去る1月24日(木)、ホテル札幌ガーデンパレスにおいて、105回例会が41名の参加を得て開催されました。また、例会終了後、新年交礼会も和やかに行われ、新たな一年に向けて結束を固めました。
以下に、第105回例会でのご講演内容の概要を紹介します。
=== 講演1 ======
【演 題】「経済産業省のバイオインダストリー政策について」
【講演者】 経済産業省製造産業局 生物化学産業課
課長 倉田 健児 氏
バイオテクノロジーとは、「生体が持つ物質、情報、エネルギーの処理、伝達、変換機能を利用、模倣する技術」と理解している。この技術は、その利用によって人や自然に大きな影響を与え、その結果として社会を変革する。こうした特質を持つバイオテクノロジーをいかに社会に適切に導入し普及させていくか、これ自体を非常に大きな政策目的と考えている。また、バイオテクノロジーの社会への導入や普及は、バイオテクノロジーという技術を体現した製品やサービスの上市に他ならず、これを担うのは民間産業部門である。このことを十分に心に留める必要があると考えている。
ここで我が国のバイオテクノロジー研究の現状と市場規模について触れる。総務省統計局が発表している「科学技術研究調査報告」によれば、研究費の絶対額及びその伸び率ともに情報通信及びライフサイエンスの両分野が大きいことが示される。これを組織別研究費でみると、ライフサイエンス分野では大学や公的研究機関の占める比率が50%超となっているのに対し、情報通信分野では逆に企業の占める比率が90%を超えている。このことからは、ライフサイエンス分野での公的資金を用いた研究開発の比率が高いことが示され、研究のステージも相応に基礎的な分野が多いことが窺える。また、日経BIO年鑑でバイオテクノロジーの分野別市場規模を見ると、医薬品が8,390億円で分の1弱を占め、遺伝子組み換えなどの輸入農産品の2,870億円、農業・食品の2,308億円がこれに続いている。
経済産業省生物化学産業課ではこのような現状をも念頭に、先に述べた政策目的を達成するために幅広い取組みを行っている。こうした取組みは、バイオテクノロジーの利用の拡大と利用のための環境整備に大別できるが、前者では研究開発の促進、生物資源の確保、ベンチャー支援、人材育成、さらには医療・健康、農業・食品、環境・エネルギーなどの個別分野を念頭に置いた利用拡大の支援を行っている。また後者では、知財保護、標準化の推進、個人情報保護、国民理解の促進、安全性の確保に加え、生物多様性条約やカルタヘナ議定書、さらには生物兵器禁止条約などの国際枠組みへの参加を施策として挙げることができる。
本日はバイオマスを具体的事例として取り上げ、これに関連したバイオテクノロジーの導入と普及のあり方について考えたい。現在、バイオマスに対して大きな期待が抱かれ、こうした期待を背景にバイオマスの利用を促進するための検討が種々行われている。このような動きの背景にある要因は様々であるが、その底流に地球環境問題が存在することは明らかだ。地球環境問題への対応として我々が目指すべき社会のキーコンセプトは、持続可能性となる。再生可能な資源であるバイオマスの利用の拡大が求められるのは、まさに、バイオマスが持続可能な社会を構築する上で、技術的に大きな可能性を秘めているからに他ならない。
バイオマスをどのような形態で使用するのかは、現実の導入に際しては非常に重要となる。エネルギー用途であろうと非エネルギー用途であろうとそれぞれが既存の用途である限り、現に使用されている資源が存在する。このような使用の実態を前提に、現実社会では制度なりインフラが整備されてきている。こうした社会的基盤への適合性を考慮せずしてバイオマスの導入を図ろうとしても、それは現実的でない。
多大なエネルギーを消費している自動車輸送を例にこのことを考えてみよう。輸送という役割を担っているのは、化石燃料の燃焼により動力を得ている自動車である。自動車がこの役割を果たすためには、燃料を全国津々浦々にまで配送し、貯蔵し、自動車に供給するための膨大なインフラが必要になる。また、自動車の走行によって発生する環境汚染に対しては、環境規制などこれを低減させるための社会的な制度が存在している。こうした制度は、自動車を利用することで得られる便益をも勘案しつつ、相当の年月をかけて社会が許容し得る環境汚染の程度を模索してきたことの結果として存在している。
