HOBIA―近畿バイオインダストリー振興会議交流会の講演概要

 前号に引き続きHOBIA-NPO近畿バイオインダストリー振興会議と
の交流会における講演概要をご報告いたします。
 
 
続き


 「研究開発から事業開発へ ~鮭皮コラーゲンの挑戦~」井原水産株式会社執行役員 開発事業本部コラーゲン事業部長

 盛川 智彦 氏

   当社では、サケのコラーゲンについての事業開発に取り組み始めている。本業は塩数の子製造で、1954年に創業している。この時期は北海道に ニシンが来なくなった時期で、先代社長は世界中から原料を探してきた。本社のある留萌市は非常に小さな街で、過疎化が進んでいる。最初の頃の研究開発は数の子の過酸化水素処理で、残留過酸化水素を除去する研究から始めた。平成7年に道立食品加工研究センターと協力してサケ皮のコラーゲンを開発し始めて、平成13年に化粧品用のアテロコラーゲンを開発した。平成12年にBSE問題が起きて、化粧品メーカーが一斉に牛豚のコラーゲンから別のものに転換を図り始めた。このことが、事業の後押しをしたわけである。平成16年には研究用のコラーゲンゲルを開発し、平成18年には食品・菓子用に需要が伸びてきている。事業の拡大に伴い、昨年コラーゲン事業部を設置した。事業化の壁は様々あり、経営戦略の問題があるので、その点についても後ほど述べたい。
  サケ皮コラーゲンの抽出量は原魚の1/1000で、原料が調達しやすさから事業化できた。魚由来のコラーゲンの優位性は、哺乳類由来より変性温度が低いところにある。多くの魚類コラーゲンの原料はテラピアの鱗で、中国産などが多い。サケは国産に限定しても2,100トンほど年間で生産できる。抽出は酢酸で行い、これを精製している。アミノ酸配列は主にGly-Pro-Hypの繰り返しである。変性温度は17℃くらいであるが、Hypの含量で変性温度が変化する。化粧品で問題になる肌へのなじみやすさは、サケの方が動物性コラーゲンより良いと言える。変性温度の低さは常温流通の障害になったので、変性温度を調節する技術を開発した。きめの細かい繊維構造を持ち、様々な応用範囲がある。
  最近の開発品では、フィブリゲルとして、細胞培養培地として用いられている。ショックにより収縮する性質があり、防ぐ方法を検討している。コラーゲンゴムの人工血管としての応用も考えており、どの様な素材と組み合わせるかが問題となっている。アトピーに対する効果も分かっており、今後検討していく。事業ドメインとしては、食品、化粧品、研究・医療器具・医薬品を考えており、それぞれ異なる業界へのアプローチの方法があるので、それぞれの特徴を良く考えていきたい。マーケットとしては、コラーゲン全体では伸びている。現状では42億円程度だが、末端商品のコラーゲンの含有量は1%程度なので、100倍のマーケットが見込める。ペプチドは優先度が1位だが、厳しい市場である。アテロ製品は成熟市場であるが、2位の優先度を付けている。コラーゲンゴムはこれからの市場で、3位としている。今までは、数の子で収益を上げていたが、こちらの市場は収縮傾向にある。食品部門でキャッシュフローを確保し、リテールを強くして、研究開発企業としての基盤を固めていきたい。そのため、商売を見据えた研究開発を進めていく。未利用資源の確保による、優位性の確保と、用途開発およびマーケティングを重視したい。 コラーゲン事業は事業ポートフォリオとして“問題児”の位置にあるが成長市場であるため、これを“花形事業”にして行きたいと思う。化粧品部門と食品がキャッシュフローエンジンだが、今後は医療等の分野にも踏み込んでいく。

質問:
BSE問題が事業の初めになったと言うが、牛・豚のコラーゲンを完全に置
き換えているのか?肌に良いというのは、ペプチドで効いているのか?
アミノ酸で効いているのか?

回答:
化粧品工業会では動物性を使わない方向性を持っているので、ほぼ置き
換わっていると思われる。効いている成分については、研究も進んでき
ているが、まだハッキリはしていない。

質問:
盛川さんは、BSE問題が事業のきっかけになったとされていた。仮に、
BSE問題が無かった場合、化粧品分野が一番良い商材だろう。これから
エゾシカなども素材が増えてきそうだが、使う気はあるか?

回答:
興味深い素材だと思う。

質問:
コラーゲンゴムやゲルなどではいろいろな中間的堅さのものができると
思うが、試しているか?回答: 開発段階では、いろいろ試している。