HOBIA-近畿バイオインダストリー振興会議交流会の講演概要

 前号に引き続きHOBIA-NPO近畿バイオインダストリー振興会議との交流会における講演概要をご報告いたします。
 

続き
 

 

 


「植物性乳酸菌、キノコ類の機能性食品への応用」

日生バイオ株式会社

北海道研究所長・執行役員 杉 正人 氏

 
日本では平均寿命が延び、高齢化社会を迎えているが、暴飲暴食や、運動不足、ストレスなどの原因による心臓病、糖尿病、高血圧や肥満などの「生活習慣病」が増加している。

第3期科学技術基本計画「新健康フロンティア戦略賢人会議」において、高齢者の増加に伴う医療費の増大に対して、疾病の予防・ヘルスケアの視点から健康寿命を延ばし、医療費の削減を図ることが重要な課題とされており、今後機能性食品の需要は増大すると考えられる。

日生バイオ㈱において開発している機能性食品の代表例として植物系乳酸菌及びキノコがある。

1)乳酸菌には乳製品に存在する乳系の乳酸菌、ヒト腸管内に存在する腸管系乳酸菌、及び漬物等の発酵食品に存在する植物系乳酸菌がある。当社では特に植物系乳酸菌に注目し、道立食品加工研究開発センターと協力して、北海道の漬物等から新規乳酸菌の分離及び評価を行った。植物系乳酸菌は過酷な環境でも生存可能なため、容易に生きたまま腸内に届けることが可能である。加齢により善玉菌は減少するため、善玉菌を増加させる強い乳酸菌が必要となる。

乳酸菌には免疫活性を向上させ、Th1とTh2の免疫バランスを整える働きのあることが知られているが、清潔な環境に生活している現代人の多くはTh2型となっており、その結果、花粉症等の過敏なアレルギー症状を呈する。分離した新規乳酸菌の免疫賦活能評価とアレルギー抑制能評価を行い、優れた乳酸菌を選択した。免疫賦活能評価は、C57BL/6マウスの脾臓細胞を用い、IFN-γ及びIL-12の産生能の向上の観点から行い、アレルギー抑制能評価は、BALB/cマウスの脾臓細胞を用い、IFN-γ産生能の向上及びIL-4産生能の抑制を指標として行った。その結果、道立食品加工研究開発センターで北海道の茄子糠漬けより分離されたP.pentosaceusは免疫賦活能及びアレルギー抑制能共に高い活性を示した。またpH2.5の人工胃液で処理しても高い生存率を示し、胆汁液及び人工腸液耐性も強く、ラットによる実験より腸管を生存したまま通り抜け、糞中に排泄されることが確認された。(JOURNAL OF BIOSCIENCE AND BIOENGINEERING 1 69-73 (2008))
P.pentosaceusを飲むことにより腸内で善玉菌である乳酸桿菌が増加すること、大腸菌との混合培養において大腸菌の生育を抑制することも確認された。スギ花粉モデルマウスを用いた実験よりP.pentosaceusにはアレルギー性喘息抑制効果も認められた。即ち、Th1/Th2のバランスが改善され、IL-4、IL-13産生を減少させた。ヒトモニター試験により杉花粉アレルギー予防効果も認められている。

2)キノコを用いた機能性食品の開発としてはベニクスノキタケ及びメシマコブの研究を行っている。

ベニクスノキタケは台湾特産の牛樟樹に自生する紅色のキノコで、βグルカンだけでなくトリテルペン類が豊富であり、古くから肝炎、肝硬変、抗腫瘍、抗アレルギー、抗高血圧等、種々の病気に対して効果があるとして民間伝承薬として用いられている。エタノール含有飼料を慢性的に摂取させ、アルコール性肝障害のモデルラットを作製し、ベニクスノキタケ投与の効果を検討した。ベニクスノキタケを投与することにより肝機能マーカーである血清中のGOT、GPTの上昇の抑制傾向、総コレステロール、遊離脂肪酸及びトリグリセリドの減少傾向が認められた。アルコール性肝障害のモデルラットの肝臓形態観察、病理組織染色からもベニクスノキタケ投与群はエタノール飼料群と比較して脂肪肝の形成が抑えられていることが確認された。これらの結果はベニクスノキタケがアルコール性肝障害を抑制する能力があることを強く示唆している。ウイルス性肝炎等の非アルコ-ル性肝炎患者に投与した場合にもGOT、GPTの肝機能マーカーの改善が認められた。

メシマコブに関しては、幻のキノコを国内で探索、採取し、最新の遺伝子解析によりPhellinus linteus(メシマコブ)と決定されたものを、天然メシマコブとして用い、研究開発を進めている。メシマコブの菌糸体の大量液体培養に成功しており、安定した供給を実現している。メシマコブ菌糸体にはがん細胞U937の増殖を抑制する効果が認められた。フローサイトメトリーによる解析から、菌糸体多糖成分により、U937がアポトーシスを起こすことにより増殖が抑制されることが分かった。菌糸体多糖成分はU937のDNAをラダー状に断片化することも確認された。

当社としては、今後も北海道産の農水産資源、特に廃棄しているような未利用資源を利用して各種機能性を評価し、付加価値の高い食品素材及び機能性食品の開発を行っていきたい。また小学生を対象にした理科教室の開催や市民健康講座開催などを通じて、地域社会への貢献を図っていきたい。

(文責:HOBIA事務局 西原由佳)