HOBIA NEWS No.390

  • 2023 年度HOBIA総会・第134回例会開催
    開催日:2023年7月6日(木)13:00~15:10
    会 場:北海道大学 学術交流会館 小講堂
    13:00~13:50 総会
    14:00~15:10 HOBIA第134回例会
    【講演】北海道大学の一次産業関連フィールド研究の活動
    【講師】北海道大学 理事・副学長 増田隆夫氏
    【要旨】北海道は広域であるが故に、地域別に特有の一次産業があります。北海道全体でフィールド研究を進めるために、道内に複数の拠点を形成して、同時進行で活動を進めています。この全体を北海道プライムバイオコュニティの活動として運営しています。そして、それに資する技術シーズのプラットフォームとしてロバスト農林水産工学国際連携研究教育拠点を運営しています。これらの活動について紹介させて頂きます。

  • 地域バイオ育成講座(札幌)開催の報告
    開催日:2023年3月24日(金)15:30~17:00 会場:大通HiNT
       「食用油の特性と適切な利用へのアプローチ」
    油のサイエンス、高騰する油の上手な選び方、上手な使用法
    講師:中谷明浩氏 中谷技術士事務所 技術士(農業部門) 
    【講演要旨】2021年以降、食用油の未だかつてない高騰が始まりました。総務省の小売物価統計調査によると、21年7月時点で296円であった東京都区部の食用油の小売価格(1本1kg)は、今年23年1月時点でその1.7倍である504円まで上昇しました。このような中、食用油の使い方を見直す動きが盛んです。本セミナーでは食用油の特性を踏まえ、油種の選択術や好ましい使用方法などをテーマとして述べます。
     生物は、長い歴史の多くの時期を飢餓に見舞われ食べ物を求めてきました。油は、重さあたりのカロリーが高く、生物は、油の匂いを求めていたといえるでしょう。油の酸化分解物は、多すぎると気分が悪くなる毒性物質(アクロレイン)ですが、ごく少量、pptレベルの存在は美味しさを増強する作用もあることがわかっています 。油の匂いに生物は敏感なのです。重要な栄養源だからと考えられています。
     日本の油は、ほぼ輸入に頼っています。油の値段が、2倍に上がっていますが、なかでもひまわり油は、3倍に上がっています。ひまわりの産地がウクライナであるためです。
     日本で使用されている食用油の第一多いのは菜種油。色は薄く味も大豆油より軽い。用途も広く使いやすいからです。大豆の場合は、重さの20%が油ですが、菜種では重量の40%の油が含まれています。
     油1分子は、3個の脂肪酸と1個のグリセリンでできています。種々の脂肪酸の特徴が油の特徴を作っています。パーム油は、常温で固体から半個体で、酸化安定性が高く加熱安定性も高いので、よく使われています。飽和脂肪酸のパルミチン酸が50%と高い含有率のため酸化安定性が高いのです。しかし単体でなく、他の油と混合して使用されることがほとんどです。その理由は、味は蛋白で熱安定性が高く使いやすいのですが、独特のパーム臭があるためです。主に揚げ油として使用されています。
    油の劣化の原因
     油の劣化は、何と言っても酸化の影響が大きいです。酸化の原因は、光、熱、酸素、そして金属、なかでも銅、鉄が原因となっています。食材の中では、でんぷんや醤油が酸化を促進します。
     揚げ物をしたときを考えてみると、食品からの水で水蒸気となり加水分解を促進し、過酸化脂質を生じて過酸化物価(POV)が上がります。脂肪酸に二重結合を有する不飽和脂肪酸と酸素の反応によって過酸化脂質ができて、さらにそれらの分解により二次生成物であるアルデヒド、ケトンなどが生成します。さらに反応が進むと重合体、エポキシド、低級脂肪酸へと劣化が進行するのです。
     アクロレイン(2-プロペナール)は、 揮発性のアルデヒドの一種で刺激臭を有する化合物です。医薬用外劇物に指定されており、肺や目に障害をもたらすことが知られています。                                                                                                                           一方で、食用油脂を用いてフライ、炒めなどの加熱調理を長時間行うと気分が悪くなることがあますが、これを「油酔い」と呼ばれています。その原因物質は二次生成物の「アクロレイン」といわれています。一例として、天ぷらを揚げている際に発生したガス中から200~400μgのアクロレインが検出されたとの報告があります。
     熱によって、熱重合が起こることもあります。揚げ油の泡が大きくなったり、色が濃くなったりするのは、酸化重合が起こっている証拠の一つです。                                                                                                
    酸化で、油の過酸化物価(POV)が上昇するだけでなく、加水分解が起こって、遊離脂肪酸(FFA)が発生し、増加する。酸価(AV)も上昇します。
    油の劣化の評価方法 
     日本では、酸価(AV)、ヨーロッパでは、極性化化合物(PC)25%~27%以下で規制がかかっています。米国では、遊離脂肪酸量(FFA%)2%以下、発煙点170℃以下で規制がかかっています。これらは関係があるので、次の関係式で表せるのです。FFA%=0.5036✕AV。
    温度を上げすぎない
     揚げカスを除去することも役立つ。粕取りの頻度を上げすぎると濾過時の酸素接触が多くなり逆効果になるので注意です。
     フライ油調理や炒め調理などにおいて、適切な使用や管理を行っている範囲では問題になることはない。しかし、油脂の劣化について知識や関心がない場合などには、好ましくない使い方や保存状態によって油脂が変敗し、毒性を有する過酸化脂質やアルデヒドなどの過剰摂取により食中毒症状を発症する可能性が否めない。
     科学的指標を用いて、油の使用限界を知ろう。現場で簡単に測定できる指標として、酸化(AV)、そしてもう一つ極性化合物(PC)の2つの指標を使って管理することをお勧めます。
    劣化食用油脂による食中毒
     劣化食用油脂による最も大きな食中毒事件は、1964年6月から8月にかけて発生した「即席めん」による食中毒である。この事件では、大阪府、京都府等の関西地域、静岡県や長野県の広域において69名が下痢、吐き気、嘔吐、腹痛などの症状を発症した。
     問題の即席めんの劣化度について、含油中の遊離脂肪酸を示す酸価が7.0~28.8、過酸化脂質を示す過酸化物価が400~600 meq/kgであったことが報告されており、極めて劣化の進んだ油脂であることがわかる。原因として、日光が直接製品に当たるなどの好ましくない保存状況であったことなどが挙げられる。
     他の事例として、揚げ油によるものとみられる体調不良の症状の報告があり、この原因調査においては、簡易測定による酸価が2.5以下と問題となる値ではなく原因不明としている。この場合、酸価や過酸化物価が比較的低値であっても二次生成物が多く生成している可能性があるため、アルデヒドを示すカルボニル価なども把握する必要があります。
    グリーンバイオ
     微生物が作る油についても紹介があった。海洋性真核微生物ラビリンチュラ類が多価不飽和脂肪酸を作ることが報告されている。廃液を使って培養することもできるので資源の活用にもなる。油性酵母リポマイセスを使っても試みられており、低環境負荷の油脂生産システムの構築が行われている。
     昆虫タンパク質が有名になってきたが、昆虫で油を作るというアイデアもある。 オオシュウイエコウロギやゴキブリも体重の20%近くが油脂で、この値は大豆の22%と近いものである。

