HOBIA NEWS No.294

目次
●  発展途上国と先進工業国の組換え作物の商業栽培面積が同じになった
  遺伝子組換え作物商業栽培の世界における現状(2011年)
     HOBIA名誉理事長、アグリ・フーズ部会担当
  日本バイオテクノロジー情報センター(NBIC)代表 冨田房男
●  お知らせ
  ■  「北海道における薬用植物の活用及び関連産業振興に関する検討会」報告書について
  ■  GM国際シンポジウム 「GM利用の現状と今後の重要性」
●  編集後記
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●  発展途上国と先進工業国の組換え作物の商業栽培面積が同じになった
遺伝子組換え作物商業栽培の世界における現状(2011年)
   HOBIA名誉理事長、アグリ・フーズ部会担当
  日本バイオテクノロジー情報センター(NBIC)代表 冨田房男

 1996年に初めて組換え作物が商業栽培されて以来16年目の2011年には遺伝子組換え作物は、目覚ましい連続成長を続け、その食糧安全保障への大きな貢献をした。即ち、この1年の栽培面積の伸びは8%で、総面積も1億6,000万ヘクタールに達した。面積で当初の94倍となった組換え作物は、現代農業の歴史の中で最速導入作物技術である。 780億米ドル相当の収量増と価値の上昇、より良い環境の提供、農薬削減(2010年だけで190億キロ相当のCO2排出量を削減することで約9百万台の自動車を道路から削減したことになる)、土地91万ヘクタールを保全することで;生物多様性の保全、世界で最も貧しい1500万の小規模農業生産者の貧困を軽減したことになる。

図1

2010年、すでに予期されていたように組換え作物の栽培面積は、発展途上国と先進工業国とで50%ずつとなった(図1)。

294図1.JPG

組換え作物が導入され栽培が開始された1996年当時これは、先進工業国にしかメリットはないと断じられていたことを思い起こし、批判的な見方が的外れであったことを示すもので、この点の反省を促したい。
遺伝子組換え作物は、全体で59ヵ国が栽培あるいは輸入による遺伝子組換え作物の使用を承認している。この59ヵ国に住む人々の数は世界人口の75%を占めている。この点からしても、遺伝子組換え作物が発展途上国や小規模農業生産者には役に立たないとした一部の人々の考え方が誤りであったことを明白に証明したことになる。

 
発展途上国の状況
遺伝子組換え作物がもたらす大きな恩恵を認識し、1996年以降、世界の農業生産者が自らの判断で毎年栽培や再栽培を増加させる決定を下した件数は累計で約1億件にのぼっている。発展途上国は2010年の世界の遺伝子組換え作物の48%を栽培し、2015年までに先進国の栽培面積を上回るとみられる。発展途上国の遺伝子組換え作物栽培面積の伸び率は17%(1,020万ヘクタール)で、先進国の%(380万ヘクタール)よりも著しく高い。これからますます伸るのこの地域である。その理由は、のちにも述べるか先進工業国での組換えの作物の導入は、頭打ちの状況にあることと日本やEUのように政治的な理由で伸びる見込みが望めないからである。

 
工業先進国状況
米国は6900万ヘクタール(世界の43%)の作付面積があり、依然として遺伝子組換え作物のリーダーである。その主要な遺伝子組換え作物全体の〜90%の平均導入率である。特に強い成長が、トウモロコシとワタ、そしてRR®ファルファの栽培再開によっている。 アルファルファは、トウモロコシ、大豆、小麦後の米国での四番目に大きなヘクタール数の作物(〜万ヘクタール)であり、RR®アルファルファは、現在〜200,000ヘクタールで強い農業生産者の要望が将来にわたってある。その導入は、35-50%に2015年頃に達成され更にその、より高くなると考えられている。RR®テンサイは、最速の導入率の作物で〜475000ヘクタール、95%の導入率を持ち続けている。コー​​ン根切り虫に対する抵抗性品種が開発中で、この品種を評価するために、共同研究が実施中と報告されている。ここで従来の優れた農法である輪作や抵抗性の保持を従来の作物同様遺伝子組換え作物についても遵守を強調するのはタイムリーなことである。最後に、重要なのは、規制の観点から重要なニュースは、米国からのウイルス耐性パパイヤが日本の生鮮フルーツ/食品としての消費が2011年12月1日付で承認されたことがある。

