第16回 北海道バイオステージ 実施報告

去る11月8日に、恒例の「北海道バイオ・ステージ」が帯広市のホテルノースランド帯広で開催されました。

今回は、農畜水産物の豊富な十勝地方にちなみ、「十勝平原の幸とバイオテクノロジー」をメインテーマにしました。一般市民の方々にも親しみやすい講演会として好評の「やさしいバイオ講座」には101名の方の参加をいただきました。

「展示コーナー」では、(財)バイオインダストリー協会(JBA)のパネル、去る9月に行われたバイオジャパン2000へ参加した企業や地元企業がバイオ
技術により実用化した製品、当日行われた講演にちなむ商品などが並べられ、試食・試飲コーナーとともに参加者の関心を集めていました。

なお、当日の模様が、北海道新聞地方版に取り上げられ、各講演内容の概要とともに紹介されました。

以下に、当日の講演要旨を報告します。

1.「遺伝子組換え食品から環境まで」
   (財)バイオインダストリー協会 産業と社会部 主任 佐々義子 氏

 

 PA(Public Acceptance:社会的受容)は、バイオなど新技術・製品が社会に受け入れられることであり、産業として育成する基盤整備には、消費者のPAを得ることが必要である。
 
日本の消費者は受け身で、店や企業から何かを提示されるとそれにすぐに反応する。今のマスコミは危険なものはすぐに広め、それが中立な人に影響する。組換
え食品のように食にかかわる部分については自分にとってのメリット、つまり安いからとか体にいいとかいうことが理解されるとPAが得られる。日本の場合、
企業や官庁からの情報よりもオピニオンリーダーのような人の意見の方が生活者によく伝わる。
<科学、自然、安全、安心>
 
一般の人は科学に100%のお墨付きを求めるが、科学は安全性や危険度を評価する方法である。
 
自然なものがいいというが、自然の範囲は原始林、野原、雑草から温室、水耕栽培とあり、人間の都合で決まる。安全は危険でないという考え方であり、関心の
深さと情報量により安心に近づく。リスクはリスクコミュニケーションによる情報でコントロールできる。
 
こういうことをふまえてバイオテクノロジーを紹介するが、情報開示が大事で、リスクアセスメントにより消費者の安全に近づく。
<組換え技術>
 
従来技術(細胞培養、組織培養)でも基本的には、遺伝子が変わったからよくなったと考えるべきである。バイオの技術は、有用成分を作る技術など食品以外の分野にも広がりがあることを理解してもらう。
研究者に任せるだけでなく私たちも一緒に考えていくことが大切である。
<PAからPUへ>
 
今までのPAは、専門家の判断、安全性の考え方、環境への影響などの情報を一方的に押しつける形であったが、これからはPU(Public Understanding)で、第2フェーズに入ったと考える。
 
JBAでは、「食品から環境まで100問」、「もっと知りたい人のための50問」をHPで公開しているので見て欲しい。

2.「十勝の未利用資源からの天然調味料の製造」

        コスモ食品株式会社取締役研究開発本部 本部長 宮坂春生氏

 コスモ食品株式会社北海道工場は、バレイショやビートの副産物から天然調味料を製造するために平成3年に操業開始した。ここでは、天然調味料と合成調味料の違いを説明し、天然調味料について製造法や使用原料などについて紹介する。
<合成調味料>
 
よく知られているグルタミン酸ナトリウムやイノシン酸ナトリウムは発酵→中和→精製で作られる。中和の段階が化学反応なので合成とされるが天然物と同じ成分である。 グリシンはアミノ酸の一つだが、もともとは自然界にあるものを化学合成した例である。
<天然調味料>
 
