地域バイオ育成推進講座in北見が開催されました

開催日:2009年1月16日
開催会場:北見市 オホーツク木のプラザ
参加者:若い農家、栄養士、加工企業、一般の方、等の多彩な50余名。
*活発な議論が交わされました。
 


統一テーマ:
『いまジャガイモがおもしろい、新品種の開発と新しい育て方、そして食べ方』
 講演の概容は次の通りです。
 


①「馬鈴薯品種開発物語」 

     講師:北海道農業研究センター 馬鈴薯育種グループ長 小林 晃氏
 

 最初に、「男爵とメイクイーンだけがジャガイモではない!」と申し上げたい。そもそも、日本にはジャワ島からイモが入ったので、ジャガイモとなった。ジャガイモの起源は南米の山地です。日本全国で作られているが、各地でいろいろ作付け体系が違います。長崎では、小さい段々畑で作っている。北海道は、ご存じの通り大規模です。

男爵、メイクイーンは1909年に入ってきた。馬鈴薯の栽培面積は、年ごとに減少しているが、生産量は横ばいです。これは、単位あたり収穫が上っているためで、消費から見ると、市場販売用は、横ばいか少し減っています。増えてきたのは、加工用馬鈴薯で、この部分が増えているので全体量も増えています。加工用は半加工されて輸入されている物が多いです。馬鈴薯を家庭で購入するのは、4kg/人年。
一方、消費の総量は、23kg/人年にのぼっています。家庭よりも中食や外食でより多く使用されていることがわかります。
 男爵もメイクイーンも実は大きな欠点を抱えています。いずれもジャガイモ・シスト線虫に弱い。メイクイーンは奇形が多く生産の歩留まりは5割以下。男爵は、打撲に弱い。肥料が多すぎると中心に空洞が出来やすい。目が深いので皮むきがたいへんで、さらに皮をむいたら黒くなりやすい欠点もあります。

 一方、食生活は豊かになって、ニーズは多様化しています。新しい品種の造成が必要。1972年に北海道で始めてシスト線虫が見つかった。線虫の発生は、増えている。温暖化で病気も変わってきました。育種目標としては、上記の欠点が少ない、販売しやすい、新しい需要の開拓などが焦点となっています。
【ジャガイモの育種の方法】

交配するとジャガイモの『種』ができる。ミニトマト位の大きさだ。種をたくさん食べるとお腹を壊します。2万個の『種』を育てて、その性質を調べ、2000種類まで絞る。そして、さらに絞り込む。その時の評価ポイントは、デンプン価、黒くなるか?線虫汚染、耐病性などなどです。
選択には何年もかかり、新品種を作る比率は、15万分の1位の厳しい選択となる。原原種である。選択されたイモは、品種登録されて、一般に使える種芋に増やす。種芋作りに年月がかかる。原原種の芋一個から4年もかかる。
『きたあかり』は、S62年に登録された。ビタミンCが多くて美味しい。煮くずれしにくい、長くおいておくとまずくなります。『とうや』は丸いので洞爺湖に似ている。線虫耐性があるばかりでなく、煮物、スープに適している。『さやか』内部異常はほとんど起こらない。淡泊なので味付け次第でどんな味にもなる。さやかは、143ha栽培されている。目の数が少ないので料理には便利だが、作付けの際に種芋を切るときに位置が難しい。
『ユキラシャ』は、病気に強いが線虫耐性はない。貯蔵性が長く、サラダコロッケにも向く。

『十勝こがね』H12は、美味しい。多用途。煮てもフライでもどんな料理にも向いている。肥料が多いと中心空洞が発生する。
『スタールビー』は赤皮黄肉。収量は男爵並み。休眠生も長い。粉質、バターやフライ料理に向いている。

『はるか』は、さやかをお父さんとした種。青がれ病に耐性がる上、20%多収である。目が浅く皮を剥きやすい。目の周りが赤く特徴がある。サラダ加工性もすぐれている。
チップ用品種である、『とよしろ』、『スノーデン』は線虫耐性を持っていない。

『らんらん』チップ(H17)。カラフルポテトも話題性を作るために重要と考えています。
『インカレッド』(H9)、『インカのめざめ』などは栽培が難しい。
『ノーザンルビー』は、世界の馬鈴薯の中で、もっとも赤い。『インカのひとみ』も赤い。紫のイモは、アントシアニン色素をたくさん含んでいます。

 栽培方法も重要です。肥料が多いと空洞などができます。肥料は抑えて、密植にしますと良いイモができます。これが、なかなか普及しなかった。どうしてでしょう。男爵が便利な理由の一つに、8割は生か、2割は加工用(つぶし原料)となることで、ともかく、何らかで売れる、つぶしがきくことです。ジャガイモは大地のリンゴと言われている。いろいろの種類を有効に使って欲しいと思っています。
 

