地域バイオ育成推進講座 in 旭川

テーマ「特色ある地域農林産物の活用による新事業化と地域経済活性化」
開催日と会場:2009年7月27日(月) 旭川ターミナルホテル
地域バイオ育成推進事業が旭川を会場として、旭川バイオテクノロジー推進懇話会、旭川食品加工協議会、(財)旭川しんきん産業情報センターの共催により、開催されました。
 今回は、36人の参加をいただき、旭川医科大学 吉田先生の基調講演とパネルディスカッションが行われ、活発なディスカッションが行われました。
 基調講演とパネリストの要旨は、下記のとおりです。
² 基調講演「地域健康資源の利活用で経済活性化」
    旭川医科大学医学部教授 吉田貴彦 
² パネルディスカッション
l コーディネーター HOBIA副会長、東海大学副学長 西村弘行
パネリスト 株式会社大金 代表取締役社長 金田道従
グリーンテック株式会社 代表取締役社長 佐藤一彦
北海道立林産試験場 きのこ部長 栗原節夫
旭川大学経済学部 教授 佐々木 悟
· 基調講演「地域健康資源の利活用で経済活性化」
-旭川圏域の農畜作物の高付加価値化と旭川ウェルビーイング・コンソーシアムとリンクした地域経済活性化を考える-
旭川医科大学医学部 教授 吉田 貴彦
豊富な農産物は旭川圏域の地域優位性として認識されているが、従来の北海道農業の特徴として、素材そのままでの出荷が主であり高収益が得られていないのが現状である。農業生産で高収益を上げるための方策として、生産作物の見直し、出荷形態の見直し、北海道としての不利を逆手に取った優位性への転換、無駄のない利用、加工による付加価値化等が考えられる。冬季の寒冷積雪のため栽培時期が限られる不利を克服し、安定的な収入を得るためにも夏季に生産・加工して通年出荷するための体制の整備も必要である。さらに大消費地から遠いため運送のための費用と時間がかかることから、容積を減じ保存性が高い加工製品としての運搬は有利である。農作物生産現場では、過剰生産による処分や未利用部分を廃棄物とする固定概念があるため多くの廃棄物が生じている。こうした未利用農作物を利活用する際にも加工の技術が有効である。このように多くの場面から食品加工技術の応用の必要性が明らかにされている。農作物の加工による新製品開発は、消費者ニーズに合致して行なわなければならない。最近の食に関する消費者ニーズとして、健康志向(「健康の大切さ」の浸透)、健康食(調理法・メニューの工夫)指向、メタボリック症候群からの脱却、機能性食品指向、サプリメント指向、安全性指向、自然な食材、新鮮指向、グルメ指向などがあげられる。最近の食品に求められている新たな付加価値として、自らの健康と環境配慮のための安全性の確保、健康保持増進に役立つ機能性、新鮮さ、本物指向による天然物や無農薬・有機栽培などがある。
 機能性食品とは主には加工食品に対して使われる言葉で、生体防御、疾病予防、老化制御などの生体にとって好ましい調節機能を発揮するように設計・加工され、科学的根拠に基づき健康増進機能(機能性)が認められている食品をいう。食品中に含まれる既知の物質の有無/含有量の検査は化学測定で調べられ、目的の標準物質との比較測定が行なわれそれほど難しいことではない。一方、未知の有効成分を特定する場合は、検定する食品から成分抽出と分画分離を行い、分画ごとに化学分析、細胞及び動物実験により機能測定を繰返し、分画の中に1物質となった時点で化学物質の構造を解析し既知物質でないことを証明する手順が必要で労力と資金がかかる。さらに、農作物の生産段階、保存段階、加工段階さらには調理段階において成分量が変化したり、他の物質に変化する可能性があるため、現実に人が食する状況にそった測定が必要である。すなわち作物として収穫された時点で、有効成分が多くとも保存・加工・調理を経て何も残らなければ何の意味も無いこととなる。