一般家庭では馴染みが少ないが、めんつゆ、レトルトカレー、珍味、漬け物など業務用に使われている。家庭内での調理が減少するにつれて右肩上がりに出荷が増えている。天然調味料は次の4つに大別できる
①塩酸加水分解系:タンパク質が対象で、十勝ではジャガイモとビートのタンパクを塩酸で分解し、か性ソーダや炭酸ソーダで中和して、ろ液を濃口調味液にする。脱色精製工程を経て薄口調味液となる。
②酵素分解系:コスモ食品では乾燥ビール酵母、ミルク、卵膜を原料に選択性ある数種の酵素を組み合わせて分解する。切断段階でオリゴペプチドとなり、製品は粉末である。
③自己消化系:塩蔵の魚系を原料とし、製品はしょっつる、魚しょうなどである。ビール酵母も原料に使われる。
④エキス抽出系
・溶媒抽出型:家庭でだしを取る方法を工業化したもの。原料としては、コンブ、ホタテ、カツオブシ、ビール酵母、ポーク、チキン、ガーリック、オニオン、ニンジン、キャベツなどが使われ、製品は、液体、ペースト、粉末の形である。
・酵素を補助的に使用する型:牛豚骨のゼラチン質などに酵素(プロテアーゼ、セルラーゼ、アミラーゼなど)を加えてゲル化防止して濃縮する。

 以上天然調味料は、原料としては、牛、豚、鶏の骨、魚類など一般に非可食部を有効利用している。
 
十勝圏で真剣に取り組むべき課題であり、クラスター等に役立てばよいと思っている。

3.「有色馬鈴薯その特徴及び将来性」

       国立農業試験場畑作研究センター ばれいしょ育種研究室長 森 元幸 氏

 馬鈴薯は北海道では青果商品であると同時に加工原料としてメジャーな作物であるが、東京ではイネ、ムギ、豆に次ぐその他の野菜(ジャガイモ)の認識であり研究費を取るためにもPRが必要である。
 
これまでの開発目標は、芽が浅い、形が丸いなどであったが、一般消費者にはインパクトが少なかった。
 
そこで2000年では色つきをねらうことにした。
 
アンデス高地から昔ヨーロッパに持ち込まれるとき捨てられた近縁種を探し、交配でアンデスの遺伝子源(着色)を北海道でイモをつける品種に入れ、日長の違
う北海道でも栽培できる状態に持ってこれた。実生で発現させ、年々株を選抜していくが20万~30万に一つが残るというところである。
 
色が濃いことを指標に選抜していったところ1回交配した毎に色が濃くなってイモはちゃんと採れるという幸運な例になった。
 
現在、品種登録しているのは、インカパープル(紫)、インカレッド(赤)、インカのめざめ(黄色)であるが、収量、上イモ収量、デンプン価、イモの大き
さ、調理特性の点で決定的なものはない。生産者の協力がむずかしい点である。それでも色があるということで商品開発を行っている(例:紫ポテトチップ
ス)。紫色は手にとってもらえるし、赤と黄は食欲をそそる色である。
 
ポテト色素(紫、赤はアントシアニン=ポリフェノール、黄色はカロチノイド)には抗酸化性があり活性酸素を抑える効果がある。pHが高めのところでも赤くなるという、天然のアントシアニンとしては貴重な存在である。
  色素原料としてみた場合、アントシアニンの含量は、有色甘藷の山川紫が680
mg/100gであるのに対し、パープルが152、レッドが265でありものたりない。育成段階として、646の品種があり、将来は色素原料として太刀打
ちできるかもしれない。
 
