第23回 北海道バイオステージ 実施報告

今夏8月24日(金)、「バイオ技術の活用事例と発展性」をテーマとして、函館市産学官交流プラザにて標記事業(講演会)が行われました。
講演会の最後には、独)中小企業基盤整備機構 函館オフィス所長 隅田久雄氏から「中小企業基盤整備機構北海道支部の支援策について」のお知らせもありました。
札幌以外での開催にも拘わらず、講演会には35名の参加をいただき、有意義に終えることができました。

また、講演会終了後の交流会には函館市長(代理:副市長)のご臨席まで得て、和やかに親交を深めることができました。
当日の講演内容を続きにて紹介します。
なお、紙面の都合により、講演3(笠井久会氏)および講演4(田村吉史氏)については、次号に掲載します。

=== 講演1 ======
【演 題】「海藻資源の有効活用とその展望」
【講演者】北海道大学大学院水産科学研究院 教授 宮下 和夫 氏

海藻資源の脂溶性成分についてお話しする。資源の価値の高いものが有用となるのは当たり前だが、作り出すためのコストが掛かるものには問題がある。1年で数メートルに成長するような二酸化炭素の吸収量が高い藻類は、環境対策の面でも将来性がある。水産物の代表的な資源は魚類だが、動物性の成分、特に脂質などは酸化劣化に弱い性質を持つ。その点、海藻は乾燥しておくことにより保存性が出てくる。例えば、ノリの中のEPAは乾燥により数年は劣化せずに保存できる。他にも未利用の資源も多くあり、将来性が高い。また、耕地面積の点からも、沿岸域を利用できる利点は大きい。
以前は、藻類にはミネラルやタンパクが多く繊維成分も多いことから、食品として注目されていた。一方、一つの品種に有用成分が1つ見つかると、陸上植物に比べて分化が進んでないため、植物全体が利用できることから有用成分の探索の効率がよい。ポリフェノールの様な様々な機能性成分が紹介されているが、まずは生体での吸収性を調べる必要がある。その後で、体内での働きと遺伝子レベルでの働きを確認する必要がある。この観点で海藻を見直すと、脂溶性成分は細胞にあまり形を変えずに入っていくので、受容体との関係が分かると作用機序の解析がしやすい。機能性の脂質では、高度不飽和脂肪酸のDHAやEPAがよく知られている。中鎖脂肪酸や植物ステロールは抗肥満の点で注目されているが、作用の機序についてはよく分かっていない。ポリフェノールは吸収されにくいが、カロテノイドは吸収されやすく、効果も確認されている。
カロテノイドの効果については異論もあるが、抗酸化活性は間違いがないが、その活性には濃度や吸収量の問題がある。抗酸化性自体の意義はあってもピンポイントの効果があったとしても、生体全体として「抗酸化剤=健康によい」とは必ずしも言えない。こうしたことに考慮した上で調べても、600種類くらいあるカロテノイドの中で、フコキサンチンには興味深いものがあるので、肥満に対する効果などの、その特異性と利用についてお話しする。多くの肥満を予防するとされる成分は、脂肪の沈着を防いだり、糖質の代謝を抑えたりする働きをする。これでは、体に必要とされる脂質や糖の吸収を阻害することになる。太らないようにするためには、脂質や糖を摂らないよりも代謝を進める方が良い。脂肪の組織には2種類あり、内臓や皮下にある白色脂肪細胞は必要なときに使える予備として一定量の脂肪をためている。だが、過剰な量の脂肪を蓄えると、動脈硬化を誘発するサイトカインのような様々な分泌物を出す。もう一つの脂肪組織である褐色脂肪組織は、絶対量が少ないが、脂肪を分解して熱に変える機能がある。ノルアドレナリンが信号になり、UCP1(uncoupling protein 1)を活性化して、脂肪酸を直接熱にしてしまう経路があることが分かってきた。カプサイシンやカフェインなどは、ノルアドレナリンの分泌を盛んにすることにより、熱を発生するわけである。
当研究室では、白色脂肪細胞で脂肪を熱に換えてしまう経路があり、フコキサンチンにはこの経路を活性化することを見いだした。例えば、ワカメに含まれる脂質中のこの物質は少量でも効果があり、GTPに結合能力を持つ内膜タンパク質UCP1を発現させる機能があることが分かり、同時に褐色脂肪組織も有意に増加させていた。フコキサンチンの投与では血糖値も下がることも知られていたが、グルコーストランスポーターの遺伝子の発現を促進しているものと推測される。つまり、積極的に糖を取り込んで、それを熱に変えているのである。多面的な作用により、フコキサンチンはⅡ型糖尿病を改善しているわけである。また、良く理由は分かっていないが、肝臓でのDHAの蓄積量が増えると言う現象を発見している。フコキサンチンは、試験管レベルで非常に高い抗酸化性も持つ。同様の効果がアスタキサンチンにも見られるが、我々の測定ではフコキサンチン活性は非常に高い。現在は、これらの機序について分子レベルの検討をしている。
実際に、どの様にフコキサンチンを摂取するかと言うことでは、魚油と一緒に摂ると効果が高いことが分かっている。ウガノモクという名前の海藻が函館周辺で良く採れるが、非常に高い含量でフコキサンチンが含まれている。エネルギー生産では海藻の占める意味があり、食品に使った後の廃棄物をエネルギー生産に使うと良いと思う。

