HOBIAは、10月14日から16日の3日間、アクセスサッポロ(札幌市白石区流通センター4)を会場に、第20回北海道バイオ・ステージおよ
びバイオマッチング広場を開催しました。第3回北海道食品産業総合展と同時開催したもので、3日間の来場者数は約6600名を数えました(主催者発表)。
14日午後開催のバイオ・ステージのテーマは「北海道の食品バイオの今後」。当協会の冨田会長が「バイオアイランド構想の再構築をめざして」という、本道農業の将来を見据えた演題で講演し、現在の北海道の状況・問題点を喝破し、続いて道立食品加工研究センターの応用技術部長・長島浩二氏が「食加研におけるバイオ研究とこれからの食品バイオ-機能性食品、微生物、ポストゲノミクス」と題して、同センターでの最新の研究内容について講演しました。
以下に、詳細をご報告します。
「バイオアイランド北海道の再構築を目指して」
北海道大学名誉教授
NPO北海道バイオ産業振興協会 会長 冨田房男
’87に2冊の本が出版された。ひとつは「バイオアイランドへの挑戦-食糧王国・北海道の実験」が日本経済新聞社から、もうひとつは「21世紀、北海道の挑戦」で世界平和教授アカデミー北海道支局からである。どちらも北海道はその土地柄からバイオ分野が大切だと説いている。この頃にバイオが北海道の有力な産業振興策=バイオアイランド北海道であるとの認識が高まった。
2002年に「生きる、食べる、暮らす」を柱にしたバイオ戦略大綱が策定されたが、この方向は北海道にふさわしいものばかりである。20年ほど前から言われ続けてきていながらその計画がほとんど進まず、課題がそのまま残っていると言える。
そこでバイオアイランド北海道の再構築を目指した提案をしてみたい。
北海道は食糧自給率190%の食糧王国であり、米国やEUのような食糧生産地であって、日本の他地域と大きく異なることを強調したい。つまりバイオ産業の振興なくして北海道経済は存在価値を失うのである。
そのためには遺伝子組換え技術を含む先端技術を最大限利活用しなければならない。品種改良はDNAを変化させていることであり、組み替えも品種改良の一つ、むしろ履歴の分かった改良であり、開発が早い利点がある。
食品の安全をどう評価するか。今食べている食品は、長い年月かけて認知されたもの、科学に基づいて試験したものと言える。しかし、安心は主観的感情的な評価に依って得られるであって、検証はできない。
「遺伝子組換え技術を使っていない」ということは、通常の栽培をして農薬を使っている、と言うことであり、「組換え技術を使っている」ということは、農薬として除草剤ラウンドアップだけを使っているということであり、通常栽培と比べて大きな減農薬を実現していることを意味する。
バイオクラスタからまだ産業が生まれていない。大学はもっと役割を果たさなければならない。同様に道立試験研究機関の役割も足りない。遺伝子組換え技術は単なる手段であり、規制によって新しい科学技術の進歩を止めてはならない。
今北海道に必要なのは、食と農に立脚した「食と健康」の新産業革命である。例えば、ニューバイオテクノロジーをポジティブに利用して、栽培から最終製品、
そして流通までを一貫した、効率的でなおかつ安全なものとする食品産業の構築が「バイオアイランド北海道の再構築」であると言えよう。(文責 西陰)
「食加研におけるバイオ研究とこれからの食品バイオ -機能性食品、微生物、ポストゲノム」
北海道立食品加工研究センター 応用技術部長 長島浩二 氏
【食品研究とバイオとの接点】