機能性をうたうにしても、食品としてはおいしさがあってこそ食衝動につながり、また食べてもらえることになる。そう言うことをめざして今後進めていきたい。

4.「てん菜から砂糖以外のものとして何が採れるか」

       ホクレン農業協同組合連合会てん菜生産部 技術開発課長 竹田博幸氏

 ムギ、じゃがいも、てん菜は、十勝の基幹産業である。てん菜は砂糖にしないと流通しない作物である。
 
日本では、明治時代に現在の伊達紋別に官営工場ができたのが最初である。その後、台湾からのサトウキビ砂糖との関係で、二度中断した時期があったが、第二
次大戦を経て再建し、現在では7万haが栽培され、8工場で年間379万トンの砂糖が生産されている。
<てん菜から砂糖以外のものとして採れる物>
①ラフィノース:ビフィズス菌の増殖効果がある。
②ベタイン:カマボコ用、ほこり止め、シャンプー用など
③アミノ酸:糖蜜の中にかなり高率で含まれている。
④γアミノ酪酸(GABA):血圧降下作用がある。
<砂糖を原料として何が作れるか>
①パラチノース:虫歯にならない糖として使われてきた。
②オリゴ糖:整腸作用あり、商品化された。
③フラクトオリゴ糖:砂糖のみから変換。
④糖アルコール:ソルビトール、還元水飴、マルチトール、エリスリトールなどであり、エネルギーにならないので、太るといわれている砂糖の需要減を埋める形になっている。
<甘味料以外の砂糖の用途>
①ショ糖脂肪酸エステル(メチルエステル):乳化剤。
②デキストラン:多糖類、分画により代用血漿の用途。
③ポリ乳酸:生分解性プラスチックに。
④α-1,3グルカン:水に不溶、カードランとして商品化されている
<砂糖そのものを見直す>
①砂糖の機能:水との親和性、凝固緩和(プリン)、メラード反応(カステラの色づけ)、防腐性、ゼリー化、デンプンの老化防止など
②砂糖と健康の関係:糖尿病の直接の原因は肥満であり、肥満の原因は食事全体の過食と運動不足である。
③砂糖は脳のエネルギー:脳のエネルギーはブドウ糖のみである。ブドウ糖は砂糖から速やかに供給される。

新規商材が成功するための要素として常々考えていることは、それを作る手段/方法があること、明確な用途(社会的ニーズ)があること、ニーズにリーズナブルな価格で供給できることである。

5.「十勝型産業クラスターの展開」~地場産品を利用した産業興し~

帯広畜産大学名誉教授 美濃羊輔 氏

<はじめに>
 
十勝管内で地域興しのために産業クラスター研究会などをやっている。
 
地域では高度なことをやっているわけでないし、特別な技術を持っているわけでもない。先端研究は必要だが、地域興しにはローテクノロジーが必要だ。古くか
らの、誰でもわかる技術は、隣町でやっていると自分にも出来るかもしれないと思うことで勇気を与えることになる。
<十勝財団>
十勝圏産業クラスター研究推進会議があり、運営にかかわる提言や会員に対する人脈のつながり、情報の収集をやっている。
①地域研究会ネットワーク会議:足寄町、大樹町、清水町にHOKTAC財団から認定された4つのクラスターがある。そのほか認定されていないが個別のブ
ロックで活躍しているクラスターがたくさんある。ネットワーク会議に集まって、情報交換や連携の可能性など戦略を練っている。
②シーズ育成推進委員会:シーズの提言を受け、HOKTACのクラスター事業部と結びつける。
③戦略検討委員会:開発で困っているときにどうしたらよいか、どうやってシーズを拾い上げたらいいかなどを議論する。帯広畜産大学の地域共同センターと相互交流が行われており、シーズの発掘と企業家への伝達を連結させている。
<具体的なバイオテクノロジー関連クラスター>
(1)足寄町のケース
 
ラワンぶき(秋田ぶきの一種)は他で採れない優位性があるが、ウスグロハナアブがはいり込むので、1/3しか出荷できない。そこで、乾燥したヒトデを粉に
してラワンぶきの畑に撒くとアブの幼虫が逃げることがわかった。結果として殺虫剤を使わないイメージを守ってかつ収量を上げることができた。
(2)大樹町のケース1
 
水産業と並んで酪農や肉牛生産が盛んで、糞尿がたくさん出る。糞尿のたい肥化中に生きたヒトデを入れると、2週間で分解した。作物の生育促進効果が大きいたい肥が得られ、ヒトデの無料処理が実現できた。
(3)清水町のケース
 
乳牛が非常に多いが、脂が多いので大部分は捨てられている。これに対処するプロジェクトで初乳バンクとして集め粉乳にする技術を開発した。餌に加えると牛、ペットを病気から守ることができる。全国的に集めて売り出そうとしている。
(4)大樹町のケース2
 
シラカバ(全森林面積の90%)の有効利用を考えている。樹液に糖を足してビール酵母を加え、発酵させるとビール様の飲み物になる。
 
葉を乾燥して粉にすると、アンモニアの消臭効果で見てヤシガラの活性炭以上の吸着能力がある。

以上、ローテクを使い地場にある素材を活かしながらという立場で頑張っていることを紹介した。

 
帯広市でも4月1日にクラスター研究会を立ち上げ、全部で6本動いている。バイオテクノロジー関係を紹介すると、①十勝管内の屠場(牛)の残り物から機能
性物質を取りだして商品化する、②野菜選果場からのくずや規格外品や捨てられているものを発酵処理で家畜の餌にする、③香料を使って牛の餌の食い込み量を
増し生産性を上げる、④新聞紙やマンガ雑誌など使って牛の敷料を作る(後のたい肥化を促進)などがある。

