの交流協定記念講演会講演要旨

去る6月28日、NPO近畿バイオインダストリー振興会議との交流協定記念講演会を開催し、5名の講師に講演いただきました。以下に松村健氏の講演要旨を報告します。4名の方の要旨は次号に掲載いたします。

「機能性分子発現組換え植物の開発」

 (独)産業技術総合研究所ゲノムファクトリー研究部門
植物分子工学研究グループ・グループリーダー 松村 健 氏

1.はじめに

現在,遺伝子組換え作物(GMO)の栽培面積は6770万haで日本の面積の1.7倍であり、栽培されている作物としては、組換え大豆が最も多く、全体の約61%を占める。国別作付面積では米国、アルゼンチン、カナダ、ブラジル、中国、南アの順であるが、EUでも近年作付けされている。これまでのGMOのイメージは生産者にメリットを感じるが、組換え技術は他にも波及する技術であり、これからは物質生産や健康機能性を追求する方向にある。また、環境や花などへの応用も可能である。

2.医療用タンパク質を植物で作らせる意義

近年、医療用タンパク質生産は、飛躍的に増加する需要に比べて動物細胞培養タンクの絶対数が少ないこと、培地が高価でしかもウシ血清利用に伴うBSEの問題等がある。この医療用タンパク質を植物で作らせたら安価に、かつ、病原体購入のリスクを極めて低減できる。現在、抗体、ワクチン、血液製剤、サイトカイン、治療用・産業用酵素等の植物生産系が欧米企業で盛んに研究されており、その出資元は、ジョンソン&ジョンソン、イーライリリー、ノバルティス、ダウ、モンサント、デュポンなどの大企業である。

3.経口ワクチンの開発

我々のグループは、ヒト・動物由来サイトカインおよび経口ワクチンの開発を行ってきている。最近では、ニワトリの原虫病ワクチンの開発で成果を見出している。ニワトリ原虫病は、国内で年間数千万羽が罹患し、その被害は大きい。また、孵化のヒナへの注射によるワクチン投与は、雛の成育に伴い、その力価はだんだん落ちてくる。しかし、もう一度ワクチン注射するには、一軒の養鶏農家の飼育羽数が数万羽から数十万羽であることを考慮すると不可能に近い。経口ワクチンがあればエサに入れるだけでいいが、大腸菌生産ではコストがかかりすぎる。そこで、ニワトリに対して感染性のないウイルス外被タンパク質の遺伝子にワクチン遺伝子を連結して、ジャガイモで経口ワクチン成分を作らせた。このジャガイモの葉を凍結乾燥し、粉末化して鶏に飼料と混合して食べさせたところニワトリ血液中の抗体力価が上昇し、ワクチンとして有効であることが確認できた。

4.機能性食品 -ラクトフェリンの発現-

苺の果実で牛乳のラクトフェリンと言うタンパク質を発現させることができた。新聞、雑誌等で紹介されたが、遺伝子組換え作物にもかかわらず生産者、一般消費者からの反応がよかったので正直ビックリした。その理由は正直わからないが、育児雑誌等でラクトフェリンが体によいという情報がお母さん方に広く伝わっていたこと、苺という主食ではない嗜好品のイメージがよかったのではないかと勝手に考えている。この様に、植物の遺伝子組換え技術の利用方法は多岐に渡り、利用の可能性はこれから展開していくだろうと考えるが、残念ながら北海道の条例しだいでは一般栽培はもとより、試験試験もできなくなる可能性がある。

ある生協で遺伝子組換え無しと、不分別との売り上げを纏めたところ、キャノーラ油で、遺伝子組換え無しが2.7億円、不分別が7億円、マーガリンは遺伝子組換え無しが2億円、不分別が2.7億円と不分別が売れた。醤油は遺伝子組換え無しが、2.7億円、不分別が1.5億円でノンGMが売れた。

消費者によっては、GM製品を選択しない人もいれば、一方、価格を考慮してGM混入の可能性がある製品でも選択する人の割合も、その数倍居ることが伺える。