HOBIA NEWS No.293

目次
●  アグリ&フーズ研究部会 講演会
●  地域バイオ育成講座 in 旭川
●  お知らせ
  ■  平成24年度総会・例会 (平成24年6月20日)
●  編集後記
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●  アグリ&フーズ研究部会 講演会

■  遺伝子組換え作物商業栽培の世界における現状(2011)
日本バイオテクノロジー情報センター(NBIC)代表 冨田房男 氏

 2011年は、遺伝子組換え作物商業栽培開始以来16年目に当り、遺伝子組換え作物の栽培面積が94倍となった。これは最速で導入された作物テクノロジーであることを意味している。すでに予期されていたように組換え作物の栽培面積は、発展途上国と先進工業国が50%ずつとなった。組換え作物の導入当初、組換え技術は、先進工業国にしかメリットはないと断じられていたことが的外れであったことを示すものである。
遺伝子組換え作物の栽培国は、29ヵ国に増加し、その上位10ヵ国全てが100万ヘクタール以上の増加を示したのは2010年が初めてである。世界人口の半数以上(59%)の約40億の人々が、遺伝子組換え作物が栽培されている29ヵ国で暮らしている。さらに30ヵ国が遺伝子組換え作物を輸入している。したがって、全体で59ヵ国が栽培あるいは輸入による遺伝子組換え作物の使用を承認している。この59ヵ国に住む人々の数は世界人口の75%を占めている。
遺伝子組換え作物栽培の中心となっている発展途上国は、アジアの中国とインド、ブラジルとアルゼンチン、南アフリカである。中南米での成長の原動力であるブラジルは、遺伝子組換え作物の栽培面積を増やし、世界各国の中で最大の400万ヘクタール増を記録した。また、フィリピンは組換え作物導入10周年を祝っている。
EU諸国では、過去最多のスペイン、ポルトガル、チェコ、ポーランド、スロベニア、ルーマニア、スエーデン、ドイツが、承認を得て、Btトウモロコシあるいは遺伝子組換えジャガイモを栽培している。
遺伝子組換え作物は持続可能性と気象変動の問題にも貢献した。1996年から2009年にかけて農薬を有効成分量で39万3,000トン減少させ、また二酸化炭素排出を約800万台の自動車を減らすのと同等の1,800万トン削減した。さらに、2009年だけで、7,500万ヘクタールの土地を守ることで生物多様性の保全に寄与した。また、世界の最貧層を構成する1,440万人の小規模農業生産者の貧困の緩和にも貢献した。
今後の課題は、小さく貧しい発展途上国で信頼でき厳格だが負担が少ない、適切で費用・時間効率性の高い規制システムが早急に必要とされていることである。
 終わりに、毎年あるGlobal Knowledge Center on Crop Biotechnology(KC)の全体会議に、昨年に続いて、今年も参加した。昨年の倍の40名を越える参加があった。ペルー、アフリカ諸国、イランからの参加もあった。ここでは、各バイテク情報センター(Biotechnology Information Center、BIC)の報告が行われた。日本以外のBICは、国からの大きな支援を受けて遺伝子組換え作物の重要性を一般国民に知らしめる重要且つ主要な働きをしている。各国が農業の重要な産業として捉え、促進策を図っていることは上記のように明白である。我が国は、組換え作物の栽培許可を出している件数が米国に次いで多い、しかも多くの組換え作物を輸入しながらその栽培を原則禁止している北海道のようなところがあること、しかも農業を産業と認めないような見解の基に条例が作られていることを重ねて発表せざるを得なかった。このことに奇異の念をもたれていることを政策策定者に認識してもらいたい。しかしながら「青いバラ」の開発が注目を集めていたことは喜ばしいところであった。我国、特に北海道が速やかに農業も産業である事を認識することを望んで止まない。

■  フィリピンでの遺伝子組換え作物栽培をみて
その1 フィリピンの農業生産者との懇談から 西南農場(有)代表  宮井能雅 氏
その2 ゴールデンライスの状況           大舘農場 代表 大舘国昭 氏
その3 遺伝子トウモロコシの栽培     (株)丸葱馬場農場 代表 馬場広之 氏

