HOBIA-近畿バイオ交流事業 講演会報告  Part 2

 先月号で、去る7月6日に開催されたHOBIA-近畿バイオ交流事業講演会のうち、近畿関係者よるご講演内容を紹介しましたが、本号ではその続報として、道内関係者分を紹介します。

=== 講演4  ======
【演 題】「バイオ総合受託サービスの展開」
【講演者】㈱ホクドー アニマルケアリング事業部次長
岡   強 氏
1)動物実験受託サービス

まず当社の事業概要を説明させていただきたい。当社は1971年、現在の社名の由来でもある「北海道実験動物センター」という社名で虻田郡洞爺湖町において実験動物の生産を開始したことに始まる(現在の虻田ラボ)。当時、実験動物は道外からの購入に頼っており、長時間の運搬中に衰弱するなどの問題があったことから、道内での良質な実験動物の提供への要請に応える形で生産を開始した。その後、輸送事情も良くなり、SPF動物など高品質な実験動物の生産普及が一般化し、また1981年に道外の日本クレア社と販売提携したこともあり、実験動物の自社生産は打ち切った。しかしながら、その後もラット、マウスを中心とする実験動物の販売、飼育器材、理化学機器などの物品の販売を基本事業として継続している。

また、自社生産をしていた時の飼育施設を有効利用し、1982年から実験用のヒツジ・ヤギの受託飼育と免疫抗体の受託作製を開始した。1985年には「洞爺免疫研究所」を開設し、ポリクロ抗体の作製で全国展開を開始した。ほぼ同時期に飼育施設を利用した薬理実験、安全性試験の受託を本格的に始め、2000年からは大学や研究施設等での実験動物の飼育管理を受託する業務を開始している。これらの業務に従事する技術者の大部分は、安全性試験や薬理試験を経験した者で構成し、高品質な飼育管理を提供している。

このように実験動物を使った研究分野のあらゆるサポートを実施している。現在はモノクロ抗体の受託作製など時代のニーズに呼応したバイオ総合受託サービスとして事業を展開している。

ここで洞爺湖町の虻田ラボを紹介する。虻田ラボでは、大小の動物飼育室、実験室、解剖室等の総合的な施設を有している。動物飼育エリアではマウス1000匹、ラット300匹、ウサギ120匹、ニワトリ32羽、ヤギ・ヒツジ30頭、ブタ30頭の飼育が可能である。マウス・ラットはSPF動物を導入しクリーンな環境下で、薬理系の試験、安全性試験、ポリクロ抗体作製などに使用している。また、モノクロ抗体を作製しているので細胞培養室を有しており、培養したガン細胞を利用した抗ガン剤評価試験、組織・臓器を移植した動物の評価試験等にも対応している。

現在当社で特徴的な動物としてブタがある。人間に近い再現性が得られるとしてよく使われるミニブタは生産供給数が少なく高価であることから、当社では家畜ブタを実験動物として提供することができないかとして提案し、経験を積み精度の高い試験ができるまでになっている。これらは移植再生医療の現場、人工骨など生体材料の開発などでの需要を見込んでいる。

今後の展開としては、受託だけではなく、技術者集団を活用した、より積極的な技術提供と、委託先への技術者の派遣、施設を自由に使ってもらうことなどを通じた研究サポートを展開していきたいと考えている。

動物試験分野、バイオ関連分野は、細分化されてそれぞれ委託されていることが多いかと思うが、当社はホール、細胞レベルの2つを融合するイメージで受託事業を展開していきたい虻田ラボも今後より充実した試験施設として整備し、要望に応えたい。

=== 講演4 その2 ======
【講演者】㈱ホクドー バイオサイエンス事業部次長
中村 健治 氏
2)イムノアッセイ構築受託サービス

バイオ受託サービスの新たな展開の一つとして、イムノアッセイ構築受託サービスについて紹介する。イムノアッセイとは抗原抗体反応を利用する微量分析法のことである。

本受託サービスの対象としては、抗体を使う機会の多い医学、薬学分野だけでなく、環境関連や食品関連の分野なども含め微量物質の定量をご希望される方々に広くご紹介している。

当社の事業はこれまでペプチド合成、組換えタンパク、各種抗体を作製し顧客にお返しすることで受託は終了していたが、さらに付加価値を高めたサービスとして、それらの試薬を用いた測定系を組み立てることを新たに提案している。それにより遺伝子情報からアッセイキット作製までのトータルサポートを可能とし、
さらに製品化までお手伝いしたいと考えている。