 
組換え作物に関する規制の問題
組換え作物に関する感情的な問題に関して、2011年10月、41人のスウェーデンの先端生物学者たちは、政治家や環境保護に関する公開書簡で社会が技術の科学的根拠に基づく評価を用いた遺伝子組換え作物の恩恵を受けるようにするようヨーロッパの法律を改正する必要性について語った。英国の科学者は、スウェーデンの書簡を支持した。またケニアおよびアフリカのバイオテクノロジーステークホルダーフォーラムのメンバーであるFelix M’mboyi博士は、「偽善と傲慢」のEUと非難している。また、「裕福な西は、食用作物の栽培技術の多様な種類とその選択の自由を持っている。しかし、より多くの食品の豊富な供給につながる可能性がある技術に発展途上国がアクセスすることが拒否されている。これは一種の偽善と傲慢であり、EUの満腹感に由来する贅沢である。」と述べた。

 
今後の課題
今後の課題は、小さく貧しい発展途上国で信頼でき厳格だが負担が少ない、適切で費用・時間効率性の高い規制システムが早急に必要とされていることである。
また組換え作物の市場性をみると2010年、遺伝子組換えの種だけでも世界的価値は112億USドル(約9,800億円)と見積もられ、遺伝子組換えトウモロコシ、大豆、ワタの市場規模は年間約1,500億USドル(約13.1兆円)と見積もられている。これから予想されることには、2012年の旱魃耐性トウモロコシ、2013年のゴールデンライスの商業栽培がある。グローバル・イニシアティブの下で貧困層を半分に減らすというミレニアム開発目標(MDG)を2015年に達成するためにも遺伝子組換えイネなど(アジアだけでも10億人の貧しいイネ生産者に恩恵を与えるとみられる)、遺伝子組換え作物は作物生産を最適化することによって貢献できる。ISAAAの創設にも貢献したノーベル平和賞受賞者、故ノーマン・ボーローグ博士の遺志に報いるために提案されているものであり、遺伝子組換え作物が大きく貢献すると考えられる。
極めて印象的な見方は、現在の世界的な経済危機と世界的な食料安全保障の危機の類似点に関する議論である。第一に、主要な基本的な制約が技術的というより政治的なものである。第二に、両方とも緊急行動と前例のないレベルの金融・物質的支援が必要であり、もしも適切かつ緊急の是正措置がとられていない場合、すでに世界社会の一部に既に荒廃を引き起こし、また社会を不安定にする悪い影響を包含している。第三に、過去とは違って、ブラジルや中国のような新興国をリードする国々が、嵐を乗り切ってよくやっており、これまで世界の政治組織をリードしてきた伝統的な西洋諸国よりも善戦している。第四に、危機を解決しようとする試みは、バンドエイドアプローチに似ているが、事態の深刻さと緊急性に対応した即時大手術を必要としている。- 少な過ぎて、遅すぎる 。第五に世界には陣頭指揮者が欠けているのでリーダーシップがない。つまり信頼を持って
 
 
いる信頼性と有能な指導者を必要としているが、危機を解決するために組み立てられた指揮者のいない世界のオーケストラを指揮する国際社会の信頼を持っている信頼性と有能な世界的キャンペーンをとる陣頭指揮者がいない。としていることである。
 
また、科学・技術イノベーションに対するクライヴ・ジェームズ氏の「科学・技術の革新を脅威としてではなく、変化を管理運用する能力」としていることに注目したい。ややもすれば、革新的なものとしてのみ捉えがちであるが、特に遺伝子組換え作物には、これが当てはまると確信する。
 
詳細はクライヴ・ジェームズ著、ISAAA概要書42号「世界の遺伝子組換え作物の商業栽培に関する状況:2010年」に述べられている。詳細情報は、以下のサイトで見ることもできる。(http://www.isaaa.org