“フィリピンに行きましょう!” 昨年3月頃、北海道大学名誉教授・冨田房男先生から日本よりもっと現場でのバイオが進んでいるフィリピンに行って、ゴールデンライスを見に行きましょうとのお誘いがあり、昨年12月に細かい日程が決まり、生産者である3名、長沼町から私 宮井能雅、南幌町から大館国昭さん、岩見沢からは馬場広之さんが2月1日から4日までの日程で各地を回りました。今回は生産者から見たフィリピンのバイオの現状と、日本の全く明るくない現状をご報告いたします。
深夜にマニラの飛行場に無事到着したのは良かったのですが、待ち合わせの場所が分からず30分ほどうろうろしました。その後ホテルに到着するとガードマンは、かなり使い古したであろうショットガンを持ち、われわれ北海道の田舎者に満面の笑みを浮かべ、入口のドアのロックを外してチェックインさせてくれました。もちろん安全に配慮?していただいたことに、感謝の心づけ($1)を忘れませんでしたが、これから始まる3日間の緊張感と期待を十分認識できる初日のスタートでした。
初日はフィリピン農務省、Bureau of Plant Industry Malate, Manila、フィリピンInsect Resistance Management Strategiesを訪問してフィリピンの組換え作物の承認関係の仕組み、Btの利点や組換えの仕組みを拝聴することになりました。
コーン全体の作付面積254万ha、年間.回の収穫が可能、Btコーンは2003年以降栽培、現在約18%がBt(害虫を殺す土壌細菌由来遺伝子組込)およびRR(特定耐除草剤の遺伝子組込)。
2006年から2011年のモニタリングではBtコーンへの抵抗性アワノメイガ(Asian Corn Borer: ACB)は出ていない。クモ、テントウムシ、ヒメハナカメムシなどの天敵の発生。
メリカタバコガ, ヨコバイ類, アブラムシ、ヨトウムシなどの害虫の存在と通常発生するコーンの疫病、さび、斑点病などの病気の発生。
Napier(イネ科の丈の高い草)、 Job’s tears (イネ科、ジュズダマ属に分類される一年生草)、 Itch grass(イネ科のイッチグラス)の発生。
グリホサート耐性トウモロコシ(RR corn)の商業栽培が 2010年から始まり、現在のところ除草剤 グリホサート耐性NK603系と除草剤グリホサート耐性トウモロコシGA21系とそのスタックが認められている。
          (特定の耐性雑草を監視された場所でのモニタリング(コーンの連作))。
日目は
IRRI(国際稲研究所)に行きゴールデンライスの試験棟を見学、現在、育種半ばで、あと数年で栽培可能になるとのこと。ゴールデンライスについては、大館さんが説明をします。
ナスのBtの試験が行われている。普通の栽培だと1週間に回、多いときには3回の殺虫剤を散布するが、Bt導入で30%から50%程度殺虫剤を減少することができます。
アメリカで聞いた説明ではBt作物は対象害虫が食べなくても効果があるということでしたが、フィリピンではある程度、食べないと効果(害虫が死ぬ)が出てこないと説明を受けました。
馬場さんが後で説明します。
 
