去る7月3日、HOBIAと交流協定締結しているNPO近畿バイオインダストリー振興会議との交流会が本年も盛会のうちに開催されました。以下にご講演の一部について概要をご報告いたします。続いて次号より、各ご講演の概要をご報告する予定です。 「創薬基盤技術型バイオベンチャーの事業内容」カルナバイオサイエンス株式会社取締役 事業開発担当 石黒 啓司 氏
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創薬基盤技術型バイオベンチャーの事業内容の一例を紹介いたします。カルナバイオサイエンス株式会社(以下、カルナ)は2003年4月10日に設立された若い会社です。「カルナ」とは、ローマ神話の中に出てくる「人間の健康を守る女神」です。同年に、キナーゼをターゲットにした会社として、神戸市医療産業都市構想に適格な会社として認知されました。当社設立の経緯ですが、1999年に鐘紡の新薬事業はオランダの製薬企業オルガノン社に事業譲渡され、この中の研究部門が母体となり、同社の日本法人であった日本オルガノン社内に医薬研究所が開設されました。当社はこの医薬研究所の閉鎖に伴って日本オルガノンからスピンオフした創薬基盤技術型バイオベンチャーです。現在は、神戸ポートアイランドの一角にあります神戸国際ビジネスセンターに本社を置き、51名(2008年5月31日現在)の経営陣および従業員で運営をしています。2008年3月にJASDAQNEOに上場をしまして、同年6月に、アメリカ、ボストンに営業拠点として現地法人を設立しました。創薬支援事業として、キナーゼタンパク質販売、アッセイ開発とアッセイキットの販売、スクリーニング・プロファイリングサービスを行っています。また、創薬事業としては、2004年に、クリスタルゲノミクス社(韓国)とキナーゼをターゲットとした医薬品候補化合物を創製するための共同研究を開始しました。2006年にはSBIバイオテック株式会社とキナーゼをターゲットとしたキナーゼ阻害剤の創製を目的とした共同研究開発を開始しました。このように、創薬支援事業と創薬事業の両方を同時に進めており、創薬基盤技術型のバイオベンチャーとして活動をしています。当初、経営陣は医薬研究所出身者中心の4名でしたが、他の分野からも経営陣に加わってもらい、多角的な視野での運営となりました。また、当初から多数の大学の先生にサイエンスアドバイザーとして参加をしてもらい、創業理念であります「人々の命を守り、健康に貢献する」ことを目指しています。キナーゼはタンパク質等のリン酸化をする酵素で、生体の中ではシグナル伝達の重要な役割をしています。キナーゼの活性に異常をきたすと、多くの疾患に関与することも報告されています。カルナは、日本オルガノン時代に研究していたキナーゼ研究技術を基本に始まったわけですが、幸いにも当初からキナーゼの創薬研究市場は有望な分野でありました。2010年にはキナーゼ創薬市場が1兆円を超える規模になると予測されています。これは、ノバルティス社のGleevecに代表されるような複数のキナーゼ阻害剤が臨床で使われる成功例が出てきてキナーゼ阻害剤に注目があつまり、製薬企業のキナーゼ阻害剤研究を促進させたことも一つの要因です。現在では、100種類以上のキナーゼ阻害剤が分子標的薬として研究されています。カルナは、設立当初から、ヒトのキナーゼ遺伝子を自社で取得して、昆虫細胞でヒトのタンパク質を生産、商品化しています。キナーゼタンパク質 は、マイクロチューブに分注する形で製品化しました。また、このタンパク質を使って、アッセイ開発の受託、キナーゼ阻害剤のプロファイリングサービスを中心に事業展開をしてきました。近年では、キナーゼタンパク質とバッファー、基質を組み合わせたアッセイキットも商品化しています。 カルナは291種類のキナーゼタンパク質を販売しています。競合他社と比較しても、世界最大のヒトキナーゼタンパク質をライブラリーとして持つことができました。カルナのキナーゼタンパク質製品は、昆虫細胞由来の混入するキナーゼ活性が少なく、製品のキナーゼ活性が高いことです。カルナだけが販売できているタンパク質は、30種類ほどあることもカルナの強みになっています。アッセイ開発技術を使ったプロファイリングサービスはMobility Shift Assay(MSA)法を中心に開発・商品化しており、信頼性の高い技術を構築しました。自社が持っている270種類のプロファイリングキナーゼ種のうち、207種類が このMSA法で構築されたものです。このサービスには、分注用ロボットも導入して、さらなるコストダウンも目指しております。一方、カルナの創薬事業は、Phase 2aまでを研究・開発領域として創薬研究をしています。創薬事業では、自社および共同研究から創製された化合物のライセンスアウトやマイルストーン、ロイヤリティーからの収益を目指しています。カルナの創薬事業は、創薬支援事業で構築した確かな技術を使って、良く効き、副作用の少ないキナーゼ阻害剤を早く作ることが基本方針です。そして、ブロックバスター(年間売り上げ1000億円以上の医薬品)の創製を目指しています。創薬事業での当社の強みは、創薬研究に携わってきた優秀な研究者に加えて、社内に270種類のキナーゼアッセイ系を持ち、プロファイリング結果をいち早く知ることができることです。このことから、創薬研究を短期間にすることができます。その成果は、クリスタルゲノミ クス社との創薬研究で特許出願を短時間にすることができました。カルナの創薬基盤技術型の事業形態は、創薬支援事業で日々の事業資金を調達しながら、比較的時間の必要な創薬事業を継続して、研究成果を出していくことです。
質問:
キナーゼ阻害剤を天然物から見つけることについてどのようにお考えでしょうか?回答:
キナーゼタンパク質の構造は極めて類似しています。よって、多くのキナーゼ阻害剤候補が研究されましたが、化合物の構造に類似性があります。また化学修飾による構造変換のスペースも比較的狭いと考えられています。新たな骨格を見出すには、天然物から探索をすることが一つの方法ではあります。しかし、これまで多くの製薬企業等が試みてきましたが、成果は思ったとおりに出ていないようです。
質問:
DNAアレーなどを使ったバイオベンチャーは苦労しているが、何故御社は上手く行っているのか?
回答:
市場の大きさが企業化をする上で重要と考えます。当初は、私たちもキナーゼ創薬市場の実態を正確に把握していたわけではなかったように思います。しかし、調査をすると大きな市場であることがわかってきました。
(文責:富永一哉 HOBIA企画運営副委員長)