 機能性を検証する研究手法には、①集団における疫学的研究として、農作物の摂取量・摂取期間と疾病発症との関係の調査、農作物含有の既知成分の血液中濃度等と疾病発症との関係の調査する方法、②in vitro実験による研究として農作物抽出物あるいは農作物等に含まれる既知成分をin vitro細胞実験系に添加して作用発現のスクリーニングおよび機序解明を研究する方法、③実験動物による研究として、農作物そのものあるいは農作物等に含まれる既知成分を実験動物に摂取させ、疾病発症率、病態に関連する生体指標の変動を測定する方法、④被検者(集団)による介入研究として、農作物そのものあるいは農作物等に含まれる既知成分を被験者に摂取させ、発症率、病態に関連する生体指標の変動を測定する方法がある。有効性の検証研究においては、上記の研究手法毎の結果の不一致は少なくない。その大きな理由として、食品として摂取する有効成分が生体効果を現すためには、①人が実際に摂取する段階で食品中に十分量の成分が含まれていること、②消化管から効果のある形態を保ったまま吸収されること、③効果を示すに十分な体内濃度となることなどの条件が必要であることが挙げられる。また、生体内において他の物質との相互作用(相乗・相加効果)が起こりうることも大きな要因である。食物には1つの有効成分しか含まれないと考えることは無理があるし、さらに人は同時に何種類もの食物を摂取することから、一つの食品、一つの化学物質の機能性を検証することは容易ではない。効果が期待された化学物質を単独で人に投与したところ全く効果が無かったとされる例すらある。加工によって有効成分などの吸収効率を高める方法として、植物繊維(セルロース)構造の破壊、微粉体化など粒子径を小さくし全体としての表面積を増すこと、植物体の細胞壁・細胞膜の破砕など、化学的、物理的操作を加え化学的消化(化学反応・酵素作用)を効率良く受けさせるなどがある。注意すべき事として、微細加工操作によって酸素が作用し易くなったり、食物の細胞内に存在する酵素が作用を発揮し、有効成分を変性失活させることがある。逆に有効成分含有量が増える場合もありうるので、有用な加工技術として応用が可能である。
 食品に良い生体効果があるという科学的裏付けが得られれば、販売する際の追い風となろうが、何でも特定保健用食品の認証を得ることを目指すべきだろうか。そのためには膨大な資金がかかる上に、必ずしも売れるという保障もない。食品は美味しくあることが大前提であることを忘れてはならない。また、1つの飲食物、1つの機能に固執すべきでない。一般の食品との区別程度の裏付けとなる有効性に関する研究データを公表し、口コミでの評判を期待することが現実的ではないだろうか。
 2008年5月26日に、旭川市内の4大学1短大1高専を中核とし旭川市も加わって、旭川ウェルビーイング・コンソーシアムが結成され、本年7月に大学連携事業として文部科学省から支援を受けることが決まった。この趣旨は、旭川エリアが有する豊かな自然環境、森林、温泉、安心安全な農畜産物等の健康保養資源を基盤として、地域資源に根ざした居住・生活環境、農畜産・食品加工製造、健康保養・観光等の産業を中心とした産業界との協働と、圏域住民と行政の自主的・積極的な参加のもとに、医療機関が集積する旭川エリアの地域優位性を活用し、旭川医科大学をはじめとする高等教育機関・公設研究機関等を中心としたコンソーシアムを形成し、医科学的エビデンスに基づいた諸取組みを継続的に実践することにより、圏域住民の身体的・精神的・社会的な健康(ウェルビーイング)を達成するとともに旭川エリアの地域振興とを図ることを目指すものである。旭川ウェルビーイング・コンソーシアムが地域の農畜産業・食品加工産業と協働し、旭川圏域の優位性である農畜作物に対して高付加価値化を図ることで地域経済活性化が促進することが期待される。地域振興、地域が元気になる秘訣は地域ぐるみの協力体制を作り、異業種交流による地域の社会資源の組合せにより地域興し力を強め、経済活性化のために産・学・官が協力することである。地域住民も地域での生産・製品開発に自らも積極的に参加する喜びをもち、地域で生産された良い作物・製品を地域で使うなど、地域資源を地域の財産としてプライドを持つことが望まれる。こうした延長線上に、健康で幸福な住民、元気な地域コミュニティ、活力のある街、元気な産業が形成され、住民の健康と幸福、活力ある街の創造が達成される。
· パネルディスカッション
「特色ある地域農林産物の活用による新事業化と地域経済活性化」
² コーディネータ : NPO法人北海道バイオ産業振興協会副会長
     東海大学副学長(北海道キャンパス担当) 西村 弘行
開催趣旨:上川・旭川圏域の主要な産業は、農・林産業で、低迷の続く地域経済状況下でいかに付加価値を付けて流通に結びつけるかが、大きな課題となっています。地域の豊富な食資源と未利用資源をいかにバイオ技術等の加工技術によって、消費者ニーズに合致した製品開発と新事業化が図れるか課題となっております。そのためには、有効な産学官金融の連携が極めて重視されます。地域イノベーションの創出で産業経済活性化をめざし、バイオ育成推進講座を開催します。
