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HOBIA NEWS No.397 2024.12.12

報告:理事長 北野邦尋

今年の例会は、北海道大学大学院農学研究院の浅野眞一郎教授と経済産業省北海道経済産業局地域経済部 健康・サービス産業課の吉田宜史課長補佐を講師にお招きし、それぞれ「昆虫の産業利用」、「我が国のバイオ産業政策について」と題するご講演をしていただきました。以下に、当日のお二方の講演内容について私の理解の範囲で報告致します。
記念講演1「昆虫の産業利用」
(北海道大学大学院農学研究院教授 浅野眞一郎氏)

昔から産業利用されて来た代表的な昆虫はカイコ(蚕)であると思います。浅野先生のご講演も「養蚕は昔、北海道においても盛んに行われていたものの、その後衰退し、現在の北海道では、浅野先生の研究室のみと言っても良い状況にある。」とのお話から始まりました。
私も教科書では、弥生時代に日本に伝わったと言われる養蚕が、特に江戸時代から盛んに行われた事や、明治時代以降の一時期、我が国の輸出額の半分以上を占めて日本の近代化において大きな役割を果たしたことを知っておりました。先生のお話を伺って、改めて web 情報検索してみると昭和初めには、約 220 万戸あった日本の養蚕農家数は、現在では全国で 150戸以下になっていること(大日本蚕糸会 web site)が分かって少々驚きました。歴史的な絹の生産農家の減少は、代替品の化学繊維の登場や国際的なコスト競争によるものと思いますが、最近では、絹タンパクの均一性や生体親和性の高さと言った特性に注目した医療素材(手術縫合糸、人工血管、人工皮膚など)や化粧品などの材料としての需要もあり、絹の輸入が増える傾向にあるとのご説明がありました.

カイコの幼虫が作る繭糸はフィブロインとこれを取り巻くセリシンと言うタンパク質から出来ています。絹の本体であるフィブロインは、他の昆虫類やクモ類によっても異なる特性を持つ物が作られますが、最近では、カイコの遺伝子組換え体により、カイコで他の生物のフィブロインを作ることが出来る様になって来たとの事でした。

遺伝子組換えカイコはトランスポゾンをベクターとして利用して作出することが出来、クラゲ由来の蛍光タンパク質を融合させた蛍光シルクが開発されています。この様な“光る糸を使ったドレスが雑誌などで紹介されていたと記憶しています。浅野先生の講演では、このほかにも野蚕、スズメバチ、クモのシルクの性質を持つ新たな絹が開発されているとのお話があり、研究の今後の発展が楽しみです。

次に、カイコよる絹タンパク質以外の生産に向けた研究として「多角体タンパク質の利用」についての説明がありました。多角体タンパク質とは、細胞質多角体病ウイルスがカイコなどの昆虫に感染した時にできるタンパク質の結晶です。バキュロウイルス科のウイルスである NPV が、感染細胞の核に多角体を作る性質を利用して外来遺伝子を多角体遺伝子と置き換えて、カイコを使って目的とするタンパク質を生産する研究開発(ネコインターフェロンなどの生産)が行われており、環境負荷の小さい医薬品生産法として注目されているとのことでした。

講演の最後には、最近マスコミなどで多く取り上げられ、注目されている「昆虫食の価値」についてのお話がありました。

マクロ栄養素の比較では、タンパク質量の比較では、牛肉(肩ロース)が 56%であるのに対してカイコで 67.8%、イナゴで 76%と、昆虫が高タンパクの食材であることが示され、更にはウシで 40%程度の可食部の割合が、昆虫では 80%程度であるとの説明があり、近年問題視されつつあるウシなどの食肉用動物の飼育に係るエネルギーコストや環境負荷の大きさも鑑みると、昆虫を食料や飼料として活用することの有用性に改めて気づくことが出来ました。

世界における具体的な取組の事例として、南アフリカ共和国で、食品廃棄物を餌にしたハエの幼虫からマッグミール(ハエの幼虫から抽出したタンパク質を養鶏・水産養殖飼料として生産)、マッグオイル(ハエの幼虫から亜麻仁油に似た油を抽出し、家畜やペットフードに利用)、マッグソイル(ハエの幼虫の残滓とコンポストを混合した窒素分の多い)などの製品を製造・販売を行ったアグリプロテイン社のビジネスモデルの紹介がありました。