こうした例から明らかなように、バイオマスの利用の拡大は既存の社会システムと独立に実現されるわけではない。現に構築されている制度、インフラの存在を前提に、それら基盤を利用し得る枠内での導入が現実的といえる。
また、バイオマスの導入に際し、「効率」の議論を避けて通ることはできない。ここでは、経済的な効率とエネルギー的な効率の二つを考えたい。バイオマスの導入に要する経済的なコストが、それによって置き換えられる既存の手法に比べ高いのか低いのか。これが経済的な効率の議論である。もう一つのエネルギー効率ではどうか。バイオマスをエタノールに転換しエネルギーとして利用する場合を想定すると分かり易い。バイオマスのエタノールへの変換にはエネルギーの投入を要する。投入されるエネルギーは、通常は化石燃料である。生み出されたエタノールを従来の化石燃料の代替として導入する以上、投入する化石燃料以上のエネルギー価のエタノールが得られなければ、エタノールへの変換を行う意味がない。
経済的な効率に関しては、導入促進の背景にある政策に対して経済性を凌駕する価値を見いだすことで、仮に経済性が劣ったとしてもバイオマスの導入は正当化され得る。一方でエネルギー効率は、地球温暖化を防ぐという価値そのものへの貢献を直接指し示す指標である。従ってバイオマス導入によって得られるエネルギーが投入エネルギーを下回る場合には、その行為を正当化することはできない。
エネルギー効率のレベルに関しては、様々な検討、議論がなされている。どのようなバイオマス資源を想定するのか、またそれが資源作物であるならばどのような条件の下での栽培なのかなど、前提とする条件によって結果は千差万別となっている。技術の将来を見通せば、研究開発の積み重ねの中で確実にエネルギー効率を上げていくことが期待されている。
こうした技術の将来性を前提に、バイオマスの導入に関する施策はどうあるべきか。食糧と競合する度合いの少ないセルロース系のバイオマスの導入拡大を図るべく、技術的にはバイオマス資源からエタノールなどの有機液体燃料への化学生物学的変換のエネルギー効率向上を目指した地道な研究開発への注力が、現段階の日本にとって必要なことといえるのではないか。その際には、対象となる植物の育種、品種改良から、糖化、発酵にいたるまでの各フェーズを一連の研究として統合した取り組みを行うことが重要である。技術が導入される社会の側においては、開発された技術が既存の社会システムの中に円滑に入り込めるよう制度的な検討を行い、また必要な制度的手当を極力早期から実施していく姿勢が求められることになる。
最後にこれまでの技術の発展を振り返ってみたい。採集と狩猟から農業へ、そして工業へと、人類はそれまでの社会が頼る技術が持続可能性の壁に突き当たる毎に、新たな技術によってその壁を突き破ってきた。その結果が人間活動の際限なき拡大である。
バイオマス利用の拡大が求められるのは、バイオマスが再生可能な資源であるとの前提が置かれているからだ。さらに、再生可能であるが故にその利用は持続可能な発展に大きく貢献することが期待される。他方同時に、持続可能性の壁に阻まれては新たな技術を導入することを繰り返してきたこれまでの人類の営みが想起される。個々の技術をいかに活用するかとの視点を超えて我々人類の営みのあり方を変えない限り、バイオマスの利用を進めていったとしてもいつの日にかまた新たな壁に阻まれる事態に至るのではないか。このような想いを抱かずにはおれない。
バイオマスの利用を進めていく上では、その技術的側面からの検討だけではなく、新たな技術を用いる社会の営みのあり方を持続可能性という観点から見つめ直すことが、同時に必要となるだろう。
=== 講演2 ======
【演 題】「食品(健康食品を含む)の機能表示および安全性確保に関する国際的動き」
【講演者】 NNFAジャパン(日本栄養・食品協会)
専務理事 末木 一夫 氏
NNFAジャパンは健康食品を中心とした業界の団体で、活動のひとつとして厚生労働省に規制の緩和を求めている国際色の強い組織である。
