バイオサミット開催報告

 去る6月30日、札幌市で開かれましたバイオサミットでは、国内外から
5名のご講演があり、約80名の参加者がありました。このうち2題の講演
概要及び会場にて行われた宣言について以下に報告します。
 
●Dr. Suguru Sato(米国農務省、米国大使館)
Biotechnology and US Agriculture
 
続き


 タイトルには「アメリカの農業」としているが、アメリカの動きは全
世界、ひいては日本にも影響している。アメリカでの規制の状況、アメ
リカでの農業生産、日本との農産物の貿易関係についてお話しする。
言葉の使い方だが、USDAではGMOよりもバイオテクノロジーという言葉
を標準として使用している。
 USDAでは農産物とその生育環境の安全性を、FDAでは食糧と飼料の安全
性を、EPAでは農薬の環境への影響についてそれぞれ所掌している。
USDAは非常に大きな組織だが、その中でのバイオテクノロジーの規制機
関はAPHISである。自分が所属しているのはFASで、日本においてはアメ
リカ大使館に事務所を置いている。APHISの中のBRSでは、組み換え体の
科学に基礎をおいたリスクアセスメントをしている。こうした規制はFDA
やEPAとも協調して行われており、「組み換え作物は他の作物と比べて特
異に危険性があるものではない。」としているので、規制も普通の作物と
同様になる。例えば、除草剤耐性の植物はUSDA、EPA,FDAの規制を受け
る。組み換え体の認可は、大体半年くらいで下りる。費用は必要になる
が、事前に安全性の評のための相談ができるところがユニークである。
 現在、実験作物も含めて13,000位の組み換え体が認可されている。何
故組み換え体が必要かというと、組み換え体が機能するからだと言える。
人口は増加して食生活も向上し、でも土地は増えないし、どの国でも農業
人口は増えない傾向があり、気候の変動など環境の変化もある。肉用の家
畜の需要の増加とそれに対応した増産により、対応した穀類の増産の必要
もある。鶏肉1Kg作るのに穀物は2Kg必要で、豚肉なら4Kg必要となる。
これはアメリカも日本も同じで、ここに組み換え体を投入すると、労務や
エネルギー消費など全ての面で有利になる。組み換え体では除草剤抵抗性
が最も多く作られていて、世界の種子のマーケットでは20%がGMOとなっ
てきている。この他にも組み換え体が寄与する部分があり、水の利用効率
などにもGMOは有利である。パパイヤに大きなダメージを与えるウィルス
に対抗するため、ハワイの農協でお金を出してモンサントにウィルスに強
い組み換え体を作らせているが、種子の配布は自由になっている。日本で
も承認申請をしているので、近い将来日本でも流通するようになる。バナ
ナはクローンで増えることから、バナナのパナマ病に抵抗性のある品種は
ほとんど無い。アフリカの国々ではバナナを主食にしているところも多い
ので、これにも組み換え作物が検討されている。トウモロコシについても
、主食にしている国が多いので、研究も多い。
  日本の食糧自給率は39%で非常に低く、例えばトウモロコシや大豆は輸
 入量が非常に多い。輸入量は11兆円を超えていて、トウモロコシで1,600
 万トン輸入しており2/3が組み換え体、大豆輸入量は420万トンの輸入量の
 3/4が組み換え体で、多くが油脂製造用になっている。組み換え体の日本
 への輸入では、食品安全委員会等の国内の組織で承認された上で、輸入が
 できるようなっている。アメリカが勝手に作って、日本に押しつけている
 わけではない。日本は科学技術に頼った経済を構築してきたが、食の問題
 で余談では感情論が先行してしまっている。個人的な意見ではあるが、折
 角輸入した食べ物を無駄にしているのは問題だと感じている。
 
 ・質問:アメリカ国内のGMO反対の動きは、今どうなっているか?
 ・回答:今でも、反対運動はあると思う。GMOが嫌なら、値段の高い有機作
     物を買えばよいわけである。
 ・質問:味噌や豆腐では早晩GMOを使うのではないかと言う話があるが、
     どの業界から、どの様なきっかけで使われると思うか?最後までに
     使わないのは、何処だと思うか?
 ・回答:個人的な意見では、発泡酒原料のコーンスターチに使われるのでは
     ないかと思う。マイクロブルワリーのビールや、伝統的な食の分野
     である豆腐や納豆は使いにくいのではないだろうかと思う。
 ・質問:アメリカではそのまま大豆を食べることが無いから、GMOが受け入
     れられるのではないだろうか?
 ・回答:日本の大豆はそのまま食べられることが多いが、今では都市部では
     アメリカでも豆腐などとしてそのまま食べているから、その議論は
     中らないと思う。
・質問:子供がよく食べているスナック菓子の大部分の原料は、組み換え体
     に頼っている。今や食品の6割はGMOになってきている。
 ・回答:コーンスナックはGMO食品の良い例で、日本に入ってきているコーン
     の大部分がアメリカ産である。