今回のご講演では、カイコを用いた新たな付加価値を持つ絹糸の生産法から始まり、カイコを医薬品の生産プラットフォームとする取り組み、カイコを含む昆虫を食料原料や動物飼料として利用することの利点など、「昆虫の産業利用」の可能性について幅広くご紹介頂きました。世界レベルでは、人口の増加や気候変動などによる食料生産の限界など深刻な事態が起ころうとしています。今回お話を伺った昆虫利用の新たな方法により、グローバルな問題解決に加え、我が国においても、養蚕を始めとする新しい昆虫産業が盛んになることを期待したいと思います。

記念講演2 「我が国のバイオ産業政策について」
(経済産業省北海道経済産業局地域経済部 健康・サービス産業課課長補佐 吉田宜史氏)

今回のご講演は、“バイオものづくり”と言う言葉で始まりました。
“バイオものづくり”とは、生物の能力や生物由来の素材を活用して製品を生産する技術や産業を指すものと思いますが、この “バイオものづくり”が、環境問題などの社会課題の解決と経時成長の二つを同時に叶えることが可能な技術となり得るとの説明がされました。
我が国では 2019 年に策定した「バイオ戦略」を、今年 6 月に、最新の国内外の動向を踏まえて 2030 年に向けた科学技術・イノベーション政策の取組の方向性を取りまとめた「バイオエコノミー戦略」に改称しています。同戦略では、持続的な経済成長と環境・食料・健康などの解決の両立に資する様に以下の 5 つの市場を、拡大を目指すバイオエコノミー市場として設定し、2030 年に国内外で 100 兆円規模の市場創出を目指すとのことです。

① バイオものづくり・バイオ由来製品
② 持続的一次生産システム
③ 木材活用大型建築・スマート林業
④ バイオ医薬品・再生医療・細胞治療・遺伝子治療関連産業
⑤ 生活習慣改善ヘルスケア、デジタルヘルス

このバイオエコノミー戦略の背景として国際的な状況の紹介もありました。米国では、2022 年 9 月 12 日に大統領令が発せられましたが、その中で、バイオものづくりが今後10 年以内に世界の製造業の 3 分の 1 を置き換え、その市場規模が約 4000 兆円に達すると分析し、バイオものづくりの拡大に向けた集中的な投資を行う方針が示されたことでした。
中国では経済成長及び天然資源不足に対応するためバイオ分野への研究開発に約 11 兆円以上の戦略的な投資を決定しているとのことでした。

次に我が国のバイオものづくりへのニーズの高まりの事例として、化石エネルギー中心の産業構造・社会構造をクリーンエネルギー中心へ転換する「グリーン・トランスフォーメーション(GX)」、バイオ由来の生分解性プラスチックに代表される様な「資源循環」、食料需要の増大や SDGsへの関心の高まりを背景に、植物、藻類、昆虫の代替タンパク質、代替肉分野などを含む「フードテックを活用した新たなビジネスの創出」などの説明がありました。
経済産業省のバイオものづくりに関する支援策として 2023 年度~2032 年度(予算額:約 3000 億円(事業期間総額))の「バイオものづくり革命推進事業」、2020 年度~2026年度(予算額:26.4 億円(2024 年度))の「カーボンリサイクル実現を加速するバイオ由来製品生産技術の開発」、2018 年度~2027 年度(2024 年度予算額:20 億円)の「新産業・革新技術創出に向けた先導研究プログラム」の紹介があり、また北海道経済産業局のバイオ分野への支援事例として Go-Tech 事業(旧サポイン事業)で採択した「高濃度 MGPB培養法および微生物製剤の開発」の紹介があり、今後農産物の未利用資源の利用へのサポートを行いたいとのお話がありました。

今回の例会のお二人の講師のお話で共通のキーワードとなっている「バイオものづくり」は、資源自立や化石資源依存脱却などの地球規模の社会課題解決と経済成長との両立を可能とする技術であり、北海道においても、より積極的に取り組むべき課題であることを理解することが出来ました。お二人の講師に改めてお礼を申しあげます.

