「地域バイオ育成講座in旭川」 実施報告

昨年12月の帯広での開催に引き続き、今度は旭川市で、地域バイオ推進実行委員会の主催による標記講座「大豆ビジネスセミナー」が開催されました。第1部のセミナーでは、一般市民を含む93名もの参加をいただき、盛会裡に行われました。
続く第部の旭川食品加工協議会の「大豆プロジェクト成果披露会」にはさらに多くの市民も加わり、110名の参加を得て、関連9社の開発製品(商品や試作品)が多数並べられ、試食会が行われました。豆乳茶碗蒸しや黒豆どらやき、大豆シフォンケーキ、茶豆を使った甘納豆や豆乳ラーメンの試食が用意され、会場は熱気につつまれ、あちこちから「おいしい」「もっと食べたい」などの声が聞こえ、アンケート用紙に真剣に記入する参加者の姿から、関係者は手応えを感じていた様子でした。
 



以下に、同講座第1部でのご講演内容を紹介します。

=== 講演1 ======
【演 題】「北海道における大豆新品種開発と品種加工適性」
【講演者】 北海道立中央農業試験場 作物研究部

畑作科長 田中 義則 氏

<北海道の大豆生産と育種>

日本の大豆生産の特徴のひとつは、作付面積の80%が水田転換畑で作られることである。主産地の北海道では、一時期の黒大豆ブーム終焉後、面積は減少したが、それでも近年は万ha以上を維持している。北海道での産地は大きくつに分けられ、ひとつは約60%を占める道央の転換畑、もう一方が約40%の道東・上川・網走の畑作地帯である。

大豆の品種でみると、本州では豆腐用のエンレイ、フクユタカなどの品種が代表されるが、北海道で栽培されている18品種のうち、煮豆・豆腐用のユキホマレ、トヨムスメ、トヨコマチ、納豆用のスズマルなどが代表にあげられる。

大豆生産の基本となる三本柱は、栽培環境・栽培技術・品種選択であり、あまり意識されないが土地にあった品種を選択することも重要な技術である。

北海道産大豆として「とよまさり」があるが、これは品種名ではなく「ブランド」である。このブランドの基幹品種はかつてトヨムスメ・トヨコマチであったが、現在はユキホマレが主役に代わるなど、ダイナミックな品種変遷がみられる。

我々は農林水産省の大豆育種指定試験事業として委託されて、新品種開発を担当しており、中央農試が道央・道南部を受け持ち、十勝農試が十勝・道東・道北を受け持っている。

育種は「交配による新しい組合せの創出→望ましい個体や系統の選抜→選んだ個体や系統の評価」のサイクルを何度も繰り返し行うものであるが、近年はMAS(分子マーカー選抜)による戻し交配というバイテクを使うことにより、上記サイクルを1年に3回まで出来るようになった。

北海道における大豆の育種戦略としては、①ニーズに即した高品質化、②安定生産のための障害抵抗性強化、③低コスト生産のための収量性・機械化適性の向上の3つがある。

<障害抵抗性強化の取り組み>

ダイズシストセンチュウは、大豆や小豆の根に寄生して生育を阻害し、減収という大きな被害を及ぼすが、スズマルなど感受性品種だと減収被害は大きい。そこで抵抗性品種の開発に取り組んで来た結果、「レース3抵抗性」の付与に成功している。さらに「レース1抵抗性」付与のために、マーカー選抜技術による戻し交雑育種法を用いてポイント改良に取り組んだ。その結果、加工適性や栽培特性はユキホマレ並みで、ダイズシストセンチュウに特に強い系統の選抜に成功し、現在品種化を目指している。

また、減収被害をもたらすダイズわい化病については、現在、基幹品種へ抵抗性の導入を進めている状況であり、低温着色被害については、抵抗性が強い新品種トヨハルカの育成に成功している。

一方、冷害克服のための耐冷性品種の開発も、従来技術により続けている。また、水田転換畑の大豆に発生しやすい湿害については、茎疫病とそれ以外の要因に分けてチェックするシステムがほぼ出来ている。

<ニーズに即した高品質化>

用途別加工適性の向上も重要な課題ととらえている。そのため、全粒のまま、粒をこわさないで調べることができる分析法の開発なども進められている。

北海道で大豆新品種が誕生して直ぐに商品化に興味を示すのは、これまでも京都府や長野県、愛知県など本州の加工メーカーが多く、実際に契約栽培した例もあるが、残念ながら道内メーカーではほとんどなかった。生産者と消費者がつながる農業により地域を活性化するには、地元の生産者と需要者である加工メーカーが直接結びつくことも重要であり、そのためには道内の産学官による連携が必要であると考えられる。

Q:日本の大豆生産自給率は3%くらいだろう。アップのためにはコスト低下が必要ではないか?

A:輸入大豆との価格差はちぢまってきている。食用大豆としては自給率23%前後ではないか。収量アップが望まれるが、現在、北海道は10アール当たり4俵のところ、俵になるのが望まれる。

Q:「とよまさり」はブランドということだが、道産はすべて「とよまさり」?

