第21回 北海道バイオステージ 報告

テーマ:「十勝発アグリビジネスの新展開」 
~広域的新事業支援ネットワーク拠点重点強化事業~

日時:平成17年12月5日(月)
場所:帯広東急イン

<冨田房男会長挨拶>

HOBIAは、北海道の最も大切な産業であるバイオをどの様に発展・展開できるかを掘り出し、また支援できるようにと様々な活動を行っています。活動の一環として道内のいろいろな場所でバイオステージを開いており、今回は久しぶりの帯広開催ですが、最近の大きな変化をお聞きし、討論できるチャンスを作ることが出来ました。

【第1部】第21回北海道バイオ・ステージ
●講演1「機能性を重視した十勝農畜産物の高付加価値化に関する技術開発」

(財)十勝圏振興機構北海道立十勝圏地域食品加工技術センター 都市エリア産学官連携促進事業

科学技術コーディネーター(前:日本甜菜製糖総合研究所長) 佐山晃司 氏

十勝地域における文部科学省『都市エリア産学官連携促進事業』の展開についてお話しします。都市エリア事業は、全国で44カ所実施されており、そのうち19カ所は、終了したエリアです。本事業の一般型は、産学官で取り組みしかも分野を特化せねばならず、十勝では農畜産物に特化した訳です。目的として十勝圏の食の機能性を明らかにして付加価値を上げて行きたい。ニュートリゲノミックスから動物実験へとつなげる。本事業のwebも立ち上げた。十勝の産物として、馬鈴薯、ながいも、ソバ、豆、牛乳をターゲットとしています。

【馬鈴薯からの有用ペプチド】ねらう有効性は、脂質代謝改善、肝臓毒性抑制、腸内細菌環境改善高価などで、(株)コスモ食品のもつタンパク処理技術を活用して、消化管で分解抵抗性を示すペプチドの機能性などを調べます。

【ソバ、豆類の健康機能性スプラウトの生産技術開発】 それぞれのスプラウトを作る。ダッタンソバは、ルチンが多いが、普通のソバでもスプラウトなら含量は多い。

【ながいも】本当に体に良いのかを調べたい。十勝のながいものどこが良いのか?当初は、規格外を活用しようと考えていたが、すでにコンビニソバなどで活用されており余分はない。今、使われていないのは、首の部分である。

【ナチュラルチーズの安全性】lamp法での病原菌DNAの検出。Gactomyces geotrihcumなどプロテアーゼ活性が高い微生物を使った新規のスターターにも着目している。

【DNAマイクロアレー法を用いた食品機能性評価システムの構築】動物試験では、できる項目が限られている。マイクロアレーで網羅的に調査したい。トウモロコシでおもしろいデータが出ている。

Q:ながいもの機能について、発ガンの予防は多糖類か?北海道のいろいろなところでいろいろなことを言っている。夕張も長芋の産地。粉にすると便利なのだが、ネバネバ触感が薄まる。こんな、研究は進んでいるか?

A:(株)仙波糖化が、強くはないがねばねば感を残したパウダーを作っている。

Q:DNAマイクロアレー法での試験において、DNAはどこから何のものを活用するか?

A:標品11万円位の、ヒトのDNAを乗っけた市販のアレーを購入して行っている。

●講演2「馬鈴薯の生理機能性を活用した機能性食品」
帯広畜産大学畜産科学科 助教授 福島道広氏

 北海道産の馬鈴薯には、特徴がある。高リン酸化デンプンを多くか含有しており、物理的特製が変わる。グルコースの6番、3番が、リン酸化されており、コーンなどなら10 ppm程度なのだが、道産馬鈴薯では600 ppm~1000 ppmとなる。

食品および飲料水として高リン酸化デンプンを摂取すると、コレステロールが落ちる。なぜかを研究している。アントシアニン含量が多い上に高リン酸化でもあるイモは、インカレッド、勝系3号、北海88号などである。高アントシアニン、高リン酸の特徴を最大限に生かして、脂質代謝改善、抗酸化活性を出せるだろう。ククレカレー(ハウス食品)と一緒にやっている。企業が入っているので、特許出願したものでないと発表できないので、その範囲での成果を出します。

デンプンカス:100万トンの馬鈴薯から10%が、ポテトパルプが取れる。ポテトパルプの中には、リン酸が多いデンプンがある。難消化性デンプンで、食物繊維が多い。

アントシアン小豆デンプンでのデータから、肝臓でのコレステロール代謝の変化が起こっているか実験した。ポテトタンパク質は、北海コガネとベニマルで、ラット血清脂質への影響を調べた。総コレステロール、HDLコレステロール、VLDL+LDL+IDLコレステロール、中性脂肪、いずれもコーンデンプンと比べると減少していた。コレステロール→胆汁酸へ変える酵素 Cholesterol 7α-hydroxylase
活性が上昇していた。Fatty acid synthase は、減少傾向。SREBP-1Cタンパク質(制御タンパク)を減少させている様である。