食化研研究発表会の報告
報告:道立食品加工研究センター専門研究員、HOBIA 企画運営委員 八十川大輔


■日 時 令和 6 年 6 月 12 日(水) 13:15~16:45(受付 12:15~)
■場 所 札幌ガーデンパレス 2階 鳳凰(丹頂、白鳥、孔雀)
■主 催 食品加工研究センター
■関連機関 中央農業試験場、釧路水産試験場、
とかち財団、函館地域産業振興財団、オホーツク財団
■協力機関 北海道中小企業総合支援センター、北海道信用保証協会、
INPIT 北海道知財総合支援窓口(一般社団法人 北海道発明協会)
■内 容
○ 口頭発表 ○ ポスター発表 ○ 商品化事例等の展示
○ パネル展示 ○ 相談コーナー(技術・補助金・融資) など

6 月 12 日に令和 6 年食品加工研究センター研究成果発表会が開催されました。口頭発表は 8件、ポスター発表は 15 件でした。250 名の参加があり、そのうち企業からの参加者が 42%、団体からの参加者がが 16%程度でした。参加者のうち、約 4 割の方が初めての参加、6 割の方がリピーターの方でした。また、会場に設けられたブースでは食品加工技術の相談も受け付け、53 件の相談に対応しました。


口頭発表の「菓子用道産小麦粉の分級処理による品質向上」では、菓子用道産小麦粉を粒子の
サイズで分ける(分級する)ことでスポンジケーキの膨らみや焼き上がりの柔らかさが向上する
ことが示され、小麦粉を扱う企業の方などから参考になったとの評価をえられました。また、「
産米の利用拡大に向けた米粉の用途別加工適性
」(中央農業試験場との共同研究)という発表では、
パンの膨らみ向上、スポンジケーキの膨らみ向上、ゆで麺の歯ごたえ向上に適した米粉原料とな
る米の品種や米粉の特性を明らかにしており、今後の業務に活かしたいとの反響が得られました。
また、「セミハードチーズの熟成促進技術の開発」の発表では、実際の試食によって違いが体感で
きてわかりやすかったとの意見をいただきました。
来年は 4 月 18 日に札幌ガーデンパレスホテルにて開催予定です。

道庁組換え条例への公聴会報告
「遺伝子組換え作物・食品に関するリスクコミュニケーション」に参加して 報告:理事 冨田房男

2024年は、遺伝子組換え作物の商業栽培がはじまって29年目にあたる。当初は、生態
系(環境)への影響や異種タンパク質の発現とアレルギー反応などについて十分な確証がないと
ころもあってかなりの反対があったが、その後さまざまの科学的根拠が得られて北南米を中心に
盛んに栽培が行われている。一方、日本では政府が様々の科学的データをそろえて遺伝子組換え
生物等の「第一種使用等」承認を受けた作物、即ち、生物多様性に影響が生じないので環境中へ
の拡散を完全には防止しないで農作物の輸入、流通、栽培が行えるものを156種承認している。
しかし未だに栽培は全くない。これは、一般消費者などの科学的理解が進まないことによるもの
と思われるが、これを知るための絶好のチャンスが訪れたので以下に報告する。

北海道農政部食の安全・みどりの農業推進局食品政策課主催の「遺伝子組換え作物・食品に関
するリスクコミュニケーション」が 5 年ぶりに開催された(10 月24日)には、NPO 北海道バ
イオ産業振興協会理事として参加した。出席者は、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研
究機構北海道農業センター、地方独立行政法人北海道立総合研究機構農業研究本部、NPO 北海道
バイオ産業振興協会、北海道農業協同組合中央会 JA 総合支援部、ホクレン農業協同組合連合会、
北海道有機農業協同組合、北海道経済連合会食クラスターグループ、一般社団法人北海道消費者
協会、生活協同組合コープさっぽろ、生活クラブ協同組合北海道であった。

先ず政府から、農林水産省消費・安全局農産安全管理課、消費者庁食品衛生基準審査課、農林
水産省消費・安全局畜水産安全管理課、内閣府食品安全委員会事務局評価第 2 課新食品担当の担
当者からスライドを使って精細な説明をいただいた.