帯広の知識が広がって産業興しになってほしい。
やがて道央圏と肩を並べるレベルに持っていきたい。

【北海道バイオ・ステージのアンケート概要】
 
アンケートにお答えいただいた90%近くの方がバイオ関係の職業に従事しており、バイオ・ステージをDMと知人からの紹介、会社内の回覧で知り参加したと
しています。そして参加者のほぼ100%が有意義であったと評価しており、次回も参加するとしています。
 
バイオテクノロジーは、21世紀の北海道産業にとってどうかとの問いには、100%が有望と見ていることが判りました。
講習会のどのテーマに興味をもったかの問いには、十勝平原の農産物についての研究発表が主体であったことを受け、演題の全てにご満足をいただいた結果となりました。
 
展示コーナーでは、十勝で製品化されている鮭ぶし、醤油、とうふセットや、道内のバイオ企業が機能性食品として開発し製品化されているもの、そして有色馬鈴薯からの試作品のポテトチップスに多くの関心が寄せられました。
 
今後の開催に向けてはバイオと特許、抗がん性食品や低アレルゲン食品などとバイオや発酵食品、ローテクノロジーからの展望等を望む声がありました。
 
バイオテクノロジーに関心が大変高いことが伺い知れましたので、今後ともバイオ関連の団体が連携して、バイオ産業の発展に努力してゆきますので、皆さんの一層のご支援をお願いします。

第15回北海道バイオステージ開催報告

 平成11年11月12日に恒例になりました「北海道バイオステージ」を釧路プリンスホテルで開催いたしました。
 
今回は、海にちなんだバイオ技術の利用と応用として、「道東の海の幸とバイオテクノロジー」をメインテーマにしました。一般市民の方々にも親しみやすい講
演会として好評の「やさしいバイオ講座」には80名の方の参加をいただき、北海道バイオステージ実行委員会の高尾彰一委員長(HOBIA会長)から挨拶の
あと、4件の講演が行われました。

 

開会挨拶される高尾会長

 一方、「展示コーナー」では、(財)バイオインダストリー協会(JBA)のパネル、参加企業がバイオ技術により実用化した製品や、当日行われた講演にちなむ商品などが試食・試飲コーナーとともに並べられ、参加者の関心を集めていました。
 
以下に当日の講演要旨を報告します。

1.「未利用水産物の有効利用 -サケ頭部コンドロイチン硫酸の利用-

  北海道立釧路水産試験場 利用部利用技術科長 錦織 孝史 氏

(1) はじめに
 
水産物の食べられない部分に付加価値をつけるということで、サケの頭から軟骨を取り出しその利用としてコンドロイチン硫酸を開発しました。最初は道の単独事業で行ってきたのですが、釧路短期大学と愛媛大学医学部と共同研究しています。
コンドロイチン硫酸は保湿性を持っており肌への親和性も優れております。本日お手元にありますナイトクリーム試供品や化粧品などに含まれています。今は、牛の軟骨や鮫のえらから取り出されておりますが、将来は鮭から作られるようになると信じています。
 
そのコンドロイチン硫酸の生産量は年間100トンで、その内医薬品90トン、化粧品5トン、食品5トン使用されています。用途が広がりつつあり安定供給が
求められているのですが、現状は不安定なのです。一方、道内水産廃棄物発生状況は、即座に処理しなければならない量として全道で33万トンあり、この内
14万トンが魚の廃棄物です。さらに、秋サケ16万トンとれますが、この内サケの頭は8千トンくらいになっています。

 