高リン酸デンプンは、難消化性で、ラット盲腸中の短鎖脂肪酸含量 酪酸、酢酸増加している。プロピオン酸は、減少している。ラット糞便中のステロールは、増加。ケノデオキシ-、デオキシ-、リソ-の各コール酸および総胆汁酸も増加していた。

アントシアニン馬鈴薯、北海88号は、命名登録されて「キタムラサキ」となった。総ポリフェノールとして 100 mg/100 g。

ガラクトサミンによる肝臓障害を起こさせて、アントシアニンによる軽減作用を調べた。肝重量の減少を抑えられた。GOT、GPT、ALP、LDHの急激な変化を抑えられた。過酸化脂質の増加を抑え、還元型のグルタチオンは増加の方向。いずれも活性酸素を消去する役割を持っている。

Q:高リン酸デンプンは、デンプンでもデンプンカスでも同様のレベルで高リン酸化されているか?

A:その通りのデータが農研から出ている。

Q:高リン酸化デンプンは、消化がしにくい、と言えるのか。今回は、その消化のしにくさを利用したと考えて良いのか?

A:その通りです。

Q:アントシアニンの成分は、判っているか?

A:液クロでペタニンとペラニンと判明している。

Q:ラットの実験で、100 mgに投与は、イモにするとどれ位か?

A:イモにすると200 gとなる。ラットに対してであるが、ヒトにすると

Q:北海コガネは、大きくすると空洞になるか?バケツ何杯も・・・ということになる。

●講演3 「新規オリゴ糖『DFAⅢ』による、乳牛の分娩時低カルシウム血症改善効果」

 日本甜菜製糖㈱総合研究所 主席研究員  佐藤忠氏

(注:講演内容は、前号の記事を参照してください。ここでは、質疑応答だけ掲載します)

Q:餌と糞便の収支を定量し、カルシウム吸収を示したデータは、あるか?

A:現在は無い。いま、鹿児島の試験所で頼んでやってもらっている。

Q:カルシウムを乾乳期に与えることはないのか?

A:習慣的には行われていない。乾乳期にカルシウムを減らして、カルシウム代謝を昂進して、カルシウム吸収能を高めようという考え方のためである。

Q:DFAⅢの摂取濃度を変えて(ドーズレスポンス)、試験したか?また、カルシウムだけを与えるのとカルシウムとDFAⅢを同時に与えるのと比較したデータはあるか?

A:詳しくは、行っていない。

Q:DFAⅢを与えたときにだけタイトジャンクションはゆるむのか?

A:FOSとかマルチトールでもゆるむことが、報告されている。

Q:タイトジャンクションがゆるむと高分子が、入ってしまってアレルギーなど起こらないか?

A:DFAⅢは、毒性データなどでは、大丈夫とされている。何もかも入るのではない。なぜかは、まだ判っていない。

【第2部】 フーズ&アグリ・バイオ・ネットワークづくり懇談会
~広域的新事業支援ネットワーク拠点重点強化事業~

参加:アグリ生産者・企業・支援団体・研究者、北海道中小起業家同友会農業経営部会など
この意見交換会は、HOBIA西村弘行副会長が、コーディネーターとして司会進行を行いました。

まずHOBIAフーズ&アグリ・バイオ・ネットワーク活性化事業の説明を本事業のプロジェクトマネージャー高橋達也氏が行い、会が開始されました。

【西村副会長】:自分の意見をまず述べたい。アグリの世界で農業法人化が進んでいる。異分野との連合も進んでいる。「農業経営基盤促進法」今年9月、株式会社からの農業への参入を促進が図られている。建設業が、農業者支援センターを作った(当別)。一定の規制が必要だろう、もし倒産して農地でなくなるという問題がある。耕作放棄地をどう扱うか法律で決められた。北海道でも耕作放棄地は拡大している。「北海道農畜産物のブランド化」基本は、消費者のニーズ。
市場をしっかり見据えないと、市場規模、消費者のニーズは何か?美味しい、科学的な健康、安心、利便性、価格がそろわないとダメ。「道内の伝統的な農畜産物」明治時代に海外から輸入したのが、ジャガイモ、タマネギ、ビート、乳製品、肉。ごく最近、外国から導入したのはチコリ、ヤーコンなどです。その他、高級山菜が北海道で取れる。

【鈴木愛一郎氏(有)アイネット(苫小牧)】ピリ辛味噌など加工品を作っている。台湾では、分析表がついてないと売れない。自分たちで分析はできない。一方、たくさん流通すると生産できないほどの零細規模。

【大庭 潔氏 十勝圏食品技術センター】食品成分分析は、江別の食品加工研究センターや食品分析センターで依頼分析を行っているので活用してほしい。道内の「出前味噌」は、十勝のセンターが中心になって始めた。センターは、経営には関与していない。もっと前にやらなくてはならないことは、売りたい相手を知ること。山わさびの例は、典型的であった。穂別町の久保田さんの山わさび商品は、TVで良く売れている。しかし、道外の北海道土物産に持って行ったところ、山わさびは知名度がなく、さっぱり売れなかった。東京と北海道の差はある。わさびのコーナーにただ置くだけでは、道外の消費者はわからない。パッケー
ジやデザインを含めて、売り方の工夫が必要でしょう。