A:他に、「つるの子」や「光黒」などのブランドがある。ブランドとしてのメリットは大きいと考えている。

 
=== 講演2 ======
【演 題】「十勝における大豆加工の取り組み」
【講演者】 北海道立十勝圏地域食品加工技術センター

研究員 川原 美香氏

本日は「大豆ビジネスセミナー」ということで、当センターで取り組んだ大豆に関する試験の一部について紹介する。内容的にはバイオの最先端ということではないが、いろいろな取り組みの話の中から皆さんが大豆で「ものづくり」をされる際のヒントになるようなものがあれば幸いである。現在、日本の食糧自給率は39%(カロリーベース、H18)、大豆は%(H17概算値)。数字だけではなかなかイメージがつかみづらいので、食糧自給率の説明をする場合、農水省のホームページに掲載されている国内生産品のみでエネルギー摂取する場合の食事のメニュー例を紹介している。国内でまかなえる材料だけでは実に侘びしい食事になってしまうことがお分かりになるかと思う。飼料作物の自給率も25%程度なので、実際に自給可能な動物性たんぱく質も非常に少ないのが現状である。その中で、大豆は非常に生産効率の高いタンパク源であるとともに、様々な機能性が見出されている魅力的な食材であると考えられる。

食品用大豆の主な用途は豆腐(油揚を含む)、納豆、味噌である。その中でも豆腐への加工が50%近くを占める。平成9年に大豆の機能性に着目した試験を行いたいと考えた時、丁度、イソフラボンの骨粗鬆症の予防効果が雑誌に掲載され、十勝の大豆にどれくらいの含量があるのか調べてみることにした。当時はまだイソフラボンが機能性成分として一般の人には周知されておらず、大豆特有の成分であることや、その機能性・新規性に注目すると、非常にPR性の高い成分であると思われた。まず品種間差でみると、当時、農業試験場の圃場で栽培された14品種の大豆で比較すると、スズヒメと音更大袖に高含量で含まれており、豆腐用に輸入されていたアメリカ大豆、中国大豆の約倍の含量であることが分かった。次年度の追試験でも同様の結果が得られ、イソフラボン含量は品種特異性があることが推察された。また、その後、世界の大豆を調べたデータが報告され、緯度の高い地域で栽培された大豆にイソフラボンは多い傾向があることが知られるようになった。このことは、北海道で栽培される大豆には有利な点であると考えられる。現在では食品安全委員会の提言で、サプリメントとしてのイソフラボンの摂取量は通常の食品にプラス30mg/日以下にすることとされているが、一般的な食生活の方はイソフラボン含量の多い品種の北海道産大豆を食べていれば含量的にはサプリメントはいらないのである。

次に大豆加工食品を作る際のイソフラボンの推移を調べてみた。木綿豆腐の場合は豆乳にイソフラボンが大部分移行し、脱水する際にゆと豆腐に半分ずつ移行していた。このゆを何か有効に利用出来たら良いと思う。納豆の場合では、イソフラボンの損失は大変少ないと言える。その他に、テンペを製造していた会社もあったことから、その工程も調べてみた。それぞれの調査から得られた結論として、最終製品にイソフラボンを多く残すためには、薄皮は除去しても構わないが、大豆の形をなるべく崩さず、浸漬温度を高くしなければ、そこまでは損失はほとんど無く、加熱はボイルよりスチームを使ったほうが良いことが分かった。また、発酵による損失は、配糖体がアグリコン化する見かけ上の損失であることから、特に問題はないことも確認できた。このような知見を基にその後、大豆丸ごと粉末を用いたイソフラボン、食物繊維豊富な食品の試作を行ったりしたが、まだ商品化には至っていない。

次に商品開発例として「とうふくん」という商品を紹介する。この試験は帯広市産業クラスター研究会「食の広場」という事業でスタートした。日持ちのする豆腐加工品を作るのが目的で、食品会社だけではなく、工業資材、製造機械、デザイン等を専門とする異業種企業が協力して取り組み、当センターでは製造技術の協力、品質指導を行った。工程としては、十勝産大豆の豆腐をうまく結着するように工夫して固めた後、調味液に漬け、燻煙したもので、イソフラボン量も高く、冷蔵で長期日持ちのする製品となった。堅さは、プロセスチーズとカマンベールチーズの中間程度となり、ヘルシーなおつまみ感覚で利用できる。H18にはパッケージデザインで「ほっかいどうグッドデザインコンペティション」特別賞を受賞した。価格は豆腐と比較するとかなり高いが、主におみやげ用途に好評で、今や販売企業の売り上げの%程度を占めているそうである。

Q:寒いところの大豆はイソフラボンが多いと言うが、何故か? テンペ菌は納豆菌とどう違うのか?

A:イソフラボンの含量は、開花期から結実までの積算温度が影響していることが報告されており、低温の方が高い。納豆菌はバチルス属の細菌で、テンペ菌はリゾプス属の糸状菌である。それぞれの微生物は、タンパクの分解能力や製品の味の点で異なる。テンペ菌は臭みがあまりない。

Q:大豆と昆布は相性がよいが、他に合わせると良いものはあるか? イソフラボンは、何か加工すると吸収しやすさが変わるものなのか?

A:十勝の商品でチーズと組み合わせた例がある。複合食品の開発はまだ今後の課題である。イソフラボンは配糖体から糖が取れると、吸収が良くなるとされている。

Q:小粒納豆用の大豆は、大粒の大豆と栄養価は変わらないのか?

A:種皮の割合が多くなるので、食物繊維が多くなる。

Q:イソフラボンの1日必要量を取るには、どの食品をどれほど取ればよいか?

A:納豆1パックと豆腐半丁が目安だがイソフラボン量にバラツキがあると思われる。