「バイオマッチング広場・地域バイオ育成推進講座」 実施報告

講演1)
「大豆の栄養研究の最前線とキッチンを結ぶ工夫」
(管理栄養士・榊 房子 氏(株)ダイエット.F代表・北海道大豆研究会世話人)
 大豆の栄養効果に関する世界の研究の現状。管理栄養士によるヘルシーなレシピーの紹介。メタボ対策と大豆利用の工夫などお話しいただきました。
病院の管理栄養士23年働き、病院食を担当。栄養士の技術の出口の対象者は、患者さん。その後、外部からの栄養指導の要望が多くなって、独立してダイエットFを立ち上げ。面接とメール指導で、体重減少を実感できるメタボ指導を、企業を中心として指導業務を展開。   以下はご講演概要。
 本日は、大豆の話題です。まずは、北海道での大豆の消費拡大と言いたいのですが、北海道は、大豆を食べていない地方です。全国平均59g/日で、北海道42gと低いレベルです。北陸や南九州は、70gに達しています。豆類100g以上を食べることをめざしています。牛乳も大豆も北海道が一番の産地なのに道民が食べていないのです。

【大豆料理の新レシピー】

 大豆は、料理の工夫次第で、美味しく食べられる素材です。今は、大豆料理をするのに圧力鍋は不要です。品種改良が進んでいるためでしょう。沸騰10分で大豆がゆであがります。
 大豆料理と言えば、新しいレシピーの開発を行っています。例えば、『大豆とじゃこのパスタ』(写真と材料が示された)、『大豆と枝豆のゴマ和え』。ヒジキでなく、鶏ささみを一緒に煮込む。枝豆を使うと色合いが良くなる。『大豆のカレーチャーハン』大豆を入れることでご飯がパラリとなる効果がある。『大豆入りおからコロッケ』、大豆入りヘルシーサラダ。
隠し味にスキムミルクを入れると、揚げたてが、香ばしくて家族がハッピーになれると言っている。大豆をそのまま使用するので手間がかからない、でも、今までにない組み合わせで、新鮮です。メタボ予防のためのワンポイントを入れています。お弁当にも合うのです。
大豆レシピーを紹介する料理教室をあちこちで行っています。テレビSTVでも紹介してもらい、各地の新聞でも毎月のように紹介させてもらっている。各地のスーパーやドラッグストアでも大豆で脱メタボの講演もたくさんしており、大勢の方が参加されて興味の強さを実感しています。
メタボリックシンドロームの原因となる内臓脂肪です。40代以上は、人に1人がメタボおよびメタボ予備軍であることもよく知られるようになってきました。痩せるこつの重要点は、野菜の取り方です。まずはイメージしやすいトマトやキュウリ、レタスを意識して食べるようにしてもらい、次のステップは、もっと食物繊維多い野菜に進んでもらいます。そこを具体的に個人別の指導をしています。ところで、レオナルドダビンチが豆を好きだったことはご存じですか?とくにインゲン豆のフライパン炒めが好きだったのです。大河ドラマでも紹介された徳川家定は、豆を好んで食べました。また徳川家茂は、羊羹やカステラなど甘い物が好きだったようです。などなど、栄養学と構えずに、興味をひくような話題を入れて講演が進んでいきました。
 北海道での調査から、道民は肥満が増加している。冬場の体脂肪が多く、これは、運動が少なく食べ方が多くなっているためと考えられます。エネルギーは取りすぎない様な満腹感のある料理を提供することが必要です。
研究が進み、大豆はなぜ体に良いのかが、わかってきました。大豆タンパク質を多く取っている人の方が、コレステロール値は、低めになります。家森幸男先生の介入試験は、札幌で女子大生を使っておこなわれた。冬にかけては、対照群は体脂肪率が0.8%平均で上がったが、イソフラボン摂取群では、上がらなかった。
Glysemic Index(GI値)は、糖質50gを摂取した時の時間までの血糖値上昇を示し、ブドウ糖を100として表現する。多くの食品でGI値が測定されており55以下が低GI食材で食後の血糖値を上げにくい。大豆は、GI20と血糖値を上げにくい。