Q:フコキサンチンの投与量と効果について調べているか? 吸収のスタイルは?
A:マウスを使った実験では、0.05%からDHAの蓄積量を増やす。だが、一定量でDHAの蓄積量は頭打ちになる。人に関しては、これから調べる必要があると思う。吸収時にはアルコールの形に変わってはいるが、変換酵素は生体内で何処にでも見られる。
Q:海藻自体においては、フコキサンチンはどのような役割があるのか? 臭いはないか?
A:海中において褐藻類は中間レベルの深さにあるので、補助的な意味のある色素である。分解しても臭い物質は出てこない。
Q:海藻の糖の利用については、何か知見をお持ちだろうか?
A:タンパクについては利用例があるので、糖も含めて資源的な価値が無いか調べる必要があると思う。

=== 講演2 ======
【演 題】「魚油事業の現状と将来」
【講演者】日本化学飼料株式会社 取締役営業部長 長谷川 栄治 氏

<魚油事業の変遷>

1970年代後半から1990年代前半の時代は釧路港で大量にイワシが水揚げされ、大半がフィッシュミールと魚油に加工されていた。1976年に約3万トンの魚油を貯蔵できる魚油専用タンクターミナルと精製プラントを函館湾に面した本社工場内に建設した。当初から魚油(Semi-Refined Fish Oil)の主要販売先は、国内外の大手加工油脂メーカーであり、加工油脂メーカーは水素添加などの工程を経て、マーガリン、ショートニング等を製造・販売していた。この用途は東南アジアから大量に輸入されはじめたパーム油にほぼとって代わられたため、養魚及び家禽などへの飼料用途へと転じた。その後、魚油に特異的に多く含まれる脂肪酸「DHA・EPA」の生理作用が検証され、医薬品・健康食品用途へのドアが開かれ、更にオメガ3脂肪酸(DHA・EPA etcの総称)の高品質化、高濃度化(リパーゼ法etc)、培養法によるDHA生産技術などが次々に開発されて新たな市場が世界的に形成された。魚油の売れ筋はSemi-Refined Fish OilからRefined Fish OilあるいはHighly Refined Fish Oilに移り変わってきた。一方、日本でのイワシの水揚げが極端に減った1990年代前半以降は、EPAを多く含むイワシ油の給源はペルーへと完全に移った。又、DHAを多く含むマグロ・カツオ油の給源は静岡県、鹿児島県、東南アジアなどである。

<魚油事業の将来>

今後の日本は人口減が予想され、関連市場もある程度成熟した観は否めない。他方、欧米市場におけるオメガ3商品の定着、人口増が予想される地域でのDHA入り粉ミルク市場及び医薬品市場の拡大など・・・海外需要は高い成長率が見込まれる。製品の安全・安心・高品質に加えて各国別法規制、ルール、食文化等「国境、民族の壁」を越える努力をする事が、今後益々事業者に要求されている。