北海道立釧路水産試験場 利用部利用技術科長 錦織孝史 氏

(2) サケの頭
 
これが将来新巻サケが頭を取り除いた切り身で出荷されるようになると予想して1.6万トンになるとと考えられています。コンドロイチン硫酸のとれる軟骨は
頭部の1.8%で、トキサケやブナサケの軟骨からですと3%程度コンドロイチン硫酸が回収できています。サケの頭を断面にしますと、目の上部の透明感のあ
るところが軟骨で、軟骨の中に、軟骨の細胞がありその周りにコンドロイチン硫酸が埋め込まれています。細胞のクッション剤およびカルシウムの吸収がその機
能と考えられています。分子の形でみますと、糖が長くつながった構造をしており、酸性多糖類の一つです。

(3) 抗肥満性
 
抗肥満性について愛媛大学医学部に持ち込んで共同研究を始めました。
日本人の体重を平均5キロ痩せさせることができれば医療費を2兆円削減できると考えられています。
根本的な、対策を講じるべき時期に来ているのです。
油、でんぷんを過剰にとるとグルコース、脂肪酸になります。小腸で体内に吸収され、脂肪酸は脂肪となりカイロミクロンという形になって肝臓組織に行き、脂
肪細胞となり、全体に脂肪組織が肥大になり肥満が生じます。たくさん脂肪細胞が大きくなると内蔵脂肪型肥満、皮下脂肪型肥満が生まれ、これが最近の研究で
は身体に影響を与える物質を分泌する分泌細胞であることがわかりました。PAI-1(血栓形成)、レプチン(肥満遺伝子産物)、TNFα(インスリン抵抗
性)(インスリン非依存性の糖尿病を引き起こす)、アンジオテンシンII(血圧上昇)などが一例です。
 
このように肥満は生活習慣病の根本になる原因となっています。それを止めるためには、食べ物をカロリー計算し、日常体を適度に動かすということを行えば大
丈夫なのですが、過度に摂取した場合、身体に吸収されないようにすればよいのです。愛媛大学医学部で小腸のモデルをビーカーで作って試したところ、コンド
ロイチン硫酸はデンプンや脂肪の分解を押さえたり、小腸での吸収を抑制するということがわかりました。マウスに牛の脂肪をたくさん与えてそれにコンドロイ
チン硫酸を加えた実験で、実際に肥満や高脂血症が抑制されました。
ヒトついてはこれからの研究課題です。

バイオステージ会場

2.今、注目されているサケ白子による核酸食品

 遺伝子栄養学研究所 代表 松永 政司 氏

(1) どうして核酸か
 
昭和19年生まれで、子供の頃ニシンの白子をいっぱい食べ、食べたときには元気になったという思い出がありました。これはおもしろいんじゃないか?と思い
調べてみると”核酸は利用されない”と本には書いてありました。そこで、釧路のある水産工場から分けてもらって核酸の栄養学を16年前に始めました。現
在、核酸を使った市場は末端120億円で、大きな産業になっています。
 
今の研究のメッカはアメリカで、粉ミルクにも核酸が含まれるようになってきています。人間の母乳には核酸成分が入っているのですが牛乳には入っていないの
です。粉ミルクの核酸は、酵母RNAを分解したヌクレオチド、さらにこれを分解したモノヌクレオチドが使われているというのが現状です。
環境ホルモンのダイオキシンをトラップするためにサケの白子のDNAを使ったり、たばこから変異原物質を取り除く目的で、フィルターにDNAを入れる研究を行っています。

(2) サケ白子核酸
 
白子は4種類のヌクレオチドの割合が同じ程度、実際に吸収をみたところ(ラベルしたRNA)ヌクレアーゼ、フォスファターゼで分解されモノヌクレオチドと
して吸収されることが分かりました。この単位物質まで、分解されると遺伝子の情報はありませんので、赤血球に乗り全身に伝わります。核酸の研究は、農学部
よりも医学部の先生が活発に行っております。核酸の量は、食総研、福岡大学理学部でデーターが出されましたが、白子と酵母に非常に多く含まれていることが
知られています。