具体的には、顧客からのご依頼に関して情報調査を行い、既知の試薬等での測定の可能性、必要に応じタンパク、抗体の作製を検討する。最終的に各種試薬の作製、測定方法の条件検討を行い、測定キットの提供までを受託として行なう。研究用試薬として発売が考えられる場合は、OEM生産も含め製造レベルまでの支
援もしている。

本サービスのメリットとしては、遺伝子情報からタンパク抗体を作製しアッセイ系確立まで作業がプロ集団の基で一貫して行うため、開発期間の短縮、費用の軽減が図れることがあげられる。従来はそれぞれを得意とする会社に委託していたところを一社で完結できるところが当社の強みである。また、研究目的にとどまらせることなく、汎用性のある研究用試薬・製品として市場に出すことへの支援も行えることである。

受託例としては、遺伝子情報はあるが市販抗体やアッセイ系がないという場合は、情報をもとに組換えタンパクを作るための発現ベクターの構築、タンパク、抗体の作製、アッセイ系構築まで順調にいけば半年から1年程度で行える。また、市販抗体はあるが測定するキットがないという場合も、どのような抗体がアッセイ系として適するかを検討し、実際に系を組むことも受託している。

具体的には、研究機関での基礎研究の成果をもとにした体外診断用の試薬の開発がある。遺伝性の病気を診断するもので、一滴の血液でのELISAアッセイ系を確立したものである。その後、製品化を検討し、医薬品として全国レベルでのパイロットスタディに必要な評価用のキットの供給、厚労省の評価を経て、結果として診断薬として国内検査体制が確立されることになった。

まとめとして、当社のイムノアッセイ受託サービスの特徴は、抗体に関連する業務を一貫して受託することにあり、研究、開発期間を短縮、費用を軽減できるものである。さらに研究開発の促進のみならず、製品として目に見える形で市場に提供する可能性も広がる。近畿バイオの方々も含め、今後ともお付き合いをいただきたい。

Q:本州方面への技術者の派遣はするのか。
A:サニテーションの部門ではチームで対応したことがあるが、地理的な制約はまだどうしてもあるのが現状である。

=== 講演5 ======
【演 題】「わが社のバイオビジネスの現状」
【講演者】北海三共㈱ 植物バイオ部企画販売課 課長
大石  宏 氏

当社は医薬品メーカーの三共関連会社である。主力商品である北海道向けの農薬を製造販売している。農薬は医薬品と異なり、北海道に特有の地域性・気候によって対象とすべき病原菌、害虫、雑草の種類が異なる。このような事情から、三共グループの一員として、昭和26年から北海道向けに特化した企業活動を営み、農業生産者向けの農薬の他、育苗用の培土、各種の苗を生産し販売している。当社は製造設備の他に、農業科学研究所を有し、新製品や新技術の開発を行っている。この報告では、当社の研究開発および製品化に関する成功例と失敗例を織り交ぜて紹介する。

最初に、担子菌(Typhala
phacorrhiza)を紹介する。冬季に繁殖してゴルフ場の芝枯れを招く、雪ぐされという雪害があり、ゴルフ場の春季早期開場の支障となっている。降雪直前まで農薬を撒布し続けるコスト負担や河川汚染の問題もある。この菌は、黒色小粒菌などの病原菌と競合するため、この菌糸体を降雪前に撒布すると病害菌を排除することができ、自然に優しく安全な方法である。約10年間の開発の後、結果として農薬ほどの安定した効果はなく、生産コストも非常に大きいことなど、市場性が無いと判断し、本研究を今年、中止した。

次に当社のバイオ研究グループが育種した四季成性イチゴ、HS-138(夏実)を紹介する。一季性イチゴの端境期である夏秋期に向け、業務用(ケーキetc)などに利用するイチゴの供給を目的としている。国内市場規模は年間2,600億円のうち、夏イチゴの市場は75億円程度と言われている。従来は米国を中心とした輸入に依存していたが、品種改良により、果実の形態・サイズが良く、赤みと酸味が強く表面の照りが持続する業務用に適したイチゴを育種し
た。現在、その苗を栽培農家に供給し、今年は150tの生産を目標にしている。

次に、本会場に3本飾ってある、原種(南アフリカ原産、幻の蘭)の導入から栽培まで開発に十数年を要したディサ(Disa)という蘭を紹介する。事業開始時と現在の国内経済の変動の他、生産コストと販売価格が合わずこの事業も今年中に、中止することになっている。