3日目は
1月下旬からマニラ中心街にあるセントトーマス大学で教鞭をとられている冨田先生と、日程最終日の4日にマニラから北に車で1時間30分ほどの、パンパンガ州の軒のコーン生産者に会いに行くことになりました。
途中、冨田先生がUSドルを現地のフィリピン・ペソに両替することになりましたが、治安のよい?首都マニラから離れているため、私と運転手がボディーガードとなり冨田先生とお金を守ることになりました。その理由は普通の銀行では両替は出来なくて少し怪しげな個人営業の店を紹介され、そこで両替を行うことになったからです。公式には1ペソは2円(この数字は今後使います)くらいになります。
このパンパンガ州ではおよそ8,000haのコーン(飼料用)が栽培され、食用はほとんど栽培されていないようで、およそ70%がバイオのコーンです。
最初に訪れたレオナルド・テイエバンさんはモンサントのMO818とMO9132の品種を栽培していて、両品種のコーンはアジアン・コーンボアBtとRRの特性を持ち合わせています。彼は非常にBtコーンに満足している様子で、以前のノンバイオから比較するとおよそ2から3倍の収量差があり、決して昔には戻れないと話をしていました。収益はha当たりの売り上げは100,000ペソで、種子と肥料のコストは20,000ペソで残りの80,000ペソが粗収入となるとの説明を受けました。ただこれには多少の数字のマジックがあるのでしょう。農場には大型トラクターがあるわけでもなく、専用の農薬スプレーもない、借地があるので、そのコストも本来であれば差し引かなくてはならないでしょう。
農地の価格は4M~5Mペソで、ほとんど売買されることがないのは、戦後の与えられた民主主義の名の下で多くの自作農が増え、その結果、経営面積が1haを切る経営面積を数十年も維持した優秀な日本の一部の農村と同じですが、農地価格はバイオ導入でこの10年間で3倍に上がったそうです。と言うことは日本もバイオ作物導入で農地の下落防止になり、あのJA(農協)も農家の担保力増加になり、めでたし、めでたしとなることで農業の価値ある継続性を認めることにもなるでしょう。借地料はイリゲーション(灌漑水路使用)が出来る所で20,000ペソ、イリゲーションがないところでは15,000ペソになり、その他の経費は20,000ペソで、先ほどの100,000の収入から、もろもろ差し引くと50,000ペソ(利益率50%)となります。
2軒目は1軒目から200メートル離れたお隣りさんのリック・チャべスさんで同じくBt、RRのスタックスのコーン、モンサントMO9132を栽培していました。収量はこのバイオタイプでha当たり8t、ノンバイオでは3tで、先程の生産者が発言した収量が2倍から3倍になると言うのは、あながち誇張した数字ではなさそうです。収益なども先程の生産者と同じことを発言していましたので、やはりバイオの力をまざまざと見せつけられた思いでした。
2軒ともモンサントが紹介するくらいなのだから、その地域では優秀な生産者なのでしょう。しかし住宅を外から見るとやはり日本では信じられない環境の下で暮らしていますが、2軒目のチャべスさんの長男で24歳のアルドレさんは、父の職業であるこの農業を誇りに思い、このバイオを現場で利用できることで、農業の魅力に取りつかれ、自由を奪う都市には住めないと言っていました。
飼料用コーンの売り上げを見れば面積当たり、アメリカとフィリピンは同じです。経営面積はアメリカの数百haからフィリピンでの5ha程度では大きな開きがありますが、もし政策で農地の集積を進め、規模拡大を進めれば今後アメリカ並みの農業形態を作れる可能性はあるのかもしれません。しかし日本では面積当たりの売り上げ金額が5から10倍以上になり、その結果、国産飼料用コーンの販売実績がない状況の方が異常であることを理解する関係者はほとんどいないのです。
1998年ころにはアンチGM組織がGMコーンの圃場に無断で入り、荒らす事件がありましたが、その後、政府の強い宣伝活動で現在の安定した状況になってきているのです。
生産者に聞いてみました。ノンGMに戻れますか?”“ノンGMに戻ることは考えられない

■  北海道フード・コンプレックス国際戦略総合特区
                   北海道経済連合会 常任理事事務局長 浜田 剛一 氏
 
平成24年3月9日に北海道フード・コンプレックス国際戦略総合特区(フード特区)の特区計画が国に認定された。フード特区は道経連で予てから進めていた食クラスター活動を加速・拡大・飛躍させるものであり、優位性のある北海道の農水産業をベースにした食の分野で国の成長戦略に位置付けられたものである。
北海道フード・コンプレックス国際戦略総合特区(フード特区)の目標は、輸入代替による国内販売、輸出により、農水産品食品の売り上げ増加目標を、2012年から5年間の累計で1,300億円としており、目標が達成した場合の経済効果は、国内生産増加額で4,600億円、租税増加額で380億円、雇用機会の増加は6.1万人になる。
現在、規制緩和、税制措置や財政要望について、内閣官房を通して関係省庁と折衝を行っているが、規制の特例や優遇措置の獲得は、容易なものではない。それだけに、提案内容については、万全の説明資料を整えて、粘り強く国に折衝していかなければならない。
このため、平成24年1月4日に特区準備室を設置し、計画書の申請/認定のための作業に取り掛かり、さらに3月12日に特区準備室を発展させた組織として一般社団法人北海道食産業総合振興機構(フード特区機構)を設立した。
フード特区機構は、研究支援、製造支援、販路拡大支援などの“食のバリューチェーン”の各段階にわたり、総合的にコーディネートを行う、特区の中枢的な運営組織であり、この特区の実現に資する事業実施にかかわる規制緩和、税制・財政・金融上の支援措置の要望を取りまとめ、国へ提案し、関係省庁と調整のうえ、その実現を目指していく。
また、フード特区3地域(札幌・江別、函館、帯広・十勝)のネットワーク体制を確立して、各エリアで実施される事業の相乗効果を図り、食品の高付加価値化に向けた研究開発拠点、販路拡大拠点を形成するための骨格事業を実施するなど、自ら行動する実践機関としての役割も果たしていく。
このようにフード特区は、農水産業及びこれを活かした食品産業を盛んにして自立的な北海道経済を形成しようとするものである。オール北海道で、官民が総力を結集して、取り組まなければならないものであるが、あくまでも一次生産者や加工食品業者などの事業者が主役である。フード特区機構はあくまでも支援者であり生産者や事業者の特区事業の取り組みによってはじめて北海道に力強い食の産業構造が形成される。現在、4月1日にフード特区機構の業務開始に向け急ピッチで体制準備している。今後もフード特区及び当機構の活動への関係各位をはじめ道民皆様の協力を切にお願い申し上げます。