質問から

Q1:ジャガイモに種があるとは、知らなかった。交配して種を作らせて性質の違うものを作り、良いものがあれば、イモとして増やす。つまりクローンで増やすクローン食品なのですね。ジャガイモがクローンであるなら、イモとして増やし続けると変化が起こるなどあるのか?
A1:変異はすることはあるが、現実には問題とはなっていない。
 

Q2:バイオ技術を使った新規の育種手法も使われているか?
A2:メイクイーンなどでも使われているが、耐病性の検定は、抵抗性遺伝子マーカの検出など、育成後期の有望品種については行っている。
 

Q3:新品種がなかなか拡大しないのが現状だ。それは『男爵』と『メイクイーン』が有名すぎるからだとも考えている。新品種を作るという作戦でなく、男爵の改良を続ける方が良いのではないか?男爵が、長く残っているのは、なにか良いことがあるからではないか?日本人が慣れ親しんでいる。例えば、男爵に耐病性を付けたものを出せばいいのでは?
A3:現実には、新品種を首都圏に持って行くとよく売れるのです。消費者は、新品種を求めていると認識  しています。一方現状では、消費者には、男爵とメイクイーンしか選択肢が無い。流通もからんでいる問題だ。新品種が大量に手にはいるなら扱いたい、という業者が多いと認識している。また、海外からの良いイモが入ってきて、その消費が増えているのも現実であり、消費者は新品種を求めていると認識している。
 

Q4:私も同じく、男爵の名前は残してモデルチェンジを進める方向が良いと思っている。車で言えばトヨ  タクラウンは、現機種は11台目だ。初代と比べると全く違う車だ。これと同じように男爵2号、3号,4号,とどんどん改良して、それでも男爵の名前を使えばいい。このような、改良の方向性を取ってほしい。
A4:「種苗法」では、男爵と類似の名前を付けることはできない。だから男爵3号などという名前は付け  られない。

②「各種馬鈴薯のいろいろな栽培方法の利点と欠点」

    講師:有)ハッピーファーム 社長 角田誠二氏
 

 男爵の欠点は多い。北未来農協は、1,900haの耕作地の中でジャガイモが11%にあたる。そのなかで男爵が大半である。近年そうか病が多くなって、「とよしろ」に変わってきた。メイクイーンは、ほとんど無い。「なぜ、男爵ばかり作ろうとするのか?」の原因は、農協と農家が保守的なこと、なかでも農家が保守的なことが原因と考えている。農家は、新品種に替えることが、なかなか進まない。「今まで慣れてきたから良いじゃないか。」という雰囲気がある。品種を替えると種芋の更新が難しい。農家の姿勢が変わらないと替えられないだろう。流通には、農協と商経あるが、農協系は有利である。選果場にも、保存所にも半分の補助金が入っている。現状では商経は、まともに勝負が出来ない。
『男爵』は、目が深く、そうか病が多く極端に弱い、雨が降ると中心空洞がでる。欠点だらけのイモである。そのなかで、北未来農協では、22億円かけて空洞検査機の導入を考えている。そのために農家に負担を求めている。これは本末転倒である。品種を替えることが正しい解決策だと考えている。
【黒あざ病】 イモを植えるときに、大きな種イモを切って植える方法でなく、小さな種芋を直接使う手法も考える必要がある。小さな種芋を作るシステムが出来ていない。マイクロチューバは、指の先ほどの小さな種芋だ。この小さいマイクロチューバでも、8割の収穫ができる。この9年間生育させてきて良い手応えを得ている。マイクロチューバは、無菌環境で育成されるのでウイルスフリーであることも重要である。キリンビールの子会社が、マイクロチューバで種芋販売に参入してきた。フランスの世界4位の種芋企業を買収して新品種も多数導入している。ここは、一方で男爵のマイクロチューバ種芋も出してくれる。
 

【原原種農場(種苗管理センター)】

男爵に替わる品種は、いくつも候補がある。例えば、『シェリー』という新品種は、シスト線虫に耐性で、打撲にも耐性もある。味は、自己主張が少ない。煮くずれも少ない。シェリーは、東京でブレークしている。男爵より15%増収で、男爵より作りやすい。打撲にも強い。これらは、消費者にとても利点である。つまり消費者の「財布に優しい」品種と言える。
小林晃さんの話に出て来た新品種についても農家も農協職員もやろうと言わない。新品種の導入には、なにかの仕掛けをつくることが必要だ。

【日本のジャガイモ栽培法は遅れている】ヨーロッパから新しい栽培方法を入れることも必要だ。北見地域のジャガイモ作りは、ヨーロッパと比べると30年遅れていると言える。イギリスでは、4.2t/反、収穫できるが、北海道では3.6t/反と600Kgも少ない。十勝は、北見より進んでおり、新しい農法や品種が入ってきている。が、ヨーロッパには追いついていない。
 生食用が減って加工用が増えているから、使う人のニーズが変わってきている。生産者はこれに対応しないといけない。一方、皮肉な現象もでてきた。