【大豆加工品のアイデア】

大豆製品も開発に関しては、強さをより強く、と考えて、ヘルシー成分、イソフラボンをさらにアップしたもの。イライラ解消にハーブも入れたもの。スポーツする小中学生向けに、Ca、ビタミンD、ビタミンCを追加した食品、はたまた、コラーゲンを入れて美肌効果をうたう女性向け食品なども考えられます。大豆タンパク足りない必須アミノ酸を強化して筋肉増強効果を狙い、さらにパワーが必要なので、タンパクの他に炭水化物も豊富なスポーツ系食品飲料。ビタミンEをアップした食品は、酸化を防ぎ、動脈硬化予防効果を狙う食品開発もおもしろい。一方、弱みを強みに!の発想で、大豆に含まれるトリプシンインヒビターでタンパク質の消化率を下げられるかもしれない。また、大豆を煮て、煮汁を捨てる料理法を用いるとプリン体の少ない大豆料理が提供できる。納豆の微生物を改良したビタミンKの少ない納豆を作れば抗血栓薬ワーファリン服用患者も食べることができる可能性もある。

講演2)
「旭川大豆を活用した地域ブランド食品開発」
(報告者:旭川市経済観光課ものづくり推進室産業振興課 主任 石崎 徹 氏)

1)旭川の食品企業のほとんどが中小零細で、大手との価格競争にさらされ、売っても売っても利益が上がらな
  い状況に追いやられております。

2)大手と同じ土俵に上がらない・大手の価格競争に巻き込まれない商品開発が課題です。

3)「価格で勝負しない商品開発」について、旭川食品加工協議会では、大豆生産地“旭川”(H19生産量全道  10位)の地の利を生かし、大豆産地ならではスパイスの効いた原材料の差別化(産地障壁を形成)と食品加工技術の両面から、旭川大豆に付加価値を付けて売る「旭川大豆プロジェクト」を農商工連携でスタートさせました。

4)H16年から4年間、契約栽培農家と連携し、①食品加工性のよい枝豆品種の選抜、②若い枝豆・完熟枝豆・  枝豆豆乳を原材料とする食品の試作・製品化、③選抜した枝豆品種「サッポロミドリ」を利用した商品開発、④FOODEXJAPANやスーパーマーケットトレードショ-などへの出展活動に取り組んできました。

5)今年度の取り組みは、①豆乳の使い勝手の悪さ(日持ち、液体)を改善する「大豆粉末を利用した商品開発」と、②JA東旭川(大豆の大産地)との契約栽培の締結しての、原材料の安定確保や新品種選抜の試験栽培の推進です。
③具体的には、①新品種選抜では新種の大玉たまふくら、高イソフラボンゆきぴりかの試験栽培②原材料の安定確保では、枝豆品種のゆきむすめ・黒美月、一般品種ではほとんどが本州豆腐メーカーに独占されている“とよこまち”の試験展示栽培、③大豆粉末では愛知県メーカーへの委託試験(地元企業で実施したい)であります。

6)この間、大豆プロジェクトから商品化された製品は、豆乳茶碗蒸し、豆乳プリン、豆乳ラーメン、粉末練り  込み菓子、粉末餡練り込みドラヤキがあります。

7)今後、試験品種の製品化については、①極大粒タマフクラは粒の大きさを活かして煮豆・甘納豆を(難点:  収穫晩生)、②高イソフラボンゆきぴりかは機能性を活かして豆乳、ラーメンサラダを(実証試験:旭川産ゆきぴりかの機能性)、③一般品種トヨコマチは甘みを活かして粉末食品を、④枝豆品種は枝豆・豆乳製品の継続生産と生産者・事業の連携強化を、⑤期待品種として青臭みのないリポ欠品種「十育243」がありますが、栽培が難しいので、更に試験栽培の取り組みが必要であります。

(まとめ)
1)「食の地域からのブランド化」についての行政の役割には、①事業者のモチベーションを支える ②事業者
  の取り組みに「信用力」を付与する、③農商工連携の積極コーディネートがあります。

2)今後とも、旭川市、旭川食品加工協議会は、農商工連携で、「旭川の地の利を生かし、原材料からこだわっ
  た、大手と同じ土俵にあがらない商品開発」に取り組んでまいります。

(質疑)
Q:旭川の人はたくさん大豆を食べているのか
A:たくさん食べているとはいえない状況で、主なターゲットは本州です。 
旭川で食べて欲しいとの気持ちを持ちつつも、本州向けをビジネスの中心に据えています。

講演3)

「十勝における大豆食品の開発と雑豆普及活動」
(報告者:十勝圏地域食品加工技術センター研究員 川原 美香 氏)

大豆は非常にたんぱく質の生産性のよい植物なので、大豆の栄養を見直して、大切していきたいと考えています。
大豆食品で一番食べられているのは「豆腐」で、消費の半分を占めております。