本日は「食加研におけるバイオ研究とこれからの食品バイオ」と題して話させていただきます。キーワードは、機能性食品、微生物、ポストゲノムです。私は食加研創設以来バイオを担当して来ましたが、その間食品バイオ研究はどのようなことをすれば、企業さんの役に立つかを考えてきました。その結果、食品機能性、微生物、それから食品素材そのものを対象に、生物学、生化学、分子生物学の知識と技術を用いた研究が食品バイオ研究だと考えるようになりました。しかし、10年前は食品とバイオ、特に先端バイオはなかなか結びつかなかった訳です。これで結構しんどい思いをいたしました。それでは10年前と現在は何が違うかと言いますと、一つは、特定保険用食品の認証制度ができ、機能性食品が市民権を得たということ。もう一つはこれが特に重要かと思いますが、現在はポストゲノムの時代だと言うことです。ポストゲノムとは何かと言いますと、細胞核の中にある全て遺伝情報がヒト含む様々な生物で明らかになり、これからはこの情報を使って細胞の中で起こっていることを丸ごと調べることが可能になったということです。DNAの遺伝情報は一旦RNAにコピーされさらにタンパク質に翻訳されます。生産されたタンパク質酵素は化学反応を触媒し、細胞を維持するために様々な物質を作り出します。これが代謝物といわれるものです。これらを丸ごと調べる学問分野がそれぞれトランスクリプトミクス、プロテオミクス、メタボロミクスであり、これら遺伝情報を活用した丸ごと研究をゲノミクスといって良いかと思います。ポストゲノム時代に入って、食品とバイオは近くなったと私は考えています。というのも、これらの研究に使う機械は高価ではありますが、自動化されており、特別に熟練した技術はいりません。また、処理能力が高く高性能ですので、どこか一カ所に設置すれば様々な人の分析に応えることができるようになってきました。すなわち、医療分野だけでなく食品分野の研究開発にも十分低コストで使用できる見込みが出てきているということです。従って、食品バイオは今後この方向に発展していくものと思われます。私たちも、現在この方向を指向しております。それでは、キーワードに示した食品機能性と微生物研究について、もう少し具体的にポストゲノム研究を見ていきたいと思います。
【食品の機能性とバイオ】
最近、ニュートリノゲノミクスという言葉をしばしば耳にするようになりました。これは、栄養(ニュートリション)と遺伝子(ゲノム)を合わせた造語で、栄養素が遺伝子発現に与える影響を研究することにより、栄養素の作用メカニズムの解明と新たな機能性食品の設計を目指す学問分野です。所謂、食品機能性のゲノミクスです。例として、サントリーと東大の研究を紹介します。セサミンは皆さんご存じのようにゴマに含まれる成分で、生体内で強い抗酸化作用を発揮し過酸化脂質の生成を抑制する働きがあります。また、脂質代謝やアルコール代謝を促進することが知られていました。しかし、そのメカニズムについては詳しくは解っておらず、サントリーと東大では数千個以上の遺伝子発現を調べることの出来るDNAチップを用いてどのような遺伝子の発現がセサミンで変化するかを調べた訳です。そうしますと、先ず脂質代謝ですが、合成酵素の発現はコントロールと差はないですが、分解酵素の場合はコントロールの2倍になっていたことが解ったということです。また、アルコール代謝では、沢山あるアルデヒドを分解する酵素の内、ある一種のアルデヒド脱水素酵素の発現が3.5倍ほど増大していたことが解ったと言うことです。このような、分子レベルでのメカニズムの解明と新たな機能の発見が期待できるのが、ニュートリゲノミクスであるということです。静岡県立大学の21世紀COEプログラムでは、(1)ニュートリゲノミクスと分子栄養学。(2)機能性食品成分検索のためのバイオマーカーの開発。(3)個人差を考慮した食品成分の臨床疫学研究システム構築。といった取り組みが示されております。我々もこのような取り組みが必要であろうと考えています。
【微生物研究とバイオ】
