「地域バイオ育成講座in旭川」のご報告

【日時】平成17年11月4日(金) 13:30~17:00
【場所】旭川グランドホテル(旭川市6条通9丁目)
【プログラム】
13:30~13:35 開会 
NPO北海道バイオ産業振興協会会長   冨田 房男

13:35~14:35 講演1
「食品としてのきのこ―有用成分の機能性を探る―」

北見工業大学化学システム工学科教授  青山 政和 氏

14:35~15:05 講演2
「健康食品に求められること」

株式会社スリービー 取締役  石田 真己 氏

15:15~16:15 講演3「食品の健康・保健機能評価」

旭川医科大学健康科学講座非常勤講師  妹尾 秀雄 氏

16:15~16:55 意見交換

 同講座は、非常に多数の参加者を迎え、大変盛況で終わりました。また、講演者の皆様の御講演がとても内容のあるものでしたので、講演後の意見交換も熱の籠もったものになりました。この報告で、その一部でも御紹介できれば幸いです。

(HOBIA企画運営委員:富永一哉)


「食品としてのきのこ―有用成分の機能性を探る―」

北見工業大学化学システム工学科教授 青山 政和 氏

 食生活の急速な欧米化により、生活習慣病が増えている。こうした問題点と、大学の研究室でのきのこに関しての研究について話す。
 
 日本は先進国型の人口構成を持つが、高い医療水準に関わらず少子化が進んでいる。この構成は、2050年には70歳代が突出している形になる。平均寿命や新生児死亡率の面から見ると、医療の質は非常に高いと言える。非小細胞肺ガンの5年延命率からも、同じようなことが言える。医療費の先進国との比較ではコストが安く、比較的簡単に医療を受けることができる。加齢に伴いガンと認知症が大きな問題となり、生命医維持のコストと医療費の増大が問題となる。
 
 我が国の成人の健康状態は極めて深刻な状態で、3人に1人は生活習慣病である。これに対して、所謂健康食品は効果があると考えられていて、今や1兆円産業として消費も増えている。こうした食品の原料として、北海道の天然資源は非常に有用である。その重要な成分としてきのこがあり、食物繊維や多糖類などがその有効成分として挙げられる。きのこには、カリウムを代表とするミネラルとB群ビタミンが多く、免疫機能賦活効果もある。こうした効果は、成分中のグルカンによるものと考えられている。
シイタケから取れるレンチナンには、ガンの進行を抑える作用が知られている。こうした効果は多くのきのこに見られ、アガリクスなどは良く話題になる。ヤマブシタケには神経細胞の成長因子があり、痴呆予防効果がある。糖尿病軽減効果もあり、生活習慣病予防に役立ちそうである。マイタケにもβグルカンがあり、抗腫瘍効果や血圧降下作用が知られている。マンネンタケには非常に多くの機能が知られており、多種多様な機能性が期待される。カバノアナタケは科学的解明より、話題性が先行している様な気がする。
きのこ(コウタケ、マイタケ、マンネンタケ)の薬理活性について道立衛生研究所と共にスクリーニングをしたが、ACE阻害活性は評価ができた。コウタケからはいくつかの糖アルコールが見つかったが、合成薬よりは効力が弱い。しかし、機序としては競争阻害ではないかと思われる。マンネンタケにおける機能成分には、糖アルコールとまだ同定できていない非競争阻害を示す強力な成分がありそうである。
最後に、ガンを宣告されてから健康食品を用いても効果は無い。安価な食品としてきのこを食べることではるかに効果があることを理解してほしい。

