―近畿バイオインダストリー振興会議交流会の講演概要―

全国バイオ産業ネットワークフォーラムが、JBAの支援の元、NPO法人近畿バイオインダストリー振興会議の主催で、平成20年11月17日(月)に大阪科学技術センターの中ホールで開催された。参加者は全国各地から68名も集まり、非常に貴重な情報交換の場となっていたので、サマリー発表の部の様子を講演順にお知らせする。


【北海道発】
「世界初の低分子化ポリフェノールOLIGONOL(オリゴノール)」
(株)アミノアップ化学研究部
学術開発室 三浦健人氏
 世界初の低分子化ポリフェノールである「オリゴノール」を作ることに成功した、札幌市にある会社である。様々な食品の安全確保のシステムを導入しており、品質管理には万全を期している。大阪大学の医学系研究科にも寄付講座を開設しており、関西医科大学や札幌医科大学などに加え、海外の大学とも共同研究をしている。
オリゴノールは抗酸化物質として知られるようになってきた。呼吸で取り入れた酸素の2%が活性酸素になるが、これが過剰になることがあり、これを抑える抗酸化システムがある。抗酸化に資する食品成分は色々あるが、これが少ない場合、サプリメントで補助する必要がある。オリゴノールはカテキンの一種で、多くの果実の種子などから得られるカテキンが高分子化しているのに対して、低分子化してある。In vivoでも抗酸化作用があり、肩こりや疲労感の軽減などに役に立つ。オリゴノールの安全性試験はすでに終わっており、低分子化した成分が類似の製品に比べ多く、効果も高いことを証明している。ヒト介入試験では、血流改善やメタボリック症候群の予防などにも役立つ。また、美容面での利用も進んできている。国内や海外の展示会で紹介しており、そうした場での受賞も増えている。

【中部発】
「ラムナノハイジャンの製品説明及び主成分ラムナンの機能~想定されるマーケット・顧客層~」 
ラムナン(株)営業本部長 小室秀夫氏
 ラムナンはヒトエグサ(アオサ)を原料としている。三重大学で機能性を検討していたラムナンについて、当社ではその利用面を検討した。
ラムナンは多糖類であるが、9割がたラムノースでできている。血管新生阻害・腫瘍転移阻害作用と、コレステロール低下作用、抗ウィルス作用がある。「ラムナンハイジャン」はラムナンにその他の糖を加えた、粉末清涼飲料である。現在、この分野の商品は25~30億円ほどの市場規模がある。

【中部発】
「イチゴポリフェノールパウダーの開発」
(株)バイオセラピー開発研究センター 
代表取締役 豊田剛史氏
 イチゴポリフェノールは、金沢大学で開発された。化粧品に応用が可能であり、天然香料としても利用可能である。原料のイチゴはトレーサビリティーが取れるものを使用している。細胞内のメラニンの生成阻害作用があり、マルトースの分解阻害作用がある。賞味期限は3年まで確認しているが、2年としている。

【中国発】
「共振周波数を使った、切らずに測る果物の食べ頃予測」
(有)生物振動研究所 
代表取締役 櫻井直樹氏
 果実や野菜の堅さを音響振動で計る技術を開発した。特定の周波数で野菜・果物も共振し、熟成が進むと低い音で共鳴するようになる。適度な堅さの素材は特有の共鳴振動波長があり、熟度判定ができる。この知見を利用し、「食べ五郎2」を製造した。キウイフルーツやスイカで実用化できており、ブドウにも応用を開始している。国・文化による食感の表現に差があり、堅さを数値で表すことには難しさがある。従って、食感の測定装置の開発は困難ではあるが、開発を進めている。

【沖縄発】
「生物資源ライブラリーの構築とそれらを用いた研究開発」
(有)オーピーバイオファクトリー           取締役 金本昭彦氏
 海洋調査をしている海洋プランニング(株)という会社から分かれてできた会社である。石垣を中心として海洋生物の調査を行っている。沖縄では気候や地殻の変動で、特性がある生物種が多く見られる。本社は石垣空港の近くにあり、北部にも試験基地がある。採取したサンプルは様々な機関に提供している。生物体のままの他、エキスサンプルも提供しており、独自にも成分を検討しており、1,000化合物のライブラリー作成を目指している。また、微生物のライブラリーも構築していて、特に海に順応した放線菌などを集めている。活性評価では、抗酸化やGABA生産性などを検討している。加えて、沖縄県が保有する菌株についても検討しようとしている。

