第19回 北海道バイオステージ 実施報告

「室蘭工大発ベンチャー企業・有限会社バイオトリートについて」

室蘭工業大学応用化学科 教授  菊池愼太郎

【科学の意義は成果の社会還元】
 私は現在、室蘭工業大学と有限会社バイオトリートと言う、2足のわらじを履いている。折角の機会なので、ベンチャー企業の抱える問題点や、大学の抱える苦労をお知らせする。私は北大農学部の江口先生の教室を卒業しており、農芸化学科では冨田先生は兄弟子に当たる。それぞれの先生は、同じく「その成果を社会に還元してこそ科学の意義がある」とされている。バイオテクノロジーの端緒は、ストレプトマイシンのような抗生物質の生産にあったように思う。当初の手作業による生産が工業生産に代わり、生化学反応や化学反応の検討による生産性向上の必要性の他にも、反応層の装置技術や反応制御技術などが必要になってきて、バイオは総合科学となった。昭和60年代に全国の工業系大学で、バイオの研究を進めようという機運があった。この時、室蘭工業大学には生物系に1人先生が居ただけだった。その後、平成元年以後に施設と研究者の多くが整備された。それまでも、当大学でバイオをやっていなかった訳ではないが、それは廃水処理技術のみであった。この技術には投入する微生物の選択やエネルギーコストの問題があり、施設が大規模化する傾向がある。しかし、環境問題は深刻になってきており、室蘭市も室工大が目指そうとしていた「環境」、「バイオ」、「情報」に注目して、そこから環境都市宣言が出てきている。私も、大学の研究を環
境・資源バイオに合わせて行こうと考え、その中からベンチャー企業が生まれ、廃水から環境ホルモンを除去するバイオ技術を開発した。
【事業目標は環境ホルモン除去】
バイオトリートの目標として、微生物を利用した応用研究と、それを実用化することを考えた。また、微生物利用に関する受託研究とコンサルタントも行うこととした。研究を進める内に、環境ホルモンを食べてしまう微生物を見つけることができ、早速に北海道TLOを通して特許化にこぎつけた。モデルの排水中に相当量の環境ホルモンを加えて除去試験をしたところ、数十時間でほぼ完全に除去することができた。この実験で使った装置や、更に改良した装置も特許化することを考えている。今年中には環境ホルモンの法規制ができるのではないかと考えていたが、これがなかなか進まなかった。今後には明るい見通しも出てきたの
で、洗浄剤を大量に使う企業と屎尿を排出する酪農家に向けた技術を開発していきたいと思っている。実地試験には倉敷紡績が協力しており、本来なら企業イメージが悪くなる可能性があるにもかかわらず、協力いただけることはとても有り難い。

【大学発ベンチャー企業の問題点】
大学発のベンチャー企業の問題点は、資本金がない、経営感覚がない、人材が(支援者も、社員も)いない、市場がない、経営資金もないことである。中心となった出資企業(東海建設)に、本社機能から営業拠点まで置いて、支援していただいている。その他にも、多数の企業から多面的に協力をいただいており、出資法の関係で大学の学長は役員になれないので、社長はナラサキ製作所から来ていただいている。もちろん、官庁からの支援もいただいており、研究資金の援助などをしていただいている。実際に物が売れるまでに長い時間がかかるので運転資金が必要だが、開発に時間がかかると資本を食いつぶすことになりかねない。
大学人はものを作るより、研究や開発に熱中しがちである。自分たちも失敗した他の轍を踏むのかどうか、あと半年ほど見て頂きたい。

【質問】
西村:自分のベンチャーも、利益が出るまでに確かに時間がかかった。現在、500以上のベンチャーが立ち上がっている。代表取締役はナラサキ製作所の方が就任しているので、経営面で良いことである。技術や価格の優位性があるかどうか、販路がしっかりしているかどうかも重要である。大学人が関与していることは技術面での信頼感につながり、マスコミなどでも取り上げてもらえる。良い宣伝になり、金のないベンチャー企業には重要である。
菊池:ありがとうございます。今回の発表もPR活動の一環と考えている。会場にお集まりの方にも、私の会社に興味がありましたら、御協力をお願いしたい。
澤田:会社の業務で受託研究やコンサルティングも仕事としているが、自分の例からすると不安がある。ベンチャーでこうした仕事をすると、大学側での仕事が減るのではないか?
菊池:悩ましいところではあるが、大学発のベンチャーとしては意義があると考えている。