私は、有効性を表示できる特定保健用食品の技術部会に参加したり、ヨーロッパの同様の会に参加したりしてきたので、今日はその内容についてお話しする。今日のテーマは機能表示(健康強調表示:以下ヘルスクレーム)および安全性確保に関する国際的動きということであるが、今日の参加者には企業の方が多いので、機能性の方に重きを置く。
今日は、機能性表示の国際的状況、日本の特定保健用食品の現状、健康食品の市場、安全性確保の取り組みに対する国際的状況、日本における今後の課題・展望の順にお話しする。機能性食品とは「バランスの良い通常の食事の一部として摂られる食品で、元来食品が持っている栄養素の供給としての役割だけでなく、栄養学的役割以外の生理学的利点(食の第三次機能)を有する食品」と定義される。食品の表示・広告宣伝は消費者と生産者の双方にとって重要で、健康被害が生じないように制限が設けられている。
EUにおける機能性食品の取り組みは、相当にお金と時間を掛けて議論された結果として、2007年月1日に制度化された。その施行によって、ジェネリックヘルスクレームを2008年1月31日まで提出することになっている。その制度においてヘルスクレームは、食品カテゴリー、食品あるいは食品中成分と健康の間に存在する関係について説明、示唆、暗示する表示と定義づけしている。その種類には、ジェネリック表示、疾病リスク低減表示、小児の発育と健康に関する強調表示がある。ヘルスクレームに関しては昨年の秋からCODEXのCCNFSDU(栄養特殊用途食品部会)においても議論が開始された。
ヨーロッパにおける機能性食品に関する合意では、運用定義の主要点は4点で、1)ダイエタリーサプリメントの形態を含まない、)科学的組織の充分な合意に基づく有効性表示をする、3)栄養的効果を超えた身体機能に良い効果で体調の改善および/あるいは疾病のリスク低減(リスクリダクション)に役立つ、4)通常の食事の一部として利用する、である。この定義から、日本の特定保健用食品は薬品であるという発言もある。機能性食品の条件に関しては、下記の項目が提示されている。①明確な製品目的を有すること、②経口摂取で効果を発揮すること、③化学構造が解明されている機能性因子を含有すること、④食品中での存在形態(結合型あるいは遊離型)が明確であること、⑤機能性因子の作用機序が解明されていること、⑥安全性が高いこと(有害量/有効量比が大きいこと)、⑦食品中で安定に存在し得ること、⑧食品として受諾性を有すること。ヘルスクレームを支える科学的根拠の序列では、世界的な考え方と同様にヒト介入試験が最も高い位置にある。
PASSCLAIMプロジェクト(2001~2005年)では、消費者が理解できる表示をするという方向で検討が進められた。PASSCLAIM-ITGs(検討作業グループ)では、つのカテゴリー、即ち心血管系疾病、骨の健康と骨粗鬆症、運動能力とフィットネス、規制に関連する国際的状況の把握、インスリン感受性と糖尿病リスク、食品関連のがん、行動と精神機能、消化器官の健康と免疫能について検討され、既に報告書が出ている。ターゲット機能への効果に基づいた表示の例や記憶の改善、腸の健康と免疫機能等もある。
アメリカにおける機能性食品の動向を見ると、1990年にNLEA法が制定され、FDAが食品の疾病リスク低減表示を順次公表している。また、1994年に制定されたDSHEA法で定められた身体の構造機能表示は日本の保健機能食品の表示制度に相当するが、これは日本の制度より自己責任性で、それをやや緩めた規制になっている。QHC(条件付きヘルスクレーム)とそれより厳しいSSA(非常に統計的に有意である)の規準がある。
アジアにおける機能性食品の取り組みでは、韓国ではHealth Functional Foodsの制度があり、3つのカテゴリーを持っている。中国では国食健宇の制度があるが、内容がしばしば変わる。オーストラリアとニュージーランドは、カナダとイギリスの制度をモデルとして、制度化を進めている。ASEAN諸国ではマレーシアが比較的進んでいて、それ以外の国はあまり進んでいない。台湾の情報はあまりもっていないがやはり相当する制度がある。
