第17回 北海道バイオステージ 実施報告

北海道は冷涼な気候と豊富なバイオ資源に恵まれ、これまでに各地で積極的な研究開発がなされてきました。HOBIAでは、これら道内各地のバイオ技
術の発展とバイオ産業の振興に寄与する目的で、昭和60年の発足時から毎年各地域において「北海道バイオステージ」を開催し、多くの成果と高い評価を得て
きました。

第17回目となる本年度の北海道バイオステージは、オホーツクの中核都市である北見市において、「オホーツクの幸とバイオテクノロジー」と題し、去る11
月7日(水)北見ホテル黒部で開催されました。当日は、90名を越す参加者があり、講演会や展示物を前に盛んに討論が交わされました。以下、講演の概要を
お届けします。

【講演会】 「オホーツクの幸とバイオテクノロジー」
1.「タマネギの機能性解明と事業化」
   北海道東海大学 工学部 生物工学科
   教授 西村 弘行 氏

((株)北海道バイオインダストリー副社長)

<北海道農業の問題点とアグリエコ産業の推進>

北海道には20以上のクラスターが立ち上がっているがなかなか事業化に結びつかない。事業化には売り方が大切だが、それには値段、販路が大切。これからは自立し、北海道の環境に適していて、安全安心を提供できる農業生産を目指すことが大切である。

<食べて治す>

糖尿病、痴呆症についても科学的データがたくさん出てきて、各種の活性酸素が関与していることが明らかとなった。この活性酸素を取り除くような食素材があ
れば生活習慣病を防ぐことができる。今や日常生活の中で食品で病気を防ぐことが大切。逆に、ここにビジネスチャンスが生まれてくる。

<タマネギの機能性>

アンジオテンシン変換酵素阻害効果を北海道の食素材に求めたところ、タマネギに強い活性があった。活性成分はケルセチン(Quercetin-4′-O-
glucoside)と言う物質。北見産のタマネギにはこのケルセチン配糖体が多い。タマネギ、ニンニク、ネギなどには、血小板凝集阻害活性(血液サラサ
ラ効果)を持つ化合物が含まれる。また、記憶障害の改善効果や、ガン予防にも可能性がある。学習記憶障害を治すような効果もある。

<ヒト介入アッセイ系による健康機能の解明とバイオベンチャー事業化>

私を含めた研究室の学生にお願いしてヒト介入試験を行っている。もちろん、前もってヘルシンキ宣言に基づいて説明し、医療行為は病院でやってもらっている。ヒト介入試験は食の分野でもこれから益々重要になる。

2.「くらしとバイオ」 -消費者ニーズに応える-
     (財)バイオインダストリー協会 産業と社会部
     主任 佐々 義子 氏

<はじめに>

日本の農業地域は元気の無いところが多いが、ここオホーツクは元気が感じられる。バイオ技術が進むと、製品を見ても分からないのでパブリックアクセプタン
スが必要だ。いろいろなバイオ製品を分かっていただくには、消費者と仲良くしなければならない。一人一人が新しい技術との出会いに感動すると同時に、それ
を見た消費者の気持ちになり、自分なりに科学、安全、危険、安心とは何かを考えなくてはならない。政府がお墨付きを与え、それに頼る時代は終わった。

<情報提供が大切>

平成6年にキモシンを使ったチーズが初めて日本に上陸した。キモシンの時には消費者も比較的平穏だったが、平成8年に除草剤耐性の遺伝子組換え農作物が
入ってきたときに大きな反対運動が起こった。そこで、政府も安全性は問題ないけれども、消費者に知らせるために表示をすることになった。

<消費者意識>

遺伝子を食べているかとアンケート調査をしたところ、5人中4人が遺伝子を食べていないと答えている。どんな食品にもそれが生物由来である限り遺伝子が
入っている。生活者は自分なりの安全基準を持っており、それには納得できる情報がほしいと考えているようだ。

<技術の進歩と難解になりつつある用語>

確かに、技術がかなり進んできてかなり専門用語が多くて困ることが多い。必要最低限の項目として、①生物に関すること、②安全性の考え方、③流通に関すること、④全体からの視点などの知識が現在の日本の食を理解し、判断するには必要。

<これからの問題点>

消費者が安心して選ぶために、これからの情報伝達を見直していかなければならない。例えば皆で考える意見交換会や、体験学習、コンセンサス会議を開くな
ど。作る側は、これまで消費者の気持ちを考えてこなかった。これからは消費者を裏切らず、安全、安心を提供し、食のクオリティを上げると共におもてなしの
心が問われている。