「健康食品に求められること」

株式会社スリービー 取締役  石田 真己 氏

 当社の経営理念は、食を通して健康や地域社会に貢献していくことにある。 健康食品の定義は、一般食品に分類され、健康人に向けた食品と言える。トクホも含む健康食品市場は2004年で1.9兆円に達している。年齢階層が高くなると支出が増える傾向が見られる。
 当社では、20年来タモギダケを生産してきた。道立林産試と協力して、生産と機能成分の研究も続けてきた。その裏には、エビデンスを持った効果の表現をしたいと考えたからである。タモギダケの生産は、衛生管理が施された培養室で、ロボットを使い人工培養している。製品としては、生と水煮、熱水抽出物の製品化の3つの方向で出荷していて、道内主要スーパーと首都圏スーパー向けに販売している。水煮製品は、学校給食や自衛隊給食などに出している。タモギダケはシメジなどと比べると後発商品になるので、旨味成分や食品の安全性を表現して、売り込みをしている。
 食材として熱水抽出物を製品化しており、同時に健康食品としても製品化している。機能性評価は、札幌医科大学と協力している。また、人介入試験を東札幌病院と協力して進めている。健康食品に求められるのは、いくつかの要素がある。安全であり、効果が実感できて、求め易いことなどである。こうして要求を満たす商品を作っていこうとしている。
 最近話題になったマジックスパイスと協力したスープカレーの販売は、年商3億を目指す。このほど、今年度の農林水産大臣賞も受賞させて頂いた。味の素も巨大市場である「未病」を狙うとしており、更に「テーラーメード食品」は注目されてきたと思う。我が社は小さな企業だが、こうした市場を目指そうと考えている。

【質問】学会発表のテーマを教えてほしい。病院との共同研究の結果はいつ頃分かるか?
【応答】:要旨の中に一部書いてある。結果は、希望者のみで検討しているため、今のところ良い結果を得ているが、nを20とする予定なので、もう少し時間が掛かる。

「食品の健康・保健機能評価」

旭川医科大学健康科学講座非常勤講師 妹尾 秀雄 氏

 現在実験中のものがあるが、データがまだ出ていないのでお話しを控えさせて頂く。きのこで記憶にある話として、北見の保健所長をしていたときに、タマゴタケモドキの食中毒事件を思い出す。食べてしまうと、治療の方法が無くて犠牲者を出した事例だが、その後に抗ガン剤抽出の可能性も検討したことを思い出す。
痴呆症に関して、ドクササゴの中毒は末梢が非常に暑くなる症状を示し、痴呆改善薬の可能性も検討した。保健所できのこの相談会をすると、採った場所をなかなか教えてくれない。危険を感じても、場所が特定できなくて困ったことがある。  
 知り合いが肺ガンにかかり、かなり広がっている状態だったため、放射線治療と抗ガン剤治療のみにした。免疫賦活活性を使った方法しか無かったが、結果的に手遅れとなった。病気になってからでは遅く、普段から機能性を持つ食品を摂ってもらうことが重要だと思う。食品関連の研究所に勤めたこともあり、食と健康を繋ぐようなベンチャーを立ち上げる予定である。来年から、起業に関しての規制が緩和されるので、現在準備中である。
 目標は2つ有り、その1つは便秘の改善についての効果のある食品を検証する。食品加工研究センターと協力して、乳酸菌を含む食品で腸内細菌の菌叢検査や血液検査を行い、明らかにしようとしている。また、東川町の発芽玄米の効果について検討を開始しており、12名の被験者で調べているが、まだデータとしては不十分である。国から予算をいただいて、3年で4億円程度の予算で検討したいと思っている。
 もう一つのプロジェクトは、温泉の健康効果について明らかにしたいと思っている。定期的な入浴と同時に食事の制御もして、医学的な知見を得たいと思っている。都市エリア事業として、旭川エリアで検討を進めたいと思っている。温泉は天人峡温泉と協力し、皮膚科の病院も巻き込んで研究したいと思っている。12月から試行実験を開始する予定で、数名の人で試験をする予定である。既に、個人的に糖尿病の湯治をしている人も多いようで、温泉側から食事に関して協力を求められている。
 年齢構成の高齢化の話があったが、これからは2度目3度目の仕事をする時期が来る。自分自身も直腸にポリープが見つかり、一部ガン化していたが、取ってしまえば健康体である。早くに発見したり、食事で抑えたりするとガンでさえ問題はない。
 最近、プロバイオティクスが話題になっているが、腸内細菌は種類も量も多く、様々な疾病に関して関係が分かってきている。今後検討が予定されている項目も多く、非常に興味深い。また、プレバイオティクスと言う概念も広がってきており、菌体を活性化する成分を腸内に導入することにより菌叢の改善を図る方法も注目されている。その機序に関しても、かなりのところが分かってきている。また、同じ試験をしていても、家族間でも違った反応が現れることも情報が出てきている。食生活も含めた統合医療が必要な時代で、「ピンピンころり」を目指したいと思っている。こうした研究に関して、旭川医大と旭川地域をベースとした検討を進めていくので、機会がありましたら皆様にも御協力頂きたいと思う。

【意見交換】
冨田:話したりなかったことや聞きたいことなど、話を進めていきたいと思う。
菊池(林試):自分たちも都市エリアを考えているが、どの様なイメージを考えているか?