【鈴木善人氏(株)リープス(農業コンサルタント)】 当社は、農業技術の開発と資材の開発を行っている。技術系ベンチャーと自負している。土壌中の腐食を生成する技術を事業のメインにしていきたい。収入を得るために、農業の事業化のお手伝いをしている。たとえば、堆肥を買いたいが、品質を見極めてほしい、匂いを減らしたい、温暖化ガスを減らしたい、、などなど、技術コンサルティングを行っている。

商品開発例としては、空知管内での加工用のトマトの成功例だ。従来ジュースばかりであったのをトマトソースとして製造した。話題性があれば、と思って工夫をした。誰をターゲットとするかが問題だった。「若い女性」、「おみやげ」で、と絞り込んだ。札幌のFM局のDJと話がつながり、番組の中でも取り上げてもらい宣伝にもなった。昨年は、2万本売った。しかし、手作りのため味も色も品質がそろわない。クレームになってくる。大手の店では、扱ってくれない。主婦がお茶を飲みに行くようなカフェなどへの拡販を行った。コスト計算から350gで価格750円の値付けを行ったが、この価格は、きわめて強気で、トマトソースは普通300円である。強気にしたが、よく売れている。実は、コストも高くこの値段が、是非とも必要であったのだ。昨年は、2千本。ほとんどの人が、リピーターになっている。ギフト用の1500円設定の商品も作ってある。20代から40代前半の主婦にターゲットを絞った。「野菜嫌い解消法」のキャ
ンペーンなども行った。

しかし、大阪の物産展では、空振りだった。コンセプトを伝えきれなかった。東京のフーディストでは、定番になってきている。今後、販売用が増えても商売のパイをどこまで大きくするかが問題。10万本となるような商品でないことも認識している。

仁木の農家から小樽後志支部トマトを差別化できるか、調べてくれと言われている。リコピンが5倍と書くが、リピーターは、健康機能に興味を持っていない。
むしろデザインとかパッケージに興味がある。第2第3の商品を開発している。商品コンセプトをしっかり作っていくことが重要だと考えている。

【福島道広先生】 大学の研究では、作物の収量を増やす研究ばかり行われてきた。特定の機能性成分を増やす育種や最大量の時に収穫する技術などは、ほとんど無い。そのような、研究が、大学や研究機関から出てくるのは、しばらく時間を要するだろう。

【十勝農業者からの質問】十勝の大豆である「大袖の舞」を加工して豆乳にしたときに青臭が出る。これを取る方法がほしい。品種改良が必要だと思う。

【大庭氏】 大豆そのものや大豆加工技術開発へのご要望があったが、大豆については、手がつけられない位たくさんの仕事がなされていて、特許もたくさん出ている。ほとんど隙間はない。青臭さのない大豆は、リポキシゲナーゼ欠損だとか、その加工法だとかたくさんの特許がある。(株)紀文でもほとんど特許を抑えている。においを抑える加工法もあるが、特許が抑えられていることと、装置産業なので費用がとてもかかる。大豆の機能性に関しても特許は数千件が、出ている。既存技術を調べる能力もつける必要がある。不用意に行うと、訴えられることもあり得る。

【畠山氏 音更環境管理センター】 廃棄物業務をやっている。昔は、酪農家であった。これからは、農家だよと言っている。食品残渣を受け取って処理場へ運ぶが、廃棄物処理費用(15千円/トン)が発生する。食品企業によっては、コスト低減のために鶏の餌に持って行くが、これは私どもの商売のじゃま。私は、食品残渣の安全性が気になっている。チェック体制を持ちたいが、分析が、簡単にいかない。費用が高いし、どんな項目を分析すればいいのかも判らない。食品残渣や、それから処理した汚泥は安全なのか?

【福島先生】汚泥と汚水というのは、食品残渣のものなのか?もし食品会社からのものなら、安心できる。人が食べても大丈夫なのだから、それを汚水処理しても危険性が増えると言うことは、考えられない。未知の成分まで、心配する必要はない。

【鈴木氏 アイネット】 苫小牧市では、ホテル、ファーストフードから出てくる残渣を堆肥化できないかと近郊の農家に相談したが、一般の農家は、ホテルやファーストフード店から出てくる残渣には、添加物などが含まれ危険だと思っているのが現状。福島教授の指摘されたような考え方とかなり遠いものがある。

【浅野HOBIA委員】HOBIAの得意技は、技術力である。販売面には、力はない。現状を見ていると、正しい知識を持たないがために、よけいなものを買わされたり、有利な技術や情報を利用をできないでいるケースが多数ある。HOBIAとのネットワークを組んで頂ければ、より正しい技術情報を提供できる。

(文責:HOBIA企画運営副委員長 淺野行蔵)