「男爵」の希少価値が出てきている。病気に弱く打撲しやすいと良いイモが収穫しにくい。その中で上手に「男爵」を育てると、収益も大きい。例えば、男爵で、売値15万円/10aで、経費7万円が昨年の状況で。22haで上手に収穫できると、2千万円の収益になる計算だ。ハッピーファームでは、90ha耕作している。そうか病発生を少なくするように種々の工夫を試している。
【消費者の財布に優しく】 安くても儲かる農業が必要だ。コストを下げる工夫をすることが必要だ。多くの農家や農協は、「付加価値」と言って、高く売ることをめざしている。これは、方向性が違うと主張したい。売値を下げて、消費者の財布に優しくして、しかしコストはもっと下げて、農家の利益を確保する、私はこの方向の農業を目指している。
 

質疑応答から

Q:当社、金印ワサビ(株)は、皮の赤いアンデスを首都圏中心に販売している。新しい品種を売り込む  ことの難しさをいやと言うほど味わった。よく「食べてもらえばわかる」というけれど、食べてくれるまでがたいへんだった。アンデスといっても育成の方法で、味が変わってくる。一度、まずいアンデスを食べてしまうと、試食もしてくれない。消費者に誤解を与えないように、期待に背かないように、地域を上げて、高品質のアンデス(例えば)をつくる体制を作ることが必要である。

A:農作物が、工業製品と大きく違う点です。同じ種イモを使っても、育て方によって収量や美味しさ、はなはだ異なる。農作物は、一定の品質で多量に均一である物を得るのは難しい。一般の消費者には、ピンと来ないところである。大陸で作る輸入農作物は、大きなロットで、しかも均一であるので加工用の消費が急速に伸びている。ここにも日本農業と現実ニーズの齟齬がある。


③「有色馬鈴薯の機能性と加工利用について」
  講師:東京農業大学生物産業学部教授、オホーツクテクノプラザ会長  永島俊夫氏
 

私は、「個性の強い馬鈴薯を使って加工品が出来ないか?」を課題として開発を行ってきた。

特に食材の持つ機能性に着目した。使用した馬鈴薯は、①デンプンの中にリン酸基を多く持っている種類、②アントシアニンが特に多い種類「ノーザンルビー」、「シャドークイーン」を用いた。

高度リン酸化デンプン:リン酸が多いとどうなるの?リン酸が多いとアミラーゼの反応がリン酸基の前で反応が止まる。つまり、摂取した場合、血中の糖濃度の上昇抑制を期待できる。レジスタントスターチと呼ばれている物と同じ機能性を期待できる。アントシアニンは、抗酸化性の色素である。

これら2つの特徴を利用した食品の開発をプロジェクト化して、生研センターの研究補助をもらった。この事業では、独創性と新規性が求められた。コンソーシアムのメンバーは、北農研、藤女子大の知地先生、帯広畜産大の福島先生、東京農大、そして十勝ビール。
高リン酸含有馬鈴薯の特徴:蛍光X線分析装置によって、馬鈴薯デンプン中のリン含量を測定したところ、「とうや」が1,000ppmと多かった。醸造に適した高リン酸デンプンの選定を進めた。馬鈴薯のサイズから見ると、小粒子や極小粒でリン含量が高かった。高リン含有デンプンは、酵素での分解率が低く、オリゴ糖が残った。馬鈴薯デンプンをラットに食べさせた実験では、コレステロール値中性脂肪値ともコントロールに比べて優位に減少した。卵ボーロを使ってヒト血糖値試験も行った。馬鈴薯シャドークイーンのフレークは、肝障害抑制したAST,ALT値が低かった。総コレステロール値も下がった。各種デンプンからの発泡酒の製造条件を検討した。麦芽比率60%で発泡酒を造ったところ、軽い感じが出て評判が良かった。ラットに1日2mlずつのませる。これは、ヒトにするとビール2本分にあたる。
特徴的な赤い色なのだが、90分間煮沸するとほとんど色が無くなる。熱に不安定であった。いかにしてアントシアニンの色を保つか。ルチンとかフィチンを加えると安定化される。などがわかり、種々苦戦した結果、赤い色のビールを造ることが出来た。馬鈴薯のアントシアニンは、サツマイモのアントシアニンと比べると安定性が低い。加工にも難しかった。さらに、ソフトドリンクも試作した。アミラーゼとメクチナーゼを作用させた。イモの匂いが少しあるようだが、エッセンスをいれてイモ臭さを除いた。十勝ビールから近いうちに商品化させる。これらの研究から特許は10件にも上った。
 

質疑応答から

Q:アントシアニンに抗ウイルス活性があると聞いたが?

A:今回の内容ではそこまではやっていない。
 

 

(記録:浅野行蔵企画運営委員長)