会場確保の都合により、ホームページへの掲載のみのお知らせでしたが、昨年12月2日(土)、グランドホテルニュー王子(苫小牧市)において、地域バイオ推進実行委員会主催の標記講座が開催されました。
同講演会では3名の専門家により 「植物資源の有効活用による地域活性化」をテーマとした講演をいただきました。急な案内にもかかわらず43名の参加を得て有意義に行われた同講演会での、ご講演内容を紹介します。
なお、当日の講演1:北見工業大学 国際交流センター長 山岸 喬 氏による「道内有用植物資源の概要」については、都合により次号に掲載します。
=== 講演2 ======
【演 題】「てん菜の高度利用とエネルギー作物としての研究の現状」
【講演者】
独)農業・食品産業技術総合研究機構
北海道農業研究センター テンサイ育種グループ
中 司 啓 二 氏
私が農水省に勤務してから二回のバイオマス研究のブームがあり、膨大な報告があります。それ以前にも一回あったので、今回のブームは四回目となります。一
方、所属する独立行政法人では組織の大改変や成果主義を取り入れた運営に移行しており十分な成果が見込めないと研究に取りかかれない状況です。そのため、内閣がバイオマス・ニッポン戦略の見直しを発表したことの影響の大きさに当惑しています。全国紙では原料として「サトウキビ等」と書き、北海道の地方紙では「規格外小麦やてん菜など」と書いており、バイオマスには地域性があります。今回は、エタノール生産に有望と言われているてん菜という作物について、基本的・教科書的な説明をします。
てん菜は、国際的には「beets」と複数形で表記するのが普通ですが、国内では「ビート」と単数で表記して、砂糖原料用に栽培されています。「砂糖大根」という呼び方もあります。てん菜はアカザ科で、アカザ科の代表であるアカザやシロザは、畑の雑草として知られています。同じアカザ科の植物にはホウレンソウやアッケシソウがあり、ホウキギ(とんぶり)も仲間です。てん菜と同じ属には、フダンソウ、テーブルビート(赤ビート)、フォダービート(飼料ビート)があり、フダンソウ属と呼ばれます。ヨーロッパ等では、一般的にフダンソウの茎葉部が食べられていますが、国内では沖縄や九州の一部に限られます。これらの作物はほとんど2年性ですが、テーブルビートは1年でも抽苔します。栽培されているてん菜の根部は白色をしていますが、遺伝的には赤が優性形質です。
原産地は地中海沿岸とされますが、原種の多くがカスピ海沿岸にも分布しており、暖かく乾燥した地域の植物です。17世紀に砂糖原料用として栽培され始め、18世紀から製糖工場で利用され、19世紀には糖度が5~8%に改良された品種「White
Silesia」が出現して、現在の品種の原型となりました。19世紀中期には糖度13%、20世紀初頭には糖度が17%を超える品種が出現しました。
国内には18世紀初頭に紹介・導入されていますが、幾度かの栽培の失敗を経験しています。第一次大戦後に、砂糖の原料を確保する戦略上の必要性や経済性から生産が一気に拡大しました。現在、全道で6.75万haが作付され、十勝、斜網地域が主産地です。栽培が安定するようになったのは、移植という方法が開発されたからです。しかし、病害には極めて弱く、栽培には注意が必要な作物です。
てん菜の話をする時には、同じ糖量作物であるサトウキビと対比する必要があります。サトウキビの移植や収穫は手作業で、製糖のためのエネルギー源には製糖廃棄物であるバガス(サトウキビの茎)を使っています。このような状況のため、砂糖生産に占める割合を見ると、生産量や収量は下がり続けています。一方、てん菜糖の生産は増え続けています。しかし、砂糖の需要は、一人当たり年間17kgと低迷しており、苦境に陥っています。
そのような事情で、てん菜をエタノール生産に利用するという考え方が出てきますが、その場合、砂糖原料用の栽培法などを変更する必要があります。さらに、使用する品種は、糖収量が多いこと、直播性があること、耐病性があることなどが、その要件となります。また、砂糖原料として収穫される根部だけでなく、現在は圃場に還元されている冠部を利用することも必要になります。
てん菜から砂糖を作る工程の概略は、洗浄、裁断、搾汁、沈殿、濃縮、糖分離、結晶化と言う流れになります。この工程をエタノール生産に転用すると二通りの方法が考えられ、搾汁後の薄い糖液から薄いエタノールを作るか、ほとんど製糖と同じ工程で作業し、濃い糖液から濃いエタノールを作る方法です。大量生産では、おそらく、糖蜜だけからエタノールを生産する可能性は低いと思います。