<魚油事業の現状>

魚油の基本的精製工程は、脱滓(主に除蛋白)、脱酸(遊離脂肪酸除去)、脱色、脱ロウ、脱臭。魚油はトリアシルグリセリド(Tri-Acyl-Glyceride)一個のグリセリンに三個の脂肪酸(魚油はオメガ3脂肪酸含有)が結合した分子構造。EPAを多く含む魚油はイワシ油、アンチョビー油、DHAを多く含む魚油はマグロ油、カツオ油及び培養藻類抽出油。
オメガ3脂肪酸の生理作用は様々研究が進み、DHAは胎児・幼児期の知能や目の発育に必要な成分として粉ミルクに添加するのは国際標準となっている。EPAエチル製剤は動脈硬化症・高脂血症に対する医薬品として認可された。DHA・EPAが心疾患の予防に有効である事が分かるにつれてFDA(米国食品医薬局)が一般食品に対しても「DHA・EPAのオメガ3脂肪酸が何グラム含んでいます」という限定的な健康強調表示(ヘルスクレーム)を認めたことでサプリメント、機能性食品として欧米では定着。
製品の安全・安心の観点から、トレーサビリティー(原料魚種、漁獲場所、搾油・精製方法などの管理・記録・開示)、有害成分(重金属、農薬、ダイオキシン、トランス酸、微生物等)、種々毒性試験、安定性、アレルゲン有無、遺伝子組換有無が徹底的に追及される。有害成分、毒性試験等は国内外の第三者分析機関に依頼する場合がほとんどである。多額の費用を要する。項目によっては、一般的に海外の公的分析機関の方がかなり安く、顧客からの信頼性も高いのが現状。国内分析機関のより一層の料金低減化が望まれる。
認証の観点から、国内では食用油脂製造業。海外では、たとえば米国向けにはFDA-HACCP(対米水産食品取扱認定施設)、欧州向けにはEU-HACCP(対EU水産食品取扱認定施設)が必要条件。国際的規範としてのISOは当然。食文化・宗教関連として、たとえばKOSHER、HALALは各々ユダヤ系及びイスラム系の巨大市場参入するための必須条件となっている。

<会社概要>

本社及び研究所が函館市、工場が函館市及び紋別市、社員数は約100名、資本金3億円、売上40億円。1940年にライオン油脂函館工場が操業開始、1955年にライオン等主要取引先と地元函館市などからの出資によりスタートして今年で創業53年目。創業以来のテーマは農水産未利用資源の有効活用。イワシ、スケソ、サケ、イカ、ホタテ等北海道産素材とその残滓原料から肥飼料、魚油、調味エキス、サケ核酸等を製造販売。売上は、北洋及び沿岸漁業の漁獲減による原料不足が主因で肥飼料事業の縮小、イカ残滓事業撤退を余儀なくされて肥飼料の売上比率が減少。一方、道外から調達可能な魚油の比率は増加傾向。
魚油関連取得認証:食用油脂製造業、FDA-HACCP、EU-HACCP、KOSHER(OU)、HALAL

Q:分析料が海外では安いとのことだが、精度は高いのだろうか? どれくらいのロット毎に調べるのか? どのように管理しているのか?
A:分析項目によりけりであるが、日本に比べて1/10で済むケースもある。分析精度も高く顧客の信頼度も高い。ロット毎の分析をしている。分析コストを考慮して、なるべく1ロットの数量を多目にしている。管理はHACCPプランに準拠している。
Q:脱臭装置の中を真空にしているとのことだが、どのようにしているか?
A:真空系内において薄膜にした魚油を瞬間加熱している。
Q:海外から原料を買っているようだが、日本国内と比較して質は良いのか? ペルーの魚油は御社自身で品質管理をしているのか?
A:一般的に品質は国内産の方が良い。ペルーのアンチョビー油は海洋汚染の影響は少なく、搾油設備も新しいので品質は良い。現地視察を含めたチェックを実施している。