1)大豆イソフラボン
大豆で一番注目される機能性成分に、がん・骨粗しょう症・更年期障害の予防に効果があるといわれる「イソフラボン」があり、高齢化が進む中、大豆食品の機能性は重要になってくると思われます。
①以前、品種別のイソフラボン含有量を調べたところ、「音更大袖舞」が一番で、豆腐用輸入大豆の2倍でし
 た。一般的に緯度の高いところで栽培された大豆はイソフラボンが高いといわれている。 高イソフラボン豆
 腐の製造販売業者(道外)はカナダ産大豆を使っていました。
②納豆製造は、大豆のそのままの姿で利用し、イソフラボンの損失が少ないとの試験結果を得ております。
③豆腐製造では、浸水・煮・呉汁段階での損失はなく、絞りで豆乳9割+オカラ1割に分かれ、最終の固め成型
 で豆腐5割+出汁5割に分かれるとの結果を得ました。この出汁を利用した食品が開発できればと思います。
④イソフラボンに着目した大豆食品製造では、大豆の姿をあまり崩さない、肺軸を残す、できれば低温加熱で、
 ボイルよりスチーム加熱を薦めます。また発酵処理には問題がありません。

2)大豆食品開発
①丸大豆粉体で豆腐を試験したことがあります。 イソフラボンの損失がなく食物繊維も豊富ですが、味が大豆
 そのものなので、カマンベールチーズ菌での発酵や味噌漬・醤油漬・三升漬でなどで、旨み成分をした製品を
 試作しました。
②当センターも参加する帯広産業クラスター研究会では、 ヘルシー・ツマミ食品をテーマに、崩れ・端の豆腐
 を使い、潰し・調味料に漬け・固め・燻煙した「日持ちし、栄養が凝縮し、チーズと豆腐の中間食感」の新し
 い豆腐「とうふくん」を開発しました。 好評で、札幌進出など販路拡大にも成功しています(一個840
 円)。
③枝豆を使った製品として、十勝特産のながいも・枝豆・小麦若葉を原材料した青汁を開発しました。 ながい
 も機能性(ラット試験で大腸がん予防効果を確認)をメインしたもので、名称はズバリ「産学官連携青汁」で
 す。

3.雑豆消費拡大
 大豆・落花生以外は「雑豆」といわれ、十勝ではあずき・きんとき・てぼうなど雑豆生産が盛んで、雑豆
は、食物繊維、ポリフェノールが豊富で機能性も期待でき、雑豆消費拡大活動に取り組んでいます。
②乾燥豆から煮るなど手間が掛かることから、若年層の摂食が少ないので、十勝産雑豆の機能性を生かした煮
豆料理レシピ開発や料理コンテストを実施しています。

(質 疑)
Q:輸入大豆納豆はイソフラボンが少ないとあったがどこの大豆か、またアメリカ産よりカナダ産大豆のほうがイソフラボンは多いとあった。これは食品用・油脂用の違いからくるものではないか
A:中国産小粒納豆、食品用の結果です(文献引用)。
Q:イソフラボンと女性ホルモンの類似性から、豆乳は美肌効果がある女性の味方などと宣伝しては
A:何に効くとは直接言えない、上手い工夫が必要です。

講演4)
「北海道の大豆生産の現状と将来」
(西南農場有限会社 代表 宮井 能雅 氏)

(企業概要)
当農場は、千歳空港の18km北、札幌市大谷地から17km、周辺は平野で、70年前まではヨシが生える原生地で馬車を一晩置いておくと、見えなくなるくらいの沼地で、その時から10年くらい前までは数年に一度の水害に見舞われている。戦前からの国営事業による開拓、治水、水田政策により昭和44年(1969年)まで水田農家であったが、その後の減反、転作政策を進め現在は作業委託、借地を含め、現在108ha(大豆50%、麦50%)経営している。

(大豆栽培)
9月上旬に大豆生育中に麦を散播し、10月下旬の大豆収穫後に10cm程度に生育した麦をそのままにして、越冬させ翌年夏に麦を収穫する。このやり方は20年前に南幌町において、小豆栽培中に麦の散播が行われていると聞き、当農場の大豆でも利用可能と取り入れた。
ちなみに現在多雪地帯で行われている春小麦を初冬に播種するやり方は、私のアイデアとグリーンバイオ研究所、景浦部長(当時)との3年間の試験結果があり、現在の普及があると信じている。
この簡易な麦の播種作業は間作栽培と呼ばれ、準備、作業、掃除を含め55haを日以内で行うことができる。これを一般的な栽培で行えば回の耕起、播種、除草剤散布で最低1週間の作業、1000L以上の軽油(10万円以上)と農薬に55万円が追加して必要となる。なお、アメリカ・ミシガン州においても1990年ころから同様なことが行われているようだ。このように全く離れた土地で同じような現象が起きることを101匹目のサル現象と呼ぶらしいが、科学的には証明されていないようだ。