【関西発】
「農業の工業化における、パイオニアを目指して~フェアリーエンジェルのビジネスモデル~」
(株)フェアリーエンジェル 
代表取締役 江本謙次氏
 野菜工場を全国に展開している会社である。野菜工場は1990年代にブームとなったが、2000年になって補助金が切れると共に下火となり、再度注目され始めた。農業従事者の減少と食の安心・安全志向の高まりなどの理由があり、植物工場の普及に期待が出てきた。野菜工場はクリーンルーム仕様になっており、35%が電気代で、固定費を全て合わせると90%になる。美味しい野菜を安定的に栽培することと、採算が取れる価格で販路を開拓することが当面の課題である。農業の知識は重要で、野菜の生物としての生理を無視することはできない。販路としては直営レストランや高級スーパー・レストラン向けに販売している。現状では京都府北山、千葉県野田、福井県福井(おそらく世界最大)の工場がある。今後も、三菱ガス化学との協力や、LEDを光源に使うなどの努力を続けていく。

【北海道発】
「サケ白子由来の核酸などの機能性食品、環境材の開発と商品化」
日生バイオ(株) 
執行役員 北海道研究所長 杉正人氏
 当社では、サケの白子を使った機能性食品の製造をしている。サケの白子は未利用資源だったが、原料の供給から見て年間数百トン製造可能で、機能性素材として供給することができる。白子を酵素分解したものを精製した核酸の機能性は、一重項酸素に対する抗酸化作用に基づく効果である。
次に、植物性の乳酸菌の免疫バランス改善効果を検討していて、マウスを使った試験では改善効果を確認している。実際に、免疫系に対する作用についても検討が進んでいる。使用している乳酸菌は耐酸性が強く、ラットに与えたときに糞便中にもこの乳酸菌を確認しており、人に投与しても同じ結果を得ている。
キノコについても検討しており、ラットを使い、ベニクスノキタケの肝機能改善効果と免疫力向上効果も確認している。やはり、免疫バランスの改善に役立っている訳である。
サケ白子DNAの新たな利用法として、変異源物質の捕獲効果がある。これを利用して、タバコやエアコンのフィルターの開発などもしていて、韓国で利用が始まっている。

【中国発】
「植物乳酸菌を利用した機能性ヨーグルトの開発」 
野村乳業(株)  取締役 野村和弘氏
 乳酸菌には非常に多くの種類が存在するが、生息環境で植物や果物から分離される乳酸菌は栄養環境が厳しいところにいる。これらの乳酸菌は乳を発酵できないとされていたが、ヨーグルト状のカードを生成することに成功した。人工胆汁液に対する耐性では乳由来の乳酸菌に比べ、コール酸耐性が非常に強いことに特徴がある。ヒト介入試験では、排便量の増加や肝機能の改善など効果が確認されている。現状では、4種類の製品を広島地域で販売しているが、韓国でも共同事業者とドリンクタイプのヨーグルトを販売している。

【沖縄発】
「沖縄特産!やんばる育ち!勝山シークワーサーの挑戦」
(有)勝山シークワーサー 
統括部長 伊藤恭平氏
 名護市の勝山地区で活動しており、沖縄では珍しい山岳地帯にある中山間地域である。栽培面積も大きくないため、出荷組合を結成して、青果の販売を開始した。年間では半年間くらい青果で流通可能で、1・2月は黄色くなって、糖度も上がってくる。大宜味村産は生産量が大きいので、質の点で差別化しようとしており、有機のトレーサビリティーを確立しようとしている。ジュースの残渣からエキスや天然香料の生産をねらっているが、生産性の向上に取り組んでいるところで、協力してくれる企業等があれば、声を掛けてほしい。

【関西発】
「食品素材としての野生種スイカの魅力」
(株)植物ハイテック研究所 
研究部長 富澤健一氏
 元々は砂漠の緑化を目指し、乾燥に強い組み換え植物を作成していた。地球環境がもっと厳しい時期を生き抜いた遺伝資源を探したところ、ボツワナ共和国のカラハリ砂漠に自生するスイカを見つけた。プロテオーム解析を行ったところ、アルギニン合成系に特徴があった。乾燥ストレスを与えると、シトルリンの含量が大きく上昇し、抗酸化能が大きく上昇した。しかし、実際の抗酸化能はシトルリンの効果以上のものがあり、その原因物質についても検討している。また、果汁にはグリセリンより高い保湿効果も見つけており、美白効果も期待できることが分かった。さらに、肝細胞の繊維化を予防する効果も研究している。

総括:サマリー発表の後、小ホールにおいてポスターセッション及び産学官交流会が開催された。質問や意見・情報交換が活発に行われ、広域に渡る有意義な交流が行われたことを最後に記しておく。
(企画運営委員会副委員長 富永一哉)