3.「オホーツクの農業の現状と将来」
    東京農業大学 生物産業学部 網走寒冷地農場
    助教授 吉田穂積 氏

<オホーツクと十勝の比較>

網走支庁は道内の12.8%を占める面積で、岐阜県に相当する。その14%は農地で、北海道の中では重要な位置を占め、14%の粗生産額を誇る。支庁の総
面積は変わらないが、耕地面積では十勝が25万ha、オホーツクは17万haで生産量に違いがある。総数では負けているが、生産効率を見ると十勝は10a
当たり3万4千円、網走は3万5千円と負けていない。

<オホーツクの現状>

最近、野菜が増加し、お米が減少している。豆が微増し、その分芋や麦が減少。網走を西紋、東紋、北見、斜網、美女の5つの地域に分けてみるとそれぞれ特徴が表れる。(詳細は省略)

<価格>

価格は、ジャガイモ、大根は安定しているが、ゴボウ、ニンジンは年ごとの変化が大きい。野菜類は輸送費が高いので、価格を維持するために選別をかけ、
ちょっとでも曲がっていると捨てる。この捨てている野菜を有効利用できれば、この地域の農業は変化する。ここは農家の努力ではどうにもならない部分。価格
が安定しているのは、ジャガイモ、タマネギ、甜菜で、これらの作物を中心に入れていかないと農家経営が危うくなる。

<オホーツクの農業者>

所得は、一家当たり北見で600万円、美女は750万円、斜網は1000万円と差がある。平均を取ると、年間労働時間2844時間 年間所得834万円 
時給2935円で他の産業、職業よりもよい。全国比で小麦、馬鈴薯、甜菜、タマネギの単位収量が高い。世界的に見ても、ヨーロッパの小麦には負けているが
他は勝っている。

<今後のオホーツク農業>

農業従事者の統計を見てみると、全国的には60歳以上の人が45%もいるが北海道、特にオホーツクは若い人が担い手として存在しバランスが取れている。この人材の育成をどうするかが今後の問題だろう。技術はヒトが作るものだから。

 

4.「北海道における秋蒔き硬質小麦の育種と新用途開発」
      北海道農業研究センター畑作研究部
      質制御研究チーム長 山内 宏昭 氏

<はじめに>

北海道は、全国の小麦生産の60%以上を生産する一大生産地で、全国的にも高品質小麦の生産地域として注目されている。主力品種は秋まきの中力小麦ホクシ
ンであり、ハルユタカの作付け面積は穂発芽の影響を受けやすいので減っている。栽培面積は1万ha程度。強力粉は340万トンが消費されているが(パン、
中華麺、即席麺用)、自給率は0.9%である。うどん用中力小麦の需要は57万トンと少ない。国産、特に北海道産の強力粉は非常に生産量が少ないので人気
はあるが、品質はもう一歩。ハルユタカは蛋白が弱く、ホロシリ小麦は加工特性が劣り、パンとかラーメンには使えない。

<硬質小麦の育種>

初期段階でどれくらい悪いものを落とせるかが大切。一次スクリーニングは蛋白質含有量、二次スクリーニングは小麦粉製パン性の評価、三次スクリーニングは
パンのミキシング時の特性を評価、四次スクリーニングは真空生地膨張量による評価を行い、秋まき強力小麦としてキタノカオリを選抜した。これまでに比べる
と格段によい品質であった。

<用途開発>

キタノカオリを各種パンおよび中華麺での評価を行った。その結果、パン、中華麺では、やや改善点があるものの、品質的には負けないことが分かった。特殊用途としてはコロッケに使う変性粉にするとよい特性を持つ。

<超強力粉の用途開発>

キタカオリと同時に超強力粉を開発した。これは、ミキシング時間が多い、破断力が大きい、真空膨張量が高いという特性を持っている。冷凍生地製パンへ利用
すると、4週間冷凍してもしぼみが少なく大きいものができる。他にも、超強力粉ブレンドによる国産小麦粉の製パン性向上、雑穀パンの製パン性向上、国産小
麦の中華麺特性向上に使えることが分かった。国産の、ホクシン、ハルユタカに超強力粉を入れると改善効果が大きい。

北海道は卵白、グルテンを入れた腰の強いラーメンが好みだが、超強力粉を入れることによって卵白・グルテンを入れなくても強い腰のラーメンが出来る。しかも、卵白、グルテンに比べて色がよく価格が安い。

もうすこしで、ホロシリ小麦はキタノカオリに替わるだろう。将来的にはアメリカ産とも競合できるようになると思う。