① 「遺伝子組換え農作物の管理について~生物多様性を確保する観点から~」
農林水産省消費・安全局農産安全管理課から生物多様性を確保するための国際的な枠組み(カ
ルタヘナ法)に基づく承認されたもの(問題のないもののみ)が輸入、流通、栽培等が栽培され
る。日本では食用・飼料用として使用することを目的とした遺伝子組換え作物の商業栽培はない。
しかし世界の主要な栽培国では、その多くを遺伝子組換え作物に切り替えている。トウモロコシ
(米国)は、92%が、ダイズ(米国)94%が遺伝子組換え作物を作付けしている。日本は、飼
料用や食用油、甘味料用等の原料として、トウモロコシ、ダイズを大量に輸入している。これら
の大半が GM 不分別で輸入されることから多くが GM と推定される。遺伝子組換えダイズについ
ては、運搬時にこぼれ落ちて生育したとしても生物多様性に影響はないと評価し、輸入や流通を
承認している。つまり承認の際に予想されなかった生物多様性への影響は生じていない。

➁ 「遺伝子組換え食品等の安全性審査とゲノム編集技術応用食品などの取り扱い」
消費者庁食品衛生基準審査課から、「組み込む前の作物(既存の食品)、組み込む異伝子、ベク
ターなどはよく解明されたものか、ヒトが食べた経験があるか」、「組み込まれた遺伝子はどのよ
うに働くか」、「組み込んだ遺伝子からできるタンパク質はヒトに有害でないか、アレルギーを起
こさないか」、「組み込まれた遺伝子が間接的に作用し、有害物質などを作る可能性はないか」、食
品中の栄養素などが大きく変わらないか」などを確認する。このように厳しい安全性審査を経て
公表れたものは、9作物334品種あり、「特定の除草剤で枯れない」や「特定の成分を多く含む
ダイズ」や「害虫に強いや特定 の除草剤で枯れないトウモロコシ」も含まれている。ゲノム編
集技術応用食品等は、事前相談で遺伝子組換え食品等への該当性を確認して、該当しないと判断
された場合、届出を提出さて、消費者庁HPに掲載し公表する仕組みとしている。


➂ 「遺伝子組換え飼料等に係る安全性確認について」
農林水産省消費・安全局畜水産安全管理課から、食品とほぼ同じことを確認している。このよ
うに厳しい安全性審査を経て公表されたものは、7 作物 104 品種あり、「特定の除草剤で枯れな
い、害虫抵抗性,線虫抵抗性や特定の成分を多く含むダイズ」や「害虫に強いや特定の除草剤で
枯れないや特定の成分を多く含むトウモロコシ」も含まれている。

④ 「遺伝子組換え食品等に関する食品健康影響評価~評価指針の改定について~」
内閣府食品安全委員会事務局評価第2課新食品担当から、2004年に策定したものから20
年経過したのでこの間の実績を踏まえた2024年6月25日に改正を行った。 その主なると
ころは、アレルゲン評価では、「IgE の結合能検討で不十分の場合、好塩基球活性化試験」を追加
する、「個別品目の評価に DNA シーケンシングを活用する」、「摂取量の算定は、これまでの厚労
省の国民健康・栄養調査結果の他行政機関が公表している食品接種量データやその他の文献情報
を基礎としたものとする」、「宿主の安全性、アレルギー誘発性、導入遺伝子の代謝系への影響な
ど重点評価項目に関して WOE(weight of evidence)に基づくアプローチの考え方の導入」な
どを追加した
(http://www.fsc.go.jp/senmon/idensi/index.data/gm_crop_technicaldoc.pdf)。


以上の 4 資料を用いて担当者からは、現状を十二分に説明を頂いたので、遺伝子組換え作物の
生産・試験については、政府の規制に従って行えば何ら問題がないことがわかるはずである。
そこで私は、二重の規制は北海道の農家とって厳しいものであり、北海道条例は、撤廃すべき
であるとの意見を述べた。また遺伝子組換え食品・飼料の流通・加工・消費も国が規定している
ことで十二分であり、これに加える規定は必要がないと述べた。
これに対して私以外は、現在ある政府の規定などは全く評価せず、科学的根拠なくただ不安で
あることと好き嫌いのみで北海道条例の維持を求める意見であった。これでは、世界の流れに遅
れてしまうのである。