次に微生物研究、特に複合微生物系研究についてお話ししたいと思います。この研究は、食品を含む環境の複合微生物系をひとつの生命体と考え、先程来お話ししているゲノミクス研究を適用しようとするものです。現在は主に微生物群集解析、すなわち微生物の種類と数を分子手法で網羅的に調べている段階です。しかし、さらに発展させ、その系での遺伝子発現を網羅的に把握することが必要になってくると思います。発酵食品、ヒトを含む動物の腸内フローラ、土壌、水中など沢山の複合微生物系がありますが、これらを制御し活用していくには複合微生物系研究は必須となると思います。私共は微生物群集解析の分子手法の一つであるT-RFLPの新しい手法を開発し、これを使って腸内フローラ解析を進めており、将来的に食品機能性評価や、疾患診断等の応用を考えています。腸内には約300種100兆の菌が棲んでいます。これらは宿主の健康にとって重要な役割を果たしています。一方、私は宿主の遺伝的要因もフローラに影響を与えているのではないかと考えています。その様な相互作用を明らかにすることは、非常に有用だと考え、研究を進めています。また、私どもの共同研究者である企業では、腸内フローラ解析用のDNAチップの開発も進めております。微生物群集解析の次のステップとして、複合微生物系のトランスクリプトミクスとメタボロミクス研究を検討しています。土壌や水中のような場合、菌の特定をしてもその機能が解らない微生物がほとんどで、微生物群集解析をしてもほとんど意味がありません。従って、その下流すなわち、遺伝子発現の結果を調べることが必要になります。今後はこの方向での研究が盛んになると思います。食加研では、腸内フローラ研究に加え、発酵食品を対象にこのような研究を進めていきたいと思っています。
【質疑応答】
Q:腸内フローラの遺伝的背景の研究は非常にチャレンジングではあるが、方法が難しいと思うがどうか。
A:その通りです。現在は、食事のファクターを少なくするため、家族内でT-RFLPを比較することで、遺伝的背景があるかどうかについてサンプル数を増やしながら検討している。しかし、これはまだ初歩的な段階です。
Q:遺伝的バックグラウンドのはっきりしている実験動物を使ったらどうか。
A:遺伝的背景に関しての研究なら、それが良いと思うが、ヒトの健康とフローラの関係を明らかにしたいので、サンプル数を増やして統計解析によりアプローチしたいと考えています。
Q:食品機能性研究はニュートリゲノミクス研究のような方向に進むのか。
A:従来の分子栄養学では、遺伝子発現を調べるにも定量性等の問題をクリアーするのに大変な苦労が必要だったが、DNAマイクロアレイを使えばこのような研究も簡単に行えます。また、新しい機能性の発見に繋がる可能性があります。
Q:腸内フローラに遺伝的要因があるという考えはどういう根拠から来ているのか。
A:腸内フローラは個人の間で多様性が結構あります。このような多様性は遺伝的背景を考慮しないと説明できないように思います。
Q:腸内ではなく、胃の中の菌叢について教えてほしい。
A:ヘリコバクター・ピロリについてのご質問と思いますが、ある種の乳酸菌がピロリ菌を排除するとういことが知られています。(冨田会長が回答)
バイオマッチング広場などの報告
15日には、「バイオマッチング広場」事業としてHOBIA会員企業3社(有)A-HITBio、㈱北海道バイオインダストリー、ネイチャーテクノロジー(株)が企業内容・商品について紹介するプレゼンを行いました。3社は、会場内ブースにも出展して、展示・販売を行い、多くの販売実績があったと報告がありました。
またHOBIAは、財団法人バイオインダストリー協会(東京)のご協力を得て、会場内で「DNAビーズストラップ講習会」を開催しました。一般市民向けのPA活動として実施したもので、小学生から70代まで、年齢・性別を問わず、約80名の方が楽しみながらDNAを模したビーズストラップ作りを体験。特に教育者の方たちから「授業で使用したい」などの感想がありました。HOBIAとしても、これを機会に、子どもたちに正しい科学的知識を持ってもらい、「食」に対してのみならず、北海道の未来について正しく考える力を身に付けてもらえることを願ってやみません。