次に平成15年に新聞報道のあった「イチゴで採れる夢のタンパク質」を紹介する。植物体にウシ遺伝子を組み込んで動物性タンパク質であるラクトフェリンを得ようとする試みであり、独立行政法人・産業技術総合研究所と共同して現在開発中である。ラクトフェリンは牛・ヒトなどの初乳に多く含まれ、成人病などに対する有益な免疫作用に寄与する。近い将来、苗の供給体制をつくれるものの、現在、国内では遺伝子操作した作物を栽培できる環境ではないことが、国内での事業化の見通しを厳しくしている。

次に、小果実アロニア(Black Chokeberry)を紹介する。目疲労回復作用があり、有効成分のアントシアニン含有率が突出して高い。菓子材料としても一部使用されているが、甘味が乏しく、現在はジャム製品などに加工されている。

次に、4年間にわたるタマネギ酢の開発を紹介する。本作物の価格暴落による廃棄を回避して「血液サラサラ」など健康増進に寄与する製品開発を目指した。未だ試作品の食味評価結果は芳しくなく、他社競合品を凌ぐ状況にはない。

最後に健康食品事業関連について紹介する。今後の少子高齢化時代にあって健康人口を維持増加させる必要がある。オリゴ糖は、便通改善の他に善玉菌と呼ばれる腸内ビフィズス菌を増やすなどの機能が知られている。カバノアナタケとの配合顆粒製品、カバナVie2を開発した。いかに優れた機能を有する食品であっても、厚生労働省では一括して食品として扱っているのが現状である。本年2月のアガリクス製品回収の事例は、食品の加工度合いが進むと本質が見えなくなりがちであることを示唆している。このような場合、信頼性の高い公的機関などで安全性を確かめる必要があり、食品として世に出すのであれば、機能性よりも安全性を確認した後、必要に応じて次のステップとして細胞・動物・ヒトなどによって、機能を確認する試験と段階的に進むべきなのではないだろうか。

以上報告の通り、当社では失敗の方が多いのが現状。へこたれず、根気良く頑張らなきゃ品は生まれない。生まれても、販売する手段・方法などがもっと重要で、そこを補う機関としても『HOBIA』に期待したい。

聴者コメント:食品の毒性に関する良い指摘をいただいた。学問的にも関心が集まりにくい分野であるので、消費者の口に入るまで精査を継続して製品に責任を持つことが重要である。

Q:先日の新聞報道でイヌの歯周病を抑えるイチゴが紹介された。イチゴ自体にそのような特性があるのか。
A:イヌのインターフェロン遺伝子を組み入れたイチゴであり、ジャガイモでも可能である。室内犬が甘味食材の摂取などによって口臭、歯周病が問題となっている。歯周病の治癒をはじめとして老犬の脱毛、皮膚障害の改善がみられている。

=== 講演6 ======
【演 題】「北海道のアクティビティー」
【講演者】北海道バイオ産業振興協会会長 冨田房男

HOBIAはこれまで、バイオインダストリー振興のため、地域バイオ育成講座、バイオ技術研修、バイオステージなどさまざまな事業を通し、みなさんに「バイオとは何か」をお知らせする活動をしてきた。ところがそれだけでは足りないということに気づいた。北海道の工業出荷額のグラフをみれば分かるように、アグリバイオの占める比率は55%を超えており、とても大きい。そこで、アグリバイオ分野での活動をしようと経済産業省の事業「バイオ人材育成システム開発事業」に取り組み、バイオの人材を育ててきた。ところが、人材は育ったものの、それだけではまだバイオ産業振興には弱いという判断のもと、昨年度、「フーズ&アグリ・バイオネットワーク事業」を開始した。

この事業により、HOBIAがこれまでもっていた企業や大学人のネットワークと、生産者(バイオ素材供給者)のネットワーク、それに製品開発・供給のネットワークのそれぞれをつなぐ流れをつくることができた。今年度はさらにこの事業を発展させ、「製品開発・供給のネットワーク」を大きくし、流れに一貫性をもたせるための基盤づくりに力を注ぐ予定である。この事業の狙いは、ネットワークに企(起)業家精神に富んだ方々が沢山入ってくれることで、目標値は50~100者・社としている。「者」は生産者を指すが、農業生産者も法人化することで、一人前の「社」と変化していただくことを期待している。
 
これまでHOBIAの事業活動は、「バイオとは何か」をお知らせすることが中心だったが、これからは「産業おこしにも大きく力を入れていく」という意志を表明するものである。バイオアイランド北海道実現のために、近畿バイオインダストリー振興会議さんの多大なご協力もお願いし、BT戦略に掲げられた未来社会「生きる・食べる・暮らす」の実現へ向けて、より一層、活動を活発にしていく所存である。