現在日本では、GM 作物は、栽培されていない。これには北海道のように条例で実質的な栽培
禁止を行っているためでもあると思う。北海道の様に条例で GM 作物の栽培に当たり許認可が必
要なのは新潟県のみであり、届出が必要なのは神奈川県である。しかし条例があるのは千葉県、
京都府であり、指針等があるのは岩手県、宮城県、茨城県、東京都、滋賀県、兵庫県、徳島県で
ある。また、第 1 種使用等で栽培が認められている作物は、158品種あり、ダイズは、23種、
トウモロコシは,96品種ある。ダイズには、私が興味があるグリホサート耐性品種も含まれてい
る。またトウモロコシには、グリホサート耐性品種も含まれている。これらは、条例や指針など
のないところではすぐにでも栽培可能と考えられる。


現在の新ゲノム技術(NGT)の応用に全く乗り遅れてしまい、日本の食料安全保障はどうなる
のか心配である。私が特に心配するのは、自給率が極めて低いダイズ(自給率5%くらい)、トウ
モロコシ(ほぼ0%)が、心配である。また、イネもこれからの地球温暖化が進むと高温と高湿
度に耐える品種はすぐに手に入るのだろうかと心配である。

HOBIA NEWS No.374

2021 年 7 月 31 日

地域バイオ育成講座 in 旭川(Web セミナー)報告
2021 年 6 月 23 日開催

新型コロナ感染症は、HOBIA の活動にも大きく影響を与えていますが、そんな情況でも開催可能な形として web セミナーによる「地域バイオ育成講座」を実施しました。本来なら皆様に旭川にお越しいただいて講演と討論そして食品の話題ならではの試食が行われるのが常ですが、Webセミナーでは、試食はできず、食品を想像するしかないのは残念な次第でありました。

  • 今回のテーマは、

『新たな食感の実現を!記憶に残るテクスチャーで差別化を図る ~ジェラート・洋生菓子・パンを例に~』

旭川市およびその周辺には 70 に余る菓子製造業がしのぎを削っています。人口の割には数が多いといえスイーツの新技術や上手にコントロールする技術にはニーズが多い地域です。夏を前に季節的にも冷菓に関する技術をあつかう最適のシーズンです。お二人の講師は、それぞれ江別市からと東京からの Web 講演をして頂きました。下記に視聴記をまとめました。

講演1:ジェラードの舌触りと食感の改善
~バッチ式フリーザーによるアイスクリーム製造の課題とその対応~
北海道立総合研究機構食品加工研究センター 食関連研究推進室室長 奥村幸広氏

アイスクリームの硬さや舌触りは、原料の配合によって大きく変わります。今回のセミナーでは、小規模企業を念頭に置いてバッチ式フリーザーによるアイスクリーム製造で発生しやすい物性上の問題について、原料の配合を変化させることによって、自社の考え方にあった舌触りと食感を引き出す方法を紹介された。


日本の生乳生産の半分以上を北海道が占めており、中でもオホーツクおよび十勝、根釧での生産量が多い。地元のフレッシュな生乳を使った様々なジェラードが製造販売されている。たくさんの競合があっても今回のセミナーの知識を活用すれば、他とは差別化したジェラードを提供することができ、それぞれの企業の特徴を作ることができる。
そもそもアイスクリームは、生乳に乳脂肪や無脂乳固形分を牛乳加工品として加えて、さらに糖分を加えて作る食品で、組成としては珍しい食品といえる。

食品加工研究センターで行った実験は、生乳に脱脂粉乳、糖類、クリームの原料を加えて、通常の標準的なアイスクリームの製法に従った。すなわち加熱殺菌した生乳に副原料を種々の組成で添加して、撹拌しながら凍結した。凍結後の時間も速やかに食する場合、20 日後、40 日後と異なった状況を想定して硬さを測定し