一方、沖縄等のサトウキビからのエタノール生産は、黒糖の需要があるので、糖蜜を利用することになると思います。蒸留などのエネルギー源も、製糖と同様にバガスが利用されます。しかし、ブラジルでは、サトウキビをエタノール用と製糖用と分けて栽培し、エタノールも糖液から作られています。てん菜を用いたエタノール生産コストの比較は、論拠が明確なものは少ないのですが、日本はアメリカよりもコストが高くなっています。
最後に、てん菜の高度利用に関して説明します。てん菜から砂糖を抽出するのと同時に、その残渣からオリゴ糖、ベタイン(トリメチルグリシン)、糖蜜、ビートパルプ・ビートファイバーなどが生産されています。私達は、この中からビートファイバーを中心に研究しましたが、特有の臭いがあるため、精製ビートファイバーを作り、それを原料として繊維を強化したパンを作りました。さらに、ビートファイバーからセラミドの抽出方法を確立することができました。同時に、血中脂質低下作用や発毛効果を持つステリルグルコシドを分離することができました。これらの成分の分離は、比較的簡単な方法でできるため、さらに研究を進めて製品化を目指したいと考えています。
Q:伊達か豊浦に製糖工場があったと記憶しているが、御存知ないだろうか?ビートから焼酎製造を試そうとしたが、上手く行かず、現在はリキュールを試作している。葉の部分を料理に利用してみたところ、良いものができている。
A:
伊達紋別にあったと記憶している。北海道には戦前から戦後にかけて10カ所を超える工場があり、それを8カ所に減らした。てん菜は砂糖の生産のためだけに育種されてきたので、別の利用目的に関してはまだ研究が進んでいない。葉の部分にも糖分があるが、腐りやすい性質がある。しかし、カネボウフーズが青汁を作って特許化している例もある。テーブルビートからも、新たな加工品ができそうな気が
Q:病気が多いとのことだが、品種改良が原因か?
A:これまでの育種は、糖含量を上げることを中心に考え育種を続けていた。病気による大被害があり、育種の方向性を変えることにした。これからは耐病性を持たせるが、育種の大命題となる。
=== 講演3 ======
【演 題】「バイオマスエタノールのわが国における状況」
【講演者】
放送大学北海道学習センター 所長
冨 田 房 男 氏
バイオマスエタノールに関して、今後どのようにあるべきかという委員会に参加している。まだ公表できないこともあり、あまり詳しい内容はお話しできないが、施策の動向をお話しする。自動車業界も、現状のエンジンでE3からE10までに対応可能としている。温室効果ガスの排出削減が必須であるとされ、バイオマスの利用がどうしても必要になった。そのために、十勝に大型プラントが設置されることが決まった。ここでは、規格外小麦を利用することになっている。道内農業団体も、膨大な量の工業用アルコール作ると言い出したが、これには新たな資源作物の生産が必要になる。技術的には10%以上の糖度がないと、実際のア
ルコール生産に向かないと言われ、新たなさとうきび品種の投入が必要になってきた。
一般的には、コーン、さとうきび、米が糖源として適当で、ビートを使った場合には蒸留の熱源の問題が出てくる。NEDOが平成14年に出した文書で、バイオマスには潜在量の季節変動や集荷などの問題点があると指摘されている。バイオマス全体の生産量は僅かながら上がってきているが、劇的に上げるには育種技術の変革が必要となる。北海道開発局の試算ではビートが良いとされているが、製造時のエネルギーの問題があると思われる。ヨーロッパでの検討では、イネ科の2年草のダンチクやススキも資源として魅力があるとされている。理想的なエネルギー収支の計算式では、サトウキビを用いて7.6倍の効率とされている。
バイオマス利用では、エタノール生産のみでは心配がある。バイオディーゼルに関しては、廃油やパームオイルの利用の必要がある。ビートの生産で糖源としては1Kgで9,000円だが、エネルギー用としては4,000円になってしまうので、農家の収入確保を考える必要もある。日本の休耕地の面積はそれほど多くなく、耕地面積の5%程にしかならない。これではとても目標生産量に間に合わないので、農業政策を根本的に見直す必要性がある。化学製品の原料としてのバイオマスエタノールの利用も考える必要があろう。
Q:地元苫小牧としては、不毛の土地なっている苫東を生産地に変える必要も感じるが、いかがか?
A:あらゆる作物を用いて生産する必要はある。化学工業の技術を利用して生産する、新たな技術開発を目指すべきである。組み換えビートを使えば、直播き品種を作りやすくなっている。様々な技術を融合して、エネルギー生産効率を上げていくべきである。
Q:エタノールの価格はいくらくらいになるだろうか?
A:確たる自信のある数値ではないが、ブラジルから入るものなら40円/?で、十勝では100円/?とされている。この価格を下げるには、国策が必要になろう。