妹尾:食加研の所長として都市エリア事業を見ており、今までの研究開発と異なり事業化を重視していると思う。インプットしたお金以上のアウトプットが必要だと思う。実際には、医学部を巻き込んだ評価を行うことにしており、また林産試の所長ともお話しをしている。木工品の安全性等に関しても取り組みが可能なら、検討してもらいたい。
冨田:それぞれの地域で代表する研究機関などが必要だと思うが、旭川ではどこになるか?
妹尾:市の高度化センターになると思う。きのこに関しても興味はあり、愛別町の担当者とも話している。
冨田:地域としてどの様に考えるか?
木村(旭川バイオテクノロジー推進懇話会会長):地域としては上川百万石と呼び、米が中心となっている。こちらは農業試験場が中心だが、林試を中心とした住宅材や木工業も重要である。また、温泉などの観光も重要なので、妹尾先生にはさらなる御協力を願いたい。
冨田:βグルカンは注目されているが、林試などの研究も含めて新たなきのこの種類はないか?
青山:βグルカンについては研究者によりデータに差があるので、もう一度研究を整理すべきだと思う。既に知られているきのこについて、成分や機能を再検討すべきだろう。
石田:自社ではタモギダケのみについて検討しているわけだが、企業としては商品が売れなければならない。他の商品との比較優位が必要になるので、効果を現す量などのデータを明らかにして頂きたいと思う。
冨田:旭川で都市エリアプロジェクトがスタートするとしたなら、他の地域と比べて大きな違いがあると思う。それは、医師が中心となって医学的見地からの研究ができることだと思うが、旭医大はどれくらい協力してくれるのか?
妹尾:ほぼ全ての教授が協力してくれる状態である。
冨田:やはりマウスでは限界があるので、この状態を青山教授はどの様に考えるか?
青山:試験管や動物実験には明らかに限界があり、医師の協力は魅力がある。協力してくれる医師は少ないと思うので、是非協力を取れるような仕組みがあると助かる。
妹尾:確かに、教授は忙しい。民間人という立場になって、調整を図ればお役に立てると思った。
冨田:今A-HIT Bioと言うベンチャーも経営しているが、地域結集型の研究予算をもらってDFAⅢの開発に成功し、腸内細菌の検討には自信がある。例えば、DFAⅢに関して検討するなら、どれくらいの被験者が必要か?
妹尾:便秘に関して検討した例はほとんど無く、かなりの老健施設などで協力を得られると思われる。こうした情報はまだ検討段階なので、実態が掴めないだけだ。例えば、温泉効果について調べようとしていて、既に湯治目的の多くの利用者があり、費用負担や医学検査の魅力によっては協力を得やすい。一人一人の人に御協力いただけば、意外に簡単に協力の輪が広がるものと思われるし、手応えがある。
会場から:3ヵ月程介護研修を受けた経験から、青山先生のヤマブシタケのデータはADSLのレベルに改善を見られたものと思う。スリービーのデータで、高齢者が増えると生活習慣病の改善が必要になるが、食品自体を作ってもらいたい。
石田:当社はあくまでもタモギダケの生産者で、健康食品は5年の実績しかない。しかし、未病の人たちを対象とした日々の健康や老化阻止に役立つ食事や献立提案をできればと考えている。そのために、効能に関しての評価を明らかにしていきたいと思う。
青山:健康に対する効果は、もしかしたら施設や病院の雰囲気が影響しているのかも知れない。もしそうなら、健康に関する検討は、メンタルについても考える人間科学の面からの検討も必要ではないかと思う。
冨田:東川町の温泉に出かける人たちは、ある意味健康で定期的に出かけていると思う。そうした人たちが、この地域にそれ程いるのだろうか?また、医学的データは厳密性を求められる。本当に対応できるのだろうか?
妹尾:大丈夫だろうと思っている。トクホを取るためには億単位のお金が掛かる。まずは、小さな検討から入るが、補助金などでパワーアップしていきたいと考えている。
冨田:地域の育成と考えると、今回は有意義な会になったのではないかと思う。最後に、講師の皆様に拍手をお願いしたい。