「疾患予防マーカー発見に基づく機能性食品の革新的評価法」

㈱バイオマーカーサイエンス  高乗 仁 氏

1.疾患予防マーカーがなぜ必要か
 近年老年人口の増加、高齢化率の高まりが著しく、2030年には25%を超えると予想されている。それに伴って生活習慣病、老年性疾病の増加が顕著と
なっている。一方、トクホ(特定保健用食品、以下同じ)の売上げが伸びており、1997年に1000億円強であったのが2001年には4000億円強と予
測されている。このように機能性食品に大きな期待がかかっているのであるが、機能性食品には科学的根拠が乏しいと言われる。それはバイオマーカーが存在し
ないことである。
2.ヒトゲノムの全解明は大きな成果であり、バイオサイエンスの新技術を生んだ。
 ①ゲノミクス:遺伝子情報、DNAチップ ②プロテオミクス:タンパク質機能解析、プロテインバイオチップ ③メタボロミクス:代謝機能解析 ④情報工
学:バイオインフォマティクス 即ち、プロテオミクスにおける機能、発現解析の進展が疾患予防マーカーの探索を可能ならしめた。
3.日本の優位性維持のための疾患予防マーカー
機能性食品は日本のお家芸である。健康表示制度も厚生省、概念提示も文部省、そして3次機能が生活習慣病予防機能であるとして1991年に定めた特定保健
用食品は世界初のものである。しかし、欧米でも食品機能について積極的に推進・加速化している。食品表示制度ではトクホレベルの高度機能表示、それを超え
て疾病リスク表示まで行う他、食品機能に関する科学的根拠の評価及び検証の実施を推進し、バイオマーカーの探索研究も開始している。うかうかしていると欧
米の表示を使うことになるかも知れない。今、革新的機能性食品評価法を確立しなければならない。日本の優位性を維持するため、日本発の世界標準を確立した
い。
4.革新的機能性食品評価法の確立-コンソーシアムの結成
従来法はそぐわない。科学的根拠を有し利便性が高い疾患予防マーカー、抗体バイオチップを開発しなければならない。それには先端学際統合研究が必要である。発症リスクは日々増大している。それに伴い疾患予防マーカーも増大する。機能性食品を摂取して発症リスクを軽減できるかどうかは、疾患予防マーカーを低減させれば効果有りの証明となる。 
 医学:京都府立医科大学(第一内科)、農学:名古屋大学大学院(生命農学研究科)、薬学:㈱バイオマーカーサイエンス(BMS)、バイオ技術:住商バイオサイエンスで食品評価法開発コンソーシアムを結成した。プロジェクトコーディネータはBMS。
5.コンソーシアムの研究課題と役割および開発の道筋
①動物疾患モデル系における機能性食品の疾患予防効能の立証-京都府立医大
 ②ヒト疾患特異的マーカーから機能性食品摂取依存に変化する疾患予防マーカーの同定-京都府立医大、 バイオマーカーサイエンス、住商バイオサイエンス
 ③疾患予防マーカーに対する抗体を搭載した疾患予防評価を目的とする抗体チップの開発-名古屋大学、住商バイオサイエンスモデル動物は均一、短期間で結果が出るのでまずこれから手をつける。動物疾患予防マーカーを探索・同定し、次いでヒト用を同定したい。ヒトは遺伝的に多様なので、動物用が確定したものでヒト・ホモログの推定、ヒトマーカーの検証・確定へ持っていく。
6.期待される成果と波及効果
期待される成果は①生活習慣病の疾患予防マーカーの発見、②疾患予防効能評価抗体チップの開発③疾患予防効能の科学的判定基準および評価方法の確立である。市場は法改正の後伸びる。2010年にはそのまま伸長させて2000億円くらい増加するものと期待される。事業展開分野は①機能性食品分野 ②健康診断分野である。
機能性食品の開発と探索には疾患予防マーカー、予防標的、疾患因子の3つを考えなければならない。テーラーメイド予防医療システムを構築するためには、疾患予防マーカー、抗体チップ、モバイル検査システム、予防医療DBが開発されなければならない。
7.健康診断分野事業目標
①疾患予防マーカーの臨床検査センターへのライセンス供与、②テーラーメイド予防医療システム事業への参画 である。

<質疑>
Q1:ヒトは遺伝的に多様、動物用が確定したものでヒト・ホモログの推定、ヒトマーカーの検証へ、と言うことだがどこまで進んでいるか?
 A:同じと期待している。ヒトから始めるのはしんどいので動物から。がんのマーカーはTOF-MSで成果上げている。
Q2:マーカーの分子量は?
 A:分子量数千。
Q3:効能はまだうたえないが…?
 A:トクホでは疾患予防をうたえないが、欧米並みになっていくことを期待している。 
Q4:ヒト介入でなければならないところがある、犬に対するタマネギは含硫化合物が特定されている。動物とヒトは違うところがあると思うが。
A:複合系=食品で発揮するケースがあるはず。

<まとめ>
食の効能効果評価法研究会が始まり、研究開発が加速されていくものと思われる。これから大きな成果が期待されるところである。