●  地域バイオ育成講座 in 旭川の報告
 
3月27日に旭川において地域バイオ育成講座を開催いたしましたので、ご報告いたします。
会場は花月会館(旭川市3条丁目)で、14:00~16:30の日程で開催しました。講演は題で、「食品における酵素処理技術の効果」を企画運営委員会副委員長の富永一哉氏が、休憩を挟んで「日本食品分析センターが提供する衛生管理に係わるサービスと新たな分析項目、抗酸化能の分析」を企画運営委員の村上雅彦氏がお話ししました。参加者は地元から約10名、講師を含めた市外からが名ほどでした。講演後の質問や意見交換も活発に行われ、一定の成果を得ることができました。
 
「食品における酵素処理技術の効果」
        北海道立総合研究機構食品加工研究センター食品バイオ部 
                                                                                      主任研究員 富永一哉 氏

 食品工業のみならず、産業で広く使われる様になってきた酵素は、生体触媒としての優れた特性を持っている。これを上手に使うことによって、食品材料の性質を変えたり、風味の向上を図ったりすることができる。食品加工研究センターでの研究の成果としても、コーンやニンジン、カボチャ、タマネギ、ジャガイモなどでの応用例があり、既に評価の高い加工食品に適応されている例も出てきている。
 
「日本分析センターが提供する衛生管理に関わるサービスと
                                                   新たな分析項目、抗酸化能の分析」
          財団法人日本食品分析センター千歳研究所総務課長 村上雅彦 氏

 
日本食品分析センターは、お客様のご要望に応じ、種々の物質、様々な状態を「はかる」ことを生業とした団体です。特に食品に関わる分析については定評があり、表示栄養成分、農薬、抗菌剤、重金属、異物、包装資材特性、水質等に加え、機能性成分の検査を高い精度で行う事が出来ます。近年注目される機能性成分の一つに「抗酸化能」がありますが、これまで行われてきたSOD活性評価やDPPHラジカル消去能などでは評価対象物質が限られており、その性能を完全に評価できたと断言するには難しいと考えられてきました。そこで私どもは米国で一般化されつつあるORAC値にいち早く注目し、その分析を可能といたしました。もちろんORAC値が万能というわけではありませんが、複数の分析を組み合わせることで、本当の効果を測定することが出来ます。ご興味がおありでしたらぜひご相談ください。

●  お知らせ
 
■  平成24年度総会・例会
■日時:平成24年6月20日(水) 13:00~17:00
■場所:北大学術交流会館 1階小講堂 (札幌市北区北8条西5丁目)
■プログラム:13:00~14:00 総会
       14:30~17:00 例会
       ●基調講演:バイオSに関わる研究成果 
                                                         旭川医科大学 若宮 教授
       ●会員企業プレゼンテーション
●  編集後記
クールビズが始まりました。今年は、北海道も電力が足りないとか。エアコンを使わない北海道では、夏のピークが無く全体的に落とす必要があるようです。昔はノーネクタイと言わず、開襟シャツでしたね。環境の為にも昔の知恵を見直すのも良いですね。

編集担当 HOBIA企画委員 黒田一寛

 
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NPO法人 北海道バイオ産業振興協会

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