 終わりに、これまで毎年行われているGlobal Knowledge Center on Crop Biotechnology(KC)の全体会議の様子を述べる。私は、昨年のシンガポールでの会合に続いて、今年のタイ、プーケットでの会合に参加した。今回は昨年の倍の40名を越える集まりであった。ペルー、アフリカ諸国、イランからの参加もあった。ここでは、各バイテク情報センター(Biotechnology Information Center、BIC)の報告が行われた。各国の足並みがそろっているわけではないが、日本以外のBICは、国からの大きな支援を受けて遺伝子組換え作物の重要性を一般国民に知らしめる重要な且つ主要な働きをしている。各国が農業の重要性を認識し、これを産業として捉え、促進策を図っていることは上記のように明白である。我が国は、組換え作物の栽培許可を出している件数が米国に次いで多い、しかも多くの組換え作物を輸入しながらその栽培を原則禁止している北海道のようなところがあること、しかも農業を産業と認めないような見解の基に条例が作られていることを重ねて発表せざるを得なかったが、このことに奇異の念をもたれていることを政策策定者に認識してもらいたい。しかしながら「青いバラ」の開発が注目を集めていたことは喜ばしいところであった。このところ相次いで、ナシ、トマト、メロン、バナナゲノムの塩基配列が決められた。これを利用できないようでは我が国の農業は世界で最も遅れたものになるだろう。我が国も速やかに農業も産業である事を認識することを望んで止まない。興味深い一般への広報の例として、フィリピンで行われた組換え作物に関するカートゥーンコンテストの一例を紹介する(図2、図3)。大変よく明るい組換え作物のもたらす未来が描かれていると感心した。
                     図3     
 図2

294図2.JPG
294図3②.JPG

 

 
●  お知らせ
■  平成24年度総会「北海道における薬用植物の活用及び関連産業振興に関する<   検討会」報告書について

北海道経済産業局、公益財団法人北海道科学技術総合振興センターでは、北海道で優位性が期待される薬用植物の活用及び関連産業振興を目的として、産学官による検討会を設置し、薬用植物の栽培、流通、加工等における課題や食品・化粧品等への活用について検討を行いました。この度、その内容を取りまとめた報告書を作成しましたのでお知らせします。
  http://www.hkd.meti.go.jp/hokio/20120522/index.htm
 
    経済産業省北海道経済産業局 地域経済部 バイオ産業課  柳沼勝利
 
■  GM国際シンポジウム 「GM利用の現状と今後の重要性」
日時:10月13日 13:00から17:00
場所:北海道大学学術交流会館 第1会議室とロビー
(バイオテクイラストコンテスト優秀作の展示)
 
13:00 バイオテクイラストコンテスト:
      遺伝子組換え作物を知ってもらうため 受賞者表彰式
 
13:30~17:00 GM国際シンポジウム
           「GM利用の現状と今後の重要性」
1)挨  拶 北海道バイオ産業振興協会 理事長 吉野次郎
2)基調講演「世界における組換え農作物の研究開発とわが国の現状」
                 JBA 会長  大石道夫 
3)講演1「GMススキの開発とバイオリファイナリー原料としての展望」
                 北海道大学教授  山田敏彦 
4)講演2「閉鎖系によるGM作物による有用生理活性物質の生産」 
北海道科学技術総合振興センター(ノーステック財団)
産学官連携推進部 地域イノベーション戦略推進室
       チーフ・コーディネータ  北野邦尋
5)講演3「Commercial Planting of GM crops in Philippines:
      10 years Experiences and the Future Prospectives」(同時通訳有) 
Senior Program Officer, ISAAA South East Asia Center, Philippines
                      17 Dr. Rhodora Aldemita  
6)閉会挨拶 北海道バイオ産業振興協会 名誉理事長
                    (アグリ・フーズ研究部会長) 冨田房男
17:30 交流会

             問い合せ先:冨田房男 Email: ftomita@isaaa.org

●  編集後記
感動したオリンピックが終わって、盆が過ぎれば直ぐに涼しくなるかと思いきや、まだまだ暑い夏が続いています。それでも昨今のランニングブームで道内各地でマラソン大会が開催されています。先日の北海道マラソンは、一万人以上の参加が有ったとか。
スポーツイベント、国際シンポジウム等々、多くの方々が北海道に来て、北海道の良さを感じて頂ければ、北海道経済の活性化に繫がるのではないでしょうか。観光としての北海道と農場の風景も別物ではないと感じます。さらに道産の高付加価値な食品が世界中に広がれば良いなと思います。バイオの力も必要ですね。

編集担当 HOBIA企画委員 黒田一寛

 
     HOBIAのホームページ http://www.hobia.jp/

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