昨年12月2日(土)、グランドホテルニュー王子(苫小牧市)において、「植物資源の有効活用による地域活性化」をテーマとして開催された標記講座の報告Part 2です。北見工業大学 山岸 喬 氏によるご講演内容を紹介します。
=== 講演1 ======
【演 題】「道内有用植物資源の概要」
【講演者】北見工業大学 国際交流センター長 山 岸 喬 氏
私の専門は天然薬用資源を対象とした天然物化学です。食品もバイオマス研究も科学的な機能評価には有機化学や薬の知識が必要なので、私の専門が結構役に立ちます。
現在、私が進めている研究の一端を紹介しますと、4万6千個のマウスの遺伝子を小さなチップに乗せているマイクロアレーを使い、マウスに食品中の成分を食べさせてから、臓器や血液中の遺伝子発現量を測ることを行っています。昆布仮根のフコイダンの機能性、とくにガン細胞にアポトーシスを起こす機能として、ガン関連遺伝子について発現量を調べています。この方法は食品の新しい機能性を発見できる可能性がありますが、マイクロアレーは1枚で5万円なので、1試料を調べるのに、百万円以上かかります。しかし、現在、JST(科学技術振興機構)の援助を受けてこのマイクロアレーを用いて、ハマナス花の食品としての
機能を調べています。
アイヌの人達は江戸時代にハマナスの花が水腫病に有効であることを知っていました。このことに興味をもって、花弁を調べたらビタミンCが豊富で、ビタミンCが安定に存在していることが分かりました。ハマナスの有効性を調べる目的でハマナスをマウスに経口投与しました。ふしぎなことにマウス独特の便臭が消えることが観察されました。そこで人でも同じ現象が見られるのではと思い、人にハマナス花弁を食べてもらい、便の分析をしました。その結果、アンモニアやスカトールなどが減少し、短鎖脂肪酸が増えました。
また、体臭の改善効果に興味をもって、老人臭の主原因と考えられている2-ノネナールをガスマスで分析しました。ハマナス花にはビタミンCの他に、強い抗酸化作用のある加水分解型タンニンが豊富であることから、脂質の酸化により生成する老人臭に効果があると考えて、老人臭に対する抑制効果について調べることを検討しました。しかし、臭い成分は揮発性であり、また、微量なので分析が困難でした。そこで、人の外耳に貯まる皮膚や脂質の堆積物である耳垢に着目して、揮発性成分の分析を行いました。
その結果、50才以上の数人の耳垢から2-ノネナールを検出できました。このような方に協力してもらい、ハマナス花製剤を摂取してもらい、経時的に耳垢を綿棒で掻き取り、エチルエーテルで抽出し、ガスマスで分析しました。ハマナス製剤を摂取すると老人臭は改善されました。また、病院の協力下でハマナス花投与実験を行ったところ、血清中の中性脂肪の高いヒトは、ハマナス摂取で減少して、もともと低い、正常値の人には影響がないことが分かりました。
ハマナスの各種生理活性は、ビタミンCやポリフェノールの抗酸化活性と深い関係があると考えている。現在、私の研究室ではハマナスの有効成分を調べる目的でポリフェノールの研究を進めています。
今までの北海道産食品素材に関する研究でアルギン酸関連の国際特許を取ることができました。低分子化したアルギン酸がコレステロールの排泄促進することを、放射性同位元素でラベルしたコレステロールで証明して、特許化できました。この研究により、ソルギンが特定保健用食品素材として許可されました。ソルギンは、特定保健用食品として商品化でき、カイゲンからコレカット、大正製薬からコレスケアとして販売されています。
また、昆布の仮根である「ガニ足」も特許が取得でき、小樽の共成製薬、大阪のカイゲンにより商品化されています。ガニアシには血圧を下げる作用のあるカリウムが多い。また、札幌医大の高橋先生が乳ガン細胞に有効であることを癌学会で発表しています。
Q:ビジネスとして展開するにはどのようにすればよいのでしょうか?
A:例として大正のコレスケアーの場合は年間8億円のTV宣伝費が必要と聞いています。この程度、宣伝費をかけると必ず売れます。
会場から報告:10年以上前に山岸先生に日高町にお越し頂き、山菜を食べる会を催した。その後、日高の山菜を食べる会へと発展して現在も続いている。報告したい。
Q:機能性食品を売るためには人でのエビデンスが必要なことは判るが、どのように進めていくか?
A:有効性を証明するのは難しい。以前の医薬品開発の経験では、とても強い効果がある化合物でも有効性を示すのは難しい。人での有効性を医療機関で確認するには最低6百万円かかります。あまり高額なので大学では手に負えない。