日本の制度では特定保健用食品と栄養機能食品があるが、保健の用途の拡大や表示の見直し・適正化がすすめられている。条件付き特定保健用食品の制度ができたが、まだ申請は1件しかない。費用がかからないことが期待されたが、従来の特定保健用食品とそれほど費用的な差がなかったためである。新規の「保健の用途」取得においては、可能性のある分野と取得が難しいと考えられる分野があり、その代表格として抗炎症やアレルギー改善などが挙げられる。食経験が豊富な食物中の成分、単一の関与成分で同定・確認が可能、有効性データが国際的に信頼できる評価方法で評価されていること、作用機序の解明、体内動態、安全性等基礎的データが十分あるなど、取得しやすい新規関与成分で特定保健用食品を取得することを検討した方が良い。難しい分野は、専ら医薬品として使用される成分含有、疾病名、体の部位名のある保健の用途、関与成分の抽出溶媒が、水、エタノール以外等の場合で、関与成分のロット間バラツキが大(規格設定が困難)などがある。食品安全委員会の評価のポイントは、日本での食経験があることである。
健康食品の市場は世界で兆円ほどありアジアは有望な市場である。中国においても日本においても、マルチビタミン製品は1位を占める商材である。アジアの国別の市場サイズでは、日本に続いて中国が伸びており、韓国や台湾がそれに続いている。
食品機能とリスクを見ていくと、機能性の作用機序の観点から併用すると危険な食品もある。ヨーロッパでは、緊急警告のシステムがあるが、日本では制度が上手く機能していない。アメリカでもMed WatchおよびAERの制度があり、AER法においては企業規模により義務の程度が異なる。
健康食品の問題点としては、GMPの整備や有効性・安全性データの整備等がある。一方セルフメディケーションの普及が重要であることから、健康食品は現に存在するが、今後の課題としては、位置付け、法制度の確立、消費者に対するメリット・デメリット、医療財政へのインパクト(メリット・デメリット)、有効性評価ガイドライン整備、安全性評価ガイドライン整備等が挙げられる。
有効性・安全性表示のあり方には、消費者にわかり易い表示が必要である。地場産業の力を高めるためには、オリジナル技術の成果によるオリジナル産品の科学的データの効率的蓄積、オリジナル産品の流通・販路の開拓、中小企業地域資源活用促進法<経済産業省、中小企業庁>等の方策がある。国際バイオベンチャーとも、複数のネットワークを作り始めているという動きもある。
科学的な観点から見ると、有効性・安全性の評価手法、適切なバイオマーカーの開発、例えば“オミックス”の利用、炎症と免疫、内分泌の科学などが必要だろう。まとめとしては、疾病予防戦略としての栄養素による疾病予防、運動による疾病予防、良好な精神状態による疾病予防、QOL改善による疾病予防、機能性食品、医薬品による疾病予防、技術力向上による経済力発展が必要になってくる。
Q:食品以外では小さな企業でもISOを取ろうとしているが、食品企業ではどうなっているか?
A:ヨーロッパの企業ではISOを使っているので、ヨーロッパ企業と関係のある企業ではISOを使っているが、GMPを取り入れる傾向がでている。アメリカではGMPが主流なので、GMPを取り入れる必要がある。
Q:ヨーロッパでの申請は、ジェネリック1本なのだろうか? ヒト介入試験が必要なものでは、どの程度のデータが必要なのであろうか?アメリカでは規準が緩いようだが、価格に差が出てくるだろうか? 日本では食では特許が取れない傾向があるが、知財の面での保護政策はどのようになっているか?
Q:日本と同じ個別型もある。必要なデータはヨーロッパの方が日本よりやや厳しいと思われ、日本もそれに倣おうとしている。規準の緩さは確かに価格に影響するが、トラブルが起こった場合のペナルティーは厳しいことを考慮してほしい。知財権に関しては、ヨーロッパでは年の優先権が与えられることになっている。
Q:医薬と食の区別が付けにくいと思うが、定義付けをしているところはあるか?
A:ヨーロッパでは公正な取引を妨害してはならないという前提があり、国によって規準に差があるが、上手く調整をしている。