遺伝子栄養学研究所 代表 松永政司 氏

(3) 核酸の生理機能
 
活性酸素で遺伝子が傷つき成人病、老化、肥満などの原因になっているという考え方がありますが、これを防ぐのに核酸が必要だと考えられています。生殖細胞
に傷が付くと遺伝子病が起こり、体細胞が損傷すると老化促進、ガン、糖尿病、ボケ、アトピーが起こるのです。身体の細胞は、新陳代謝が起こっているのです
が、アポトーシスの1割が体外にでてくるのです。ガン抑制遺伝子であるp53の強い人が、ガン細胞にアポトーシスを起こさせるのですが、このp53を強め
るような力を持ったものがガン抑制剤となると考えられています。成人病というのは、自覚症状がないのが問題なのです。健康食品というのは、自覚症状がでる
前に免疫の力で傷ついた遺伝子、細胞をやっつけるのが使命だ考えています。核酸を食べると、小腸の絨毛が非常に柔軟になります。腸は消化機能に加え免疫機
能も持っています。核酸をとると腸管免疫力が上がると考えられています。腸内のビフィズス菌の量も、核酸の成分をいれると母乳並に増えてきます。サケの白
子やアルギニンを加えると手術後の快復力が早くなるということがわかっています。アメリカでは、核酸はガンの治療に使われています。核酸を与えると、ネズ
ミの実験で有為に記憶学習力も高まるということがわかっています。作用機作は神経成長因子の機能があるためであると考えています。核酸を食べされると、ボ
ケの改善が認められるということがシーター波を調べることで確かめられました。これも、神経成長因子だと考えています。

(4) 終わりに
 
痛風の原因になるからとり過ぎないようにということで、研究が遅れていましたがアルコール、激しい筋肉運動、ストレスの3つが尿酸の合成を倍加させ、核酸では起こりません。尿酸は、de noveで新生合成されていますので、関係ないのです。

3.「未利用海草の有効利用-海草のたまご-」

           釧路水産試験場 利用部原料化学科長 辻 浩司 氏

(1) はじめに
 
海草は海の中の栄養をたくさん吸収した「海の野菜」で、日本近海には約1,000種類の海草が生育していますが、その内食用となるのは20種程度です。道
東太平洋沿岸でも昆布が主に採取されていますが、加工、利用されていない海草(未利用海草)もたくさんあります。今回は、未利用海草に含まれる成分を調査
し、さらにどんな加工、利用法があるのかを検討し、ソフトな触感、低カロリー、しかも製造の際には廃棄物ゼロの「海草のたまご」が生まれたので紹介いたし
ます。

(2) 原料の調査
 
なぜ道東太平洋で繁殖している未利用海草はあまり食べられていないのでしょうか?昆布との成分を比較しましたところ、昆布はグルタミン酸が
100mg/100g(乾物)あるのに対し、ほとんどの海草は、その1/4以下でした。また、マンニトールも昆布の1/3以下しか入っていませんでした。
しかし、未利用海草には昆布に匹敵する各種ミネラル、食物繊維が豊富に含まれています。そこで、私どもは未利用海草の中でも昆布と同じ褐藻類スジメの食物
繊維に注目しました。

(3) 食物繊維
海草の食物繊維には寒天、カラギーナン、アルギン酸、フコイダンなどがあります。人間は、食物繊維を消化する酵素が無く、腸内細菌が一部分解するだけで、
我々のエネルギーにはなりません。海草がダイエット食品と言われる理由です。また、褐藻類に多く含まれるアルギン酸は血圧を下げる作用があります。高血圧
の原因の一つに食塩のとり過ぎがありますが、アルギン酸は食塩をくっつけて、便と一緒に排泄してくれる働きがあります。この他に、アルギン酸はカルシウム
と結合すると固まる(ゼリー)性質があります。これを利用することで、未利用海草スジメから、たまご(いくら)の形をしたゼリー様食品ができました。

 

北海道立釧路水産試験場 利用部原料化学科長 辻 浩司 氏

(4) 海草のたまご
 
まず作り方ですが、
スジメを水洗いしゆでる→チョッパーにかけ細かくする→アルカリで加熱溶解→混合、脱気→カルシウム溶液に滴下→水さらし→海草のたまご
となります。褐藻類のスジメは、その名の通り、褐色なのですが、生の海草をゆでることできれいなグリーンに変身します。その後、細かくし、アルカリで加熱
することによってアルギン酸が溶けだしてきます。トロリと粘性のあるスジメの液をカルシウム溶液に滴下するとアルギン酸カルシウムゼリーができ鮮やかな緑
色「海草のたまご」の出来上がりです。