食味を調べた。糖類といっても選択肢がある、砂糖を使うのか、ブドウ糖か、粉末水あめなのか、デキストリンなのか、それらの種々の混合比率、によって硬さや粉っぽさが変化してくる。さらにそれぞれの糖類は、甘味度が異なるので甘さにも影響する。はやりの甘さ控えめを単に糖類の添加量を減らすだけでは、アイスは固くなってしまう。添加する糖類の甘味度を考慮しての配合設計が必要となる。また、夏場にアイスが溶けやすいとか溶けたソフトクリームが流れやすい、という悩みには、クリームの添加を増やしたり、粉末水飴の添加も効果がある。乳脂肪を高めた高級志向を狙うと口当たりは濃厚となるが、オーバーランが低下するので歩留まりは下がるうえ、硬くなる傾向に傾く。このようにアイスクリームは、あちらを変えればこちらも変わる、というような面白みがあります。たくさんの競合企業があっても種々の配合を試作して、あなたの店を差別化する特徴あるジェラードを提供することができるのです。

食品加工研究センターで、このような試験を行ったのも地域からの要望から来たものです。皆様の作る食品のなぜ?とか、こう変えたい?とかご要望がありましたら食品加工研究センターへご相談ください。

講演 2:冷凍スイーツの商品開発のヒント
~増粘多糖類で冷菓課題を解決~
ユニテックフーズ株式会社 素材販売部営業企画課 神頭良典氏

新型コロナ感染症の拡大と長い感染期間のために食の分野も大きく変化受けています。本日のテーマであるスイーツの分野での変化の特徴は、まずは、冷凍スイーツが大幅に伸びてケーキの通販サイトの売り上げが3倍にもなった。通販サイトの流通はすべて冷凍流通です。この大きな変化は、スイーツを作る技術にも変革を迫っています。通常の製造方法では、生クリームがボソボソになったりダレたり、スポンジ生地が乾燥してパサついた入り、あるいはソースからの離水で生地がベチャベチャになったり、なんともいただけないケーキになってしまいます。プリンのようなゲル製品だと組織が荒れてしまいます。スイーツを冷凍すると、なんとも情けないものになってしまうのです。そこで何とかクオリティーの高い状態でスイーツを冷凍販売できないかの技術開発を行ってきました。

さて、一方で従来のスイーツを単に冷凍にするというだけでなく、現代の消費者は、いろいろな嗜好の変化もあり、我々としては次のようなキーワードになると感じている。すなわち、リッチ、タンパク強化、○○フリー(例えば、グルテンフリー、糖質ゼロ)、プラントベース、というようなキーワードを感じています。

具体的技術として、まず冷凍によって生クリームがボソボソ感やダレを防ぐには、多糖類を混合することによって防ぐことができます。多糖類といっても多くの種類の多糖類が食品原料として利用可能だが、生クリームの食感に合う種類と絞って行くと、何にでも使いやすいキサンタンガムがあげられます。


キサンタンガムは、納豆とは異なるが微生物の作るネバネバです。また植物のネバネバであるグアガムを使うと口どけに濃厚感が出すことができます。反対に、白きくらげからとれたネバネバ(トレメルガム)を使うと、軽いくちどけの生クリームを実現できることになります。

冷凍ケーキで一番感じやすい生クリームのボソボソ感の防止にしても 3 種類の方法でそれぞれ異なった食感を作ることができます。あなたの会社の商品は、どこを狙うか販売作戦を決めて頂き、その食感に向かって何度も試作を重ねてクオリティーの高い商品へと仕上げていきます。試作のお手伝いをすることもできます。

冷凍ケーキでのもう一つのよく目立つ問題点は、スポンジ生地のボソボソ感です。これに対する製造方法の改良法を紹介します。解凍後のボソボソ感は、スポンジの乾燥によるところが大きいのです。そこで乾燥を防ぐ改良を行います。ここでも多糖類が役に立ちます。多糖類の持つ高い乳化力を利用します。生地の本ごねの際に多糖類、植物油脂、水を加えて豊富なエマルジョンを作るようにこねます。これによって乾燥しにくくなり、高加水のまま生地として練りこみます。
電子顕微鏡で観察するとエマルジョンの保護効果をはっきりと見ることもできます。ここで使用する多糖類にも種々の種類が選択可能であり御社の打ち出したい差別化にそった多糖類を選ぶことができます。

様々な冷凍商品が、加速して流通しています。解凍後に出てくるいろいろな問題をうまく収める技術を使って、商品品質のレベルアップを図り売り上げを伸ばしてほしいと思っております。それらの商品が、地域の特徴ある食品として育ってゆくことと期待しております。

