HOBIA NEWS No.389
- 地域バイオ育成講座in旭川開催の報告
- 2023 HOBIA第133回冬期例会の報告
- 2023 年度HOBIA総会・第134回例会開催予告
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地域バイオ育成講座in旭川開催の報告
開催日:2023年1月30日(月)15:00~17:00
会 場:旭川アートホテル ハイブリッド講演会
【テーマ】食におけるタンパク質の重要性
講師:北海道大学大学院農学院食品栄養学研究室准教授 比良徹 氏
会場になった旭川アートホテルに来られた参加者は、生で直接講演を聞いていただき、それ以外の方は、旭川食品産業支援センターにメール連絡いただけば、講演の動画のURLを返信しており、遠隔で見ていただける方式で、ハイブリッドの講座を開催しました。テーマはタンパク質です。北海道大学大学院 農学研究院 生物機能化学分野 食品栄養学研究室 准教授の比良 徹先生に「食におけるタンパク質の重要性」と題したご講演をいただき、参加者との質疑応答を行いました。タンパク質をテーマとしたのは、旭川地域では、地域の食品企業の活発化の一つとして、近年注目度が高まっている「高タンパク質食品」の開発と拡販を旭川食品産業支援センターが積極的な支援しているためです。さらに、高タンパク質食は、農林水産省でも「青マーク」のつけられる食品として周知を図っている。このような、背景のなか、タンパク質そのものへの知識を増やそうと地域バイオ育成講座が開かれました。タンパク質という言葉は、誰でも知っている言葉ですが、栄養学の研究もどんどん進んでいて、知識をアップデートしていただく、更に詳しく理解してもらう目的をもって当講座が開かれました。 旭川では、食品産業支援センターが、地域の食品企業が、高タンパク質含有の食品を開発して販売することをテーマに活動を続けておりすでに2種類の商品が農水省の青マークを付けることができるようになった。市内中心のホテルで開催したこともあって、地域の高齢者の参加もあり。なかでも健康に関心の高い高齢者で、文字通り自分のこととして熱心に聞いていただいた。参加者のお一人は、「たんぱく質を摂取しないといけないということをなんとなく聞いていたが、摂取したたんぱく質が、体の中でどのように変化(消化されて)、また作り替えられて、生活できているのかと理解が進んだ。」と感想を述べられた。 比良先生は、実験科学者らしく、「たんぱく質が大切」といわれるのをどのような実験で明確にしたのか、具体例を挙げて話を進めて言った。たんぱく質が、不可欠な栄養素である大きな理由は、ほかの栄養成分から作れないから。その大きな理由は、窒素がないので、糖や脂肪からはどうしても作れない。以下に講演を短くまとめました。 炭水化物、脂質、そしてタンパク質は、エネルギー産生栄養素と呼ばれます。このうち、炭水化物と脂質は、体内でお互いの物質に変換されますが、タンパク質、アミノ酸には変換できません。つまり、エネルギーは上記3栄養素で互いに補うことができますが、タンパク質、アミノ酸は、これらを摂取しないと補うことはできません。 体を構成する成分のうち、水分の次に多いのがタンパク質です。食事として摂取するタンパク質は、量だけでなく質も重要です。本講演では摂取したタンパク質がどのように消化吸収され、感知され、利用される(はたらく)のか、などにについて紹介します。 タンパク質を食べることは、生きていく上でとても重要、我々の体の多くの器官がタンパク質なしでは成立しない。筋肉は無論、骨、皮膚、毛髪、爪、血液中のヘモグロビン、アルブミン、などタンパク質なしには構成できない器官です。 タンパク質を食べなかったらどうなるのか?欠乏症となったら、これが最近よく聞くようになった言葉、フレイルです。一方、食べ過ぎは腎臓への負担が増える。過剰性は聞かない。タンパク質を食べたときが、体のエネルギー産生量が一番多い。炭水化物や油脂を食べたのでは、これには及ばない。 食べたタンパク質どうなるのか?消化管なかでも、6mある小腸で主に分解されてペプチドとなり吸収が進む。ちなみに数個のアミノ酸が連なったペプチドのほうがよく吸収されるので、幼児用のミルクにもペプチドが含まれるようになっている。 食事として接種したタンパク質の約60gが消化管に入り、一方でカダラを構成するタンパク質も消化管に入り分解されてゆく。体を構成するタンパク質は、1日230gが分解されて、一方で新しいタンパク質として作られていき、これが新陳代謝と呼ばれているサイクルです。新たに摂取したタンパク質と新陳代謝分で、余ってくるのが窒素原子で。これは尿素として体外へ排出される。 タンパク質の摂取で大切なのが、窒素です。窒素は大気中の80%とたくさんあるのだが、人も動物も植物も利用することはできない。大気中の窒素を固定できるのは、根粒菌などの特殊な微生物だけである。 タンパク質の摂取が少なくなると、サルコペニアと呼ばれている筋肉が少なくなって、病的状況になる。低栄養のフレイルサイクルに陥ってしまう。活動量が減って、筋肉が減って、基礎代謝量も減るのでお腹も減りにくくなり、食べなくなって、低栄養のフレイルサイクルに陥ってしまう。 一方で、サルコペニア肥満という状況もある。太っているけどサルコペニアの状況で、タンパク質の摂取が減っている状況です。大人用の高タンパクのミルクも販売されている。サプリより食品を好む人達には、農林水産省の提唱している高タンパク質の食品で、スマイルケアー食品のなかでも青マークの食品が提唱されている。100gあたり8.1g以上含んでいる食品が青マークに該当する。 タンパク質は、もっとも満腹感を高める食材である。これは良いことのように見えるが。もっと食べて欲しい人に摂取を進めるときにはマイナスとなっている。1日80gの正味のタンパク質を接種できるように食生活を見直してください。 比良先生の講演は、じっくりと語りかける講演でした。比良先生のご研究は、下記にも紹介されております。 研究内容:食品成分と消化管内分泌系の関わり。https://sites.google.com/eis.hokudai.ac.jp/shokuei/