(経営拡大)
畑作の栽培面積を拡大するのであれば、小麦のみの面積拡大も考えられるが、連作障害に伴う収量減や病気、特定雑草の繁殖による経費(農薬、耕起作業)の増大、一作業時間の集中化が考えられ、最終的には収益が悪くなる。その面積拡大展開において収益性や収穫機械の統合性を考えた場合、大豆を栽培体系に導入することは収穫機械を同じコンバインハーベスターに統合するメリットがあり、十勝のようにイモやビートを導入するとそれらに対応する機械を購入しなければならないし、その整備、格納にも対応しなければならない。
また、大豆、小麦の作物は転作を含め、国内自給率向上のため重点国策となり、ベースとなる旧緑ゲタ政策により、価格の安定政策によるバックアップは心強いものがある。現在、当農場では大豆半分、小麦半分で100haを超える経営を実現しているので、次の目標である2倍の200ha規模の経営はどのようなものであろうか。
大豆中の麦の播種作業は4日間で100ha以上に対応することができるが、同じ収穫面積を確保するために大豆の栽培そのものが個人経営で100haに対応できるかどうかを考えてみたい。

(作業体系)
大豆の播種そのものは今回のDVDにあるように作業幅が4.5m、畝幅が19cm程度の播種機であれば、5日程度(8時間作業/日)で終了することができるが、一番の問題は雑草管理である。
普通、大豆のような豆類を播種する場合は60cmから66cm畝幅のプランターと呼ばれる肥料タンク付きの播種機を用いて、畝が埋まるころ(開花時期)までに2回程度のカルチ作業、そしてその期間中に女性のみの力で雑草を取る作業を多くの地区で見受けられる。
このような非人道的な行為はフェミニストの私には許しがたいことである。これを100ha規模で行うとカルチ作業で20から30日、女性も同じく10名が毎日30日間でコストが200万円となる。この作業を当農場で行っているやり方で行えばカルチ管理作業は物理的にできないのでゼロになり、コストもゼロになる。畝幅が19cmドリル播種は普通播種の畝幅60cmの1/3以下なのでそれだけ畝が早く葉で埋まってしまい、その結果、雑草の発生を遅らせることができる。

(雑草管理)
ドリル撒きと呼ばれる方式はリスクがある。プランター播種では表面の土全体を葉で覆うのに50日程度必要だが、ドリル撒きは10日以上少ない35から40日で同じ結果となる。ただし、この期間に雑草と競合してしまい、そして除草剤でもコントロールできなかった場合は間違いなく雑草だらけになってしまう。もうこうなるとカルチの作業機はもともと入れないのでお手上げ、ハンドパワーによる雑草抜きか、そのまま放置となり、収量は30%以上減収となる。
大豆生産者であれば誰でも知っているが、大豆のような広葉タイプの作物を栽培すると広葉の雑草が増え、中には収穫時において大豆と間違えるようなイヌホウズキと言う雑草が生える。この雑草の発生時期は播種後1か月であり、使用できる農薬も限られ、その結果、除草剤のコントロールも難しくなる。実はこのイヌホウズキをコントロールできる除草剤は存在するが、農薬使用基準では、まだ雑草が発生していない大豆の発芽始めに使用することになっているが、同じ化学成分のアメリカ製農薬は雑草の発生時期に登録があり、より雑草のコントロールができるようだ。
麦の生育中にも同じイネ科の雑草が発生しやすいと感じることがある。アレロパシーには“ある植物が他の植物の成長を抑える”ことは知っていたが、実は反対に“引き寄せたりする効果の総称”も含まれるらしい。これらの事例はまさしくこれに当てはまるのではないだろうか。
この“引き寄せる”のアレロパシーが正しいのであれば、大豆、もしくはそれに似た作物を大豆播種数週間前に行い、特定の雑草を先に発生させ、ラウンドアップをバシットと散布することもできる。だが、ラウンドアップ耐性の国産GM大豆が登場すれば、まちがいなく生産者のメリットのみならず、より多くの大豆を供給できるので、消費者を含めたマーケット全体に利益をもたらすことができる。

(GM)
現在、政府は第一世代と呼ばれる特定除草剤耐性を飛び越し、花粉症軽減、B型肝炎ワクチンと同等の効果がある、二型糖尿病患者のためのインシュリンと同等の効果があるなどの医療目的のGMを模索するようだが、作物の品種別登録が厚労省で認可されなければならないなど、生産者には第一世代よりも限定された栽培になることは間違いなく、第一世代を飛び越して行うことは消費者にメリットがあると間違ったメッセージを政府に送ることにもなる。

(文責:事務局が編集にあたっております。)