  • 北海道プライムバイオコミュニティ推進会議』に参加して
    令和5年3月22日(水)に京王プラザホテルのエミネンスホールで開催された
    プライムバイオコミュニティィ推進会議』に参加してきましたので、所感などを報告します。
     聴講したのは、同コミュニティーに参画している機関等による【第2部】講演と、参画機関の若手・中堅の職員の方々が参加した【第1部】ワークショップの結果報告でした。講演の内容は参画機関が実施している関連事業の現状と今後に関するもので、主な演題と発表者を以下に示します。
    ◆「アシル−トイタによる⼼と体に響く新しい⾷の価値共創拠点プロジェクトの開 始」について/
       室蘭⼯業⼤学⼤学院⼯学研究科 徳樂 清孝 教授
    ◆「北海道⼤学地域⽔産業共創センターの開設」について/
       北海道大学水産科学究院 福田 覚 教授
    ◆「⾃治体からプライムバイオコミュニティへの期待」について/
       函館市企画部 相馬直仁
       水産海洋・高等教育担当課長/余市町長 齊藤啓輔                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             同コミュニティーのビジョンにもある様に、“だれもが農業・⽔産業・林業に従事したくなる憧れの北海道”実現のためのバイオ分野での先端的な取り組みを紹介したものでした。従って、農林水産と食の多岐にわたる活動が紹介されており、現場では連携や協力などの動きは見られないものになっています。一方では、そうした有機的なつながりを模索するためのアイディアではないかと思われるワークショップの開催もあり、今後の展開に期待したいと感じました。
     始まったばかりの活動でもあるので、HOBIA会員の皆様にもより良く知っていただきたいと思います。そこで、HOBIA 2023年度総会・講演会においては、記念講演として同コミュニティー担当の北海道大学理事・副学長の増田隆夫氏にお話しいただくことにしております。多くの皆様のご参加を期待しております。