 ●Dr. Zakri(国連大学)
 Global Impact of GMOs

 冨田先生とは20年来の付き合いだが、先生が主催するこの会に参加でき
て嬉しく思う。
 GMOの進歩は目覚ましく、バイオ革命は論議が多く、恐れている人も多
 い。GMOに対する否定的な意見では、環境への害などが強調されている。
 昨年こちら札幌を訪問したDr.サッソンは、そうした恐れは無知から来る
 ものだと言っている。GMOに対する抗議はグリーンピースなどのNPOだけ
 でなく、国際的な会議の中で政府関係者からも出てくることがある。
  学術関係の部門と政府との間にはインターフェイスが必要で、公開の場
 で話し合うことが重要だと思う。自分自身もミシガン州立大学でバイオを
 学び、自国の政府の一員としてカルタヘナ条約の作成にも関わった経験か
 ら、学術と政治の間には軋轢があることを見てきた。国連大学は国連に対
 してシンクタンクの働きをしていて、中では中立的な立場で研究をしてい
 て、バイオセーフティーに関しては発言をするに良い立場にいると思う。
 カルタヘナ議定書はバイオテクノロジーに関する貿易の世界で唯一の枠組
 みだが、アメリカは批准していない。何年か前にロックフェラー財団の支
 援を受けて、途上国でのカルタヘナ議定書の受入に関して、準備ができて
 いるかの調査をした。この10年間でこうした活動に使われたお金は1.6億
 ドルくらいだが、多くの途上国では受入体制ができていないことが分かっ
 た。
  途上国には受入のキャパシティーがないと言ったが、それは知識がない
 と言うことである。そのため、決断を迫られるとイエスと言う勇気がない
 ために、ノーと言ってしまう可能性が高い。これを改善して行くにはいろ
 いろな方法があるが、冨田先生の様な人たちが強力なリーダーシップを取
 り、大学から情報を発信していく必要があると思う。中期的には、政府や
 報道機関にも知識のない人が多いので、情報を与えていく必要がある。
 そのためには、議会等に情報を提供する場を作る必要があると思う。ここ
 には、大学の科学者以外の人も多いようだが、この場から出て多くの人に
 情報を発信してほしい。G8サミットの機会を利用してこの様な集まりを冨
 田先生が開いたことが非常に有意義で、メディアの関係者にはこのことを
 広く知らせてほしい。最後に、GMOとは別に新しいことはなく、1万年も前
 の古くから農業が始まって以来、ずっと続いてきた技術であることを理解
 してほしい。

・質問:普通のアメリカ人はGMOについてよく知らない人が多いが、GMOを受

    け入れている。日本や韓国では勉強会をして、なおかつ韓国ではBSE
    を受け入れていない。もし、GMOが普通の技術なら、教育など必要が
    ないのではないだろうか?
・回答:とても良い考え方、質問だと思う。アメリカでは、政府機関によるし

    っかりとした審査をしている食品を出しているわけだが、これは貿易
    戦争的なところがある。こうした会を開くこと自体が問題なのではと
    言う問いには、民主国家なのだから、みんなが知識を共有することが
    大事だと思うとお答えします。北海道では古い時代に全ての作物を導
    入したわけだが、再び同じようにGMOを受け入れることもできるだろ
    う。
・意見:何処の国でも科学ベースで規制を掛けるが、日本では官僚ベースの決

    定が加わることが多いと思う。組み換え体の日本で承認を受けるには
    、10年間に100億円のお金がかかる。それで商業的に成り立つのは
    、非常に難しくなっている。
 
 ●韓国のGMOの事情
(会場よりDr. Janのコメント):
 韓国でのGMOの受け入れ状況は、BT10と6種類の米を承認している。
最近、甘味料業界がGMコーンをデンプン原料として受入れている。普通
の人々は感情的になって、アメリカ産牛肉の受入を拒絶している。同じ
様な反応がGMO に対しても起こりうると考えている。知らないところで
起きていることは、人々に余計な恐怖感を与えるので、一般大衆に教育
をしていく必要があるだろう。今日行われた様なすばらしい講演会が、
広がっていくこと祈る。

 ●ここで、同バイオサミットの主催・共催・後援団体名により、以下の大会
 宣言がなされました。
 日本が、当面している地球規模での問題に対して、積極的・建設的な
貢献をするために、本バイオサミットは、以下のことを宣言する。
  1.遺伝子組み換え技術は日本の農業問題に解決を与えるものである。農産物
    の生産性の向上、病害虫の制御、新規消費者向け製品の開発、再生可能エ
    ネルギー源の開発利用のため、速やかな遺伝子組み換え技術及びそれによ
    り生産された遺伝子組換え植物(GMO)の開発利用を推進する。
  2.遺伝子組換え技術に関しての過度に取締まることのない政策及び規制体制
    を確立する。
  3.農業生産者が自由にどのような栽培方法も取れるように、日本における遺
    伝子組換え技術利用に関する政策を改善する。
  4.遺伝子組換え関連方策の決定に一般の人々が参加することを促進し、その
    ために遺伝子組み換えについてよく知ることが出来るような戦略を立て
    、強化する。
  5.国内において遺伝子組換えの理解を促進するために民間・公共の遺伝子
    組換え技術を学ぶプログラムの開発・実施を支援する。

NPO北海道バイオ産業振興協会
日本育種学会
日本植物学会
環境バイオテクノロジー学会
日本分子生物学会
日本生物工学会
日本食品科学工学会
バイオインダストリー協会
NPO近畿バイオ産業振興協議会
国際アグリ事業団
くらしとバイオプラザ21
バイオ作物懇話会