² パネリスト 株式会社大金 代表取締役社長 金田 道従
「地域農産物の高付加価値化について」                                   
<取り組みのはじめ>
1.ダッタンソバの機能性成分について着目し1996年から旭川市に於いて試験栽培を開始し2001年有機認証を取得現在に至る。
2.その間、北海道産ダッタンソバについて機能性成分の含有量や機能性について検証を行う。(借り物のデータでなく自分自身で調べる。協力―天使大学、酪農学園大学、旭川医科大学、旧ホクサイテック財団))
3.その結果、世界そば学会で公表されている数値より道産はルチンが約1割多いことが判明した。(協力―道立中央農試)
  (世界平均が100g中約1800mgに対し北海道産は2000mg)
<商品化を目指す>
4.以上の結果を踏まえ、商品化を目指し商品開発に取り組む。
  ①そば麺-発売中
  ②そば茶-発売中(JAS有機食品)
  ③カステラなど
<生産者との連携>
5.栽培に手間いらずのダッタンソバ
  ①栽培に手間がかからず、荒涼である北海道に適した作物なので生産者と連携し高付加価値の加工食品を開発し、生産者の再生産価格を維持しながら北海道の蕎麦として定着させたい。(普通そば生産量日本一の北海道も関東地区では信州ブランドにかなわないので、北海道のそばとしてブランド化)
<製品情報の提供>
6.機能性成分の製品中含有量表示
  製品ロットごとに、ルイチン、ケルセチンの含有量を製品に表示している。
<今後の取り組み>
7.大学の協力を得てより一層機能性の検証及び機能性食品の開発に取り組む
  ①東海大学 ②天使大学 ③旭川医科大学など
² パネリスト グリーンテック株式会社 代表取締役 佐藤 一彦
「ニンニクの有機栽培は不可能に近いからやめた方がいい」と青森の栽培指導者から忠告されたが、
あえて有機栽培に挑戦した。これには二つの理由がある。一つは、20年かけて培った土壌改良技術を実証してみたかったから。人達を元気にしたかったからである。
このニンニクを多くの人に認知してもらうために、茎の長い形状にして「彦一にんにく」と名付けた。
5月、春野菜がまだ少ない時期に、かき取った脇芽を葉ニンニクとして「若旦那」の名称で出荷する。
農薬を使用してないので安心して食べてもらえる。
販売についてはまったくの素人なので、テレビや新聞を見て積極的にアプローチしてくれたホテルや焼肉店、卸売業者やデパートなどを優先的に販売している。しかし、まだまだ販路を広げなければならないので、「彦一物語」を熱く語って拡販に汗を流している最中である。
² パネリスト 北海道立林産試験場 きのこ部長 栗原 節夫
きのこ等林産資源の事業化の可能性について
 私ども林産試験場きのこ部が現在取り組んでいるきのこ事業化の取り組みについて
平成19年~20年に北海道の重点研究として北大、食品加工研究センターと取り組んだ成果の中からホンシメジとムキタケに注目し、これらの生産技術を道内での普及を検討していた。
 ところ、今年の1月に政府の緊急雇用対策の一環として出された「ふるさと雇用再生特別対策事業」での普及を図ることを提案、採択に至った。
事業内容は 林産試験場が道内のきのこ生産者に(ホンシメジ、ムキタケ等)新品種きのこの事業化に取り組みませんかと募集を行い、希望者からの企画提案を選考によって受託者を決定する(プロポーザル方式)。受託者は林産試験場きのこ部が持っているホンシメジ、ムキタケの生産技術を取得できるとともに、失業者等を雇用するための委託料を受けることができます。
 7月中旬に受託者2社が決定、契約を結び事業化に向けて取り組んでいるところです。
² パネリスト 旭川大学経済学部教授・旭川大学大学院研究科長 佐々木 悟
 上川、旭川市は全道でも有数のコメと野菜の産地であり、これらの農産物の8割以上は域外、本州大消費地へ生鮮で出荷されており、農産物の供給基地として君臨している。しかし、周知のように、夥しい輸入農産物の国内市場席巻によって価格は低迷し、多くの農家経営の悪化を招き、農業粗生産額や農家数の減少を引き起こしている。
 このような地域農業の衰退に歯止めをかけ、「良質な地場農産物を原材料とした製品」の開発等によって地場農産物に付加価値をつけるために、加工業等地域の関連産業との提携による活性化が模索されているが多くの課題を有している。バイオはその課題を解明し、農・商・工提携確立の鍵を握っており、本講座で議論を深めたい。