- 2023 HOBIA第133回冬期例会の報告
『農業試験研究の最近と今後について』
地独)北海道立総合研究機構 農業研究本部長 中央農業試験場長 古 原 洋 氏【概要】
道総研(地方独立行政法人 北海道立総合研究機構)は平成22年(2010年)4月に発足した。法人本部と5つの研究本部から成っており、農業研究本部は8つの農業試験場(中央農業試験場、上川農業試験場、道南農業試験場、十勝農業試験場、北見農業試験場、酪農試験場、畜産試験場、花・野菜技術センター)を有し、それぞれで特色のある品種や生産技術の開発を行い、北海道農業を支えている。職員は研究職と一般職(研究支援職員を含む)で構成されており、研究を上手く回すためのバックアップ役である一般職の重要度は高い。
農業研究本部は所得向上のために、土地生産性の向上(収量性)、労働生産性の向上(省力・低コスト)、ブランド化(高付加価値化)に取り組んできた。 最近の成果をいくつか挙げる。『水稲品種「えみまる(早生品種)」を使用した「高密短(高密度播種・短期育苗の略称」栽培』は、資材量、労働時間を削減し、労働力が不足する中で経営体の規模拡大や水張り面積の維持に活用でき、土地生産性と労働生産性双方の向上に寄与できる技術である。僅かな発病でも甚大な被害が懸念される小麦なまぐさ黒穂病は数年前から問題になっているが、決定版となる防除法(種子塗沫剤+適期播種・適正深度+薬剤根雪前散布)を開発、道内各地で活用し、小麦の土地生産性・ブランドの維持に寄与している。新品種はブランド化に繋がるが、ジャガイモシストセンチュウ抵抗性で「男爵薯」の一部に置き換えが見込める『目が浅くて害虫に強い早生ばれいしょ(ゆめいころ)』、道産さくらんぼの高品質化と安定生産に貢献する『大きくて美味しいさくらんぼの新品種(陽まり)』などが最近開発されている。畜産分野においては、黒毛和種繁殖めす牛の栄養状態をチェックすることで繁殖成績が向上し良い子牛が安定的に生産できる『太りすぎを防ぐ和牛の栄養管理』技術の開発、道内黒毛和牛の改良速度向上のために全道生産者が利用可能な『DNAを利用した道内和牛の能力診断システム』の構築などを行っている。酪農分野においては、家族労働を中心とする放牧経営がフリーストール飼養方式を導入する際に活用できる『放牧とフリーストールを組み合わせて労働生産性を向上』の判断材料を示した。環境保全に関する取り組みも行っており、『クリーン農業は温室効果ガス排出量も少ない』でクリーン農業の環境保全効果をデータで示し、生産者、一z これまで農業研究本部は所得の向上を主眼におき、研究開発に取り組んできた。これからは人口減少、温暖化、資材高騰、輸入穀物(飼料)高騰などの諸情勢を踏まえ、生態系サービスの概念を意識していく必要がある。また、過度な輸入依存を見直し、国内で生産できるものはできるだけ国内で生産し、限られた農地をフル活用し、国内農業生産の増大により食料自給率を向上させることも求められている。農業研究本部は土地生産性、労働生産性、ブランド化に安定性、継続性を加えた「持続性の向上」のために、安定的な食料生産に向けた生産性の向上(省資源生産技術、スマート農業技術、品種のイノベーション)、社会ニーズと担い手の変化に対応した産地力強化と地域振興(省力化、多様な担い手を想定した生産技術の開発、産地力の強化と農業・農村振興)、環境と調和した農業の推進(気候変動に対応した農地利用による経営ポテンシャルの強化、農業の環境負荷軽減)に取り組んでいく。
収量・価格の安定(単収、単価の向上)、生産者の時給UP(労働時間の削減、労力の低減)、供給可能性UP(コスト低減)で『北海道農業の振興、道民生活の向上=「笑顔の暮らし」の持続性』を目指したい。
【報告者所感】
道総研農業研究本部の守備範囲は非常に広く、様々な場面にチャレンジし、成果を上げ、北海道農業に多大な貢献をしていることを再認識しました。古原さんが講演の最後に仰られた『「笑顔の暮らし」の持続性』は、当協会の目指すところにも合致しておりますので、我々が北海道で活動を続けていく中で常に意識したい言葉であると思いました。
文責:山下英雄(ホクサン㈱農業科学研究所長、HOBIA理事)
- 2023 年度HOBIA総会・第134回例会開催予告
開催日:2023年7月6日(木)13:00~15:00
会 場:北海道大学 学術交流会館 小講堂
13:00~13:50 総会
14:00~15:00 HOBIA第134回例会
【講演】北海道大学の一次産業関連フィールド研究の活動
【講師】北海道大学 理事・副学長 増田隆夫氏
【要旨】北海道は広域であるが故に、地域別に特有の一次産業があります。
北海道全体でフィールド研究を進めるために、道内に複数の拠点を形成して、同時進行で活動を進めています。この全体を北海道プライムバイオコュニティの活動として運営しています。 そして、それに資する技術シーズのプラットフォームとしてロバスト農林水産工学国際連携研究教育拠点を運営しています。
これらの活動について紹介させて頂きます。