4.「ガゴメコンブに含まれる「フコイダン」を利用した健康飲料「アポイダン-U」の開発

宝酒造 バイオ弘前研究所 主任研究員 酒井 武 氏

(1) はじめに
昆布は、味も良く健康にも良いとされている海草で、広く食用に利用されています。漢方では、抗ガン剤、強肝薬、抗浮腫薬等として用いられています。日本で
も、根昆布や黒焼き昆布療法が民間で広まっており、高血圧、糖尿病、ガンが治る、髪が元気になるなどの効果が最近の雑誌に掲載されています。特に、フコイ
ダンという食物繊維の抗ガン作用に関しては多くの研究がありました。我々は、まず昆布の中でもフコイダンの含有量が多いガゴメコンブを研究材料として、フ
コイダンの製造方法を確立し、フコイダンの構造と抗ガン作用の関係について研究を開始しました。

(2) フコイダンとは
 
昆布、ワカメ、ひじきなど褐藻類に属する海草に含まれている硫酸化フコースを含有する多糖がフコイダンと総称されています。それぞれの海草は特有のフコイ
ダンを数種ずつ持ち、その含量は乾燥重量の1-20%です。また、フコイダンは、海草のぬめりや粘りをになう成分でもあります。

(3) 大量製造方法及び分離方法
 
乾燥ガゴメコンブをエタノールで洗浄し、熱水によりフコイダンを抽出し、同時に抽出されるアルギン酸を酵素により分解後、限外ろ過により分子量10万以下
の物質を除去し、凍結乾燥してフコイダンを得た。フコイダンの重量は乾燥ガゴメコンブの約5%でした。これを、陰イオン交換樹脂により2つに分画した。一
方は、グルクロン酸が多く硫酸基が少ない画分で、U-フコイダンと命名しました。もう一方はグルクロン酸をほとんど含まず、硫酸基の含量が50%にもなる
画分で、F-フコイダンと命名しました。

宝酒造 バイオ弘前研究所 主任研究員 酒井 武 氏

(4) フコイダン分解酵素の取得と酵素を用いた構造決定
  これらのフコイダンを分解資化する海洋細菌をスクリーニングし、Flabobacterium
属細菌からU-フコイダンを分解する酵素、Alteromanas
属細菌からF-フコイダンを分解する酵素を単離しました。これらの酵素は、クローニング、遺伝子解析を終えており大腸菌での大量生産が可能です。これらの
酵素を用いてU-フコイダンはグルクロン酸とマンノースと硫酸化フコースの3糖からなる繰り返し構造を持つこと、F-フコイダンは硫酸化フコース7糖から
なる繰り返し構造を持つことを解明しました。

(5) フコイダンの抗ガン作用の確認
 
最初に、培養ガン細胞に対するフコイダンの作用を調べ得たところ、ガン細胞(胃ガン、大腸ガン、肺ガン、白血病細胞)のアポトーシスを誘発する作用が見い
だされました。次に、U-フコイダンとF-フコイダンの作用を別々に調べると、U-フコイダンのみがガン細胞にたいしてアポトーシスを誘発させることが分
かりました。また、実験動物に飲用水としてフコイダン溶液を与えると、化学物質(アゾキシメタン)により発ガンさせたラットにおいて、顕著な延命作用を示
したり、ヒトの大腸ガンを移植したマウスにおいて、腫ようの増殖抑制作用や、場合によっては腫ようの離脱が見られました。このようにして、ガゴメコンブ由
来フコイダンの多面的な抗ガン作用を確認できました。

(6) 商品開発
 
フコイダンを多量に含む健康飲料「アポイダン-U」を平成8年に発売し、年間約100万本の売り上げがあります。平成11年には顆粒タイプも発売しまし
た。一方、平成9年に様々な食品に混合することを前提として、粉末の食品素材「TaKaRaコンブ・フコイダン」も発売しました。今、ゼリーやリンゴ
ジュースに入れて売られております。コンブには、過剰摂取すると体によくない塩化ナトリウムやヨードなどが含まれていますが、これらは限外ろ過によりほぼ
完全に除去されていますので安心してコンブの効用を得ることができるのです。

閉会挨拶する北海道立釧路水産試験場長 竹内健二 氏