HOBIA 平成27年度通常総会・例会開催のお知らせ

開催日時:平成27年6月15(月)  総会13:00~14:00例会14:15~17:05
開催場所:北海道大学 学術交流会館 第1会議室                      (札幌市北区北8条西5丁目)

HOBIA第120回例会
HOBIA平成27年度通常総会に引き続き開催
参加費:会員 無料 非会員 千円(資料代)

プログラム

14:15~14:25 理事長挨拶  北 野 邦 尋
14:25~15:25 基調講演:
「バイオテクノロジー 最近の進歩とその課題」
一般財団法人 バイオインダストリー協会 会長 大 石 道 夫 氏

15:25~15:45 休憩
15:45~16:55 講演:                                         「継続的なアクティブラーニングの機会提供」による国際的な研究・                                                                                      技術者の育成」
北海道大学 地球環境科学研究院 環境生物科学部門                                                        環境分子生物学分野  准教授 山 崎 健 一 氏
【要旨】中央教育審議会は「生涯にわたって学び続ける力、主体的に考える力を持った人材は、学生からみて受動的な教育の場では育成することができない。従来のような知識の伝達・注入を中心とした授業から、教員と学生が意思疎通を図りつつ、一緒になって切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら知的に成長する場を創り、学生が主体的に問題を発見し解を見いだしていく能動的学修(アクティブラーニング)への転換が必要である(2012年8月28日)。」とのべています。このことについて「アクティブラーニングとは、学生たちが行っている何かに関する思考と行為など、学生を巻き込んでいるすべて活動のことをさす」とチャールズ・ボンウェルとジム・エイソンは説明します(1991)。したがって、(アクティブラーニング)がどのようなものであるかをイメージとしてつかむことはできても、これを実践するためには継続的な取り組みが必要で、「何か一つの企画をすることで成し遂げられるような簡単なものではない」ことを思い知らされます。講演では、これに対する私の教育者としての挑戦について紹介します。

☞合成生物学分野の「生物ロボットコンテスト世界大会(iGEM)」
参加学生発表  納田遼太郎 氏 他

16:55~17:05 閉会挨拶 副理事長 小 砂 憲 一
…………………………………………………………………………
17:30~19:05  懇親会 札幌アスペンホテル
(札幌市北区北8西4 ℡011-700-2111)
参加費:4千円
※6月8日(月)まで、FAXまたはE-mailでお申し込み下さい。
FAX: 011-706-1331,    E-mail: mail@hobia.jp

アグリバイオ最新情報 2013年2月28日

世界
90系統のヒヨコマメのゲノムを解読
国際グループは、ゴムの木のゲノムドラフト配列を公開
飢餓、貧困撲滅のために時間枠を設定する必要があると FAO事務局長が力説

アフリカ
エチオピア首相が アフリカは農業のための予算を増やす必要があると述べた
家禽農家がジンバブエのGMトウモロコシの輸入禁止解除を呼びかけた
ブルキナファソの綿花生産はGMの採用で、57%増加
南北アメリカ
新しい遺伝子組換えダイズ品種が北米で発売された
パラグアイは新しい遺伝子組換えダイズ品種を承認
食品科学の専門家は、GM作物が過剰規制されていると言っている
目次      内容はPDFへ

                     JPN CBU February 2013JPN.pdf

アジア・太平洋
IRRI がそのGMイネの研究成果を更新
発展途上国では遺伝子組換え作物を農業生産者が導入を進めている
ソルガムの消化性を向上させる遺伝子が見つかった
シドニー大学の科学者が高温耐性作物を開発
国際トウモロコシ・小麦改良センター(CIMMYT)は、南アジアのための高温
耐性トウモロコシ開発プロジェクトを立ち上げた
インドの農業大臣は、GM作物の圃場試験を支持
CROPLIFEパキスタンは、バイオテック委員会を創設した
ヨーロッパ
英国の鶏卵生産はGM禁止の解除を呼びかけた
科学者たちは、植物を使った医薬品製造の増加に呼応した新しい規制案を呼び
かけている
研究
害虫抵抗性とは別のBtコーンのメリットを確認