「地域バイオ育成講座in帯広」 実施報告

昨年12月 5日(水)、ホテル日航ノースランド帯広において、地域バイオ推進実行委員会の主催により標記講座が開催されました。「十勝地域アグリバイオ産業振興に関する活動について」をテーマとして、57名の参加を得て行われた同講座でのご講演内容を紹介します。


=== 講演1 ======
【演 題】「十勝地域アグリバイオ産業創出のための人材育成事業について」
【講演者】帯広畜産大学 地域共同研究センター

センター長 関川 三男氏

<地域の現状と課題>
 北海道十勝管内では、年間産出額が2,500億円前後の農畜産業が主産業である。この主産業においては近年の異常気象や外圧(日豪経済連携協定交渉等)による影響が懸念され、さらに食料自給率の向上や環境調和型への移行が喫緊に要請されている。このため、従来からの原材料供給に加え、環境に配慮した付加価値の高い製品等への転換を推進することが急務であり、持続可能な事業展開や業態転換による雇用創出を伴う地域独自のイノベーションに駆動された自立的経済基盤を確立することが必須である。十勝管内では複数の公設試験研究機関が「スクラム十勝」と称する包括的連携協定を締結して、効果的な基礎・応用研究、技術開発および普及・啓発活動が行われているが、ここから生じた「シーズ」が地域へ十分に還元されている状況にはない。これは、個別の技術開発等には優れた役割を果たしてきたが、企業等においてより付加価値の高い農畜産物や加工品を生産し得る専門的知識を有する職業人が不足していることに加えて、特に現場と試験研究機関、企業と行政等の調整に当たる企画力、行動力、見識を備えたコーディネーターが不足していたことに大きく起因する。

<人材育成の目指すもの>
 新たなアグリバイオ産業による持続的自立的経済基盤を確立するために、食品製造業者、建設業者等の異業種転換希望者、新規就農者、団体等職員等を対象として、十勝管内で生産される農畜産物やバイオマスなどの地域資源に対して、より付加価値の高い製品等への転換を目指したビジネスモデルや新規プロジェクトを企画・推進できる人材(コーディネーター)と生産現場におけるリーダー(プレイヤー)を養成する。

<人材育成手法・目標>
 人数本事業では、本学の夏季・冬季休業を主に利用し、座学と実務教育等(OJT)を組み合わせて短期集中型で行うプレイヤー研修と、講義と個別指導・グループ討議を中心に進めるコーディネーター研修を開講する。講師陣は、本学をはじめとする「スクラム十勝」構成機関により、農学・生物学・衛生学を担当し、経営学、ビジネスモデル構築、知的財産管理については、主に小樽商科大学、金融機関、民間コンサルタントの外部講師で、またバイオエネルギーや工学関連は、主に北見工大、釧路高専からの外部講師で構成する。3年後には、名のコーディネーターと15名のプレイヤー、年後の終了時には、15名のコーディネーターと25名のプレイヤーの育成を目指す。

<自治体等との連携>
 本学と帯広市はすでに包括的連携協定を締結し充分な協力関係が構築されており、また、(財)十勝圏振興機構は平成17年度からの文部科学省「都市エリア産学官連携促進事業:機能性を重視した十勝産農畜産物の高付加価値化に関する技術開発」の中核機関として、コア研究機関である本学と密接な連携を図かり当該事業を推進している。

<地域のニーズ>
 十勝管内各地の産業クラスター研究会等では、新規事業を目指して積極的な議論が展開されている。この中で、現在の大規模畑作・畜産を背景とした原材料供給から、地域において農畜産物の高付加価値化を図り、持続的な地域経済の確立が望まれている。

<地域再生に向けて>
 本事業によって養成される「プレイヤー」により、アグリバイオ産業における企業等内のイノベーションを推進するとともに、コーディネーターにより地域に存在する研究成果(シーズ)等と産業界のニーズとの社会的で適正なマッチングによるアグリバイオ産業の創出をより効率的に推進することが期待される。本事業により、北海道・十勝地域の資源・特性を活かし、食の安全、環境保全を理解し高い倫理観による企業活動を展開できる人材を育成することにより、自立的経済基盤の確立による地域再生を目指す。

=== 講演2 ======
【演 題】「十勝産農畜産物の高付加価値化に関する技術開発(都市エリア産学官連携促進事業)について」
【講演者】 財団法人十勝圏振興機構

科学技術コーディネーター 佐山晃司 氏

<都市エリア事業とは>
 「都市エリア産学官連携促進事業」は地域科学技術振興施策として文部科学省が全国で展開している事業の一つであり、その地域を特色づける産業の育成、発展を目指している。北海道では函館(水産物)と十勝(農畜産物)の二つのエリアが選出されており、地域の産学官が密接に連携しながら大学等の有するシーズ(知)と民間企業のニーズを上手にマッチングさせることにより、新しい技術を生み出して既存産業のレベルアップを計るとともに、新規事業を創出するなど、科学技術振興を通じて地域の持続的発展を目指している。いわばイノベーションを通じての新しい地域おこしを図る事業といえるものである。

<十勝エリアの取組み>
 十勝はわが国を代表する農畜産物の生産供給基地であり、これに基づく食品加工産業も盛んな地域でもある。これまでも「安全」、「安心」、「美味しい」をキーワードに高品質の農畜産物およびその加工品を国内はもとより、国外にも供給してきている。しかし経済のグローバル化によるWTO、EPA交渉の進展は国内農畜産業の将来に大きな影をもたらしており、更なるコスト削減、付加価値向上が求められている。本事業では「健康機能性」の観点から十勝産農畜産物を見直し、これらの付加価値向上を目指すことにした。即ち「機能性を重視した十勝産農畜産物の高付加価値化に関する技術開発」をメインテーマにつのサブテーマを設定した。コア研究機関を帯広畜産大学、事務的業務を担当する中核機関をとかち財団、さらにエリア内の多くの公設研究機関および関連企業をメンバーに加えてオールとかち体制を組んでおり、平成17年スタートし今年度で最終年度を迎えている。各サブテーマについて略述すると、「馬鈴薯からの有用ペプチドの生産技術開発」では、動物実験からポテトペプチドは善玉コレステロールを増やし、悪玉を減らす性質を持っていることがわかった。現在食品素材としての商品化がなされているとともに、ペット用サプリメントの試作等が続けられている。「ソバ・豆類の健康機能性スプラウトの生産技術開発」では、特にダッタンソバ(北海T10号)に、ルチンとともにアントシアニン系色素が多いことがわかった。アセトアミノフェン投与で肝臓が傷みGPT・GOTが血液中に出てくるが、スプラウトの乾燥粉末を投与すると肝臓を保護してくれるデトックス効果が見つかっている。現在ではスプラウトの栽培キットが商品化されている。「長いもを利用した機能性食品の開発」では、動物試験により生の長いもはコレステロールを著しく低下させることがわかった。加熱した長いもにも糖吸収抑制効果および大腸腺種低減効果が認められている。規格外品の有効利用として長いも酢が開発されたほか、長いもを使った数多くの商品化が本事業によって進められた。「ナチュラルチーズの高品質化と安全性確保技術の開発」では、帯広畜産大学が有する酵母菌を使用した特徴あるナチュラルチーズを商品化した。十勝産牛乳の安全性の確保という視点で、エンテロトキシンA産生黄色ブドウ球菌の検出技術の開発ならびにELIZA法を用いたニューキノロン系抗菌剤の簡易検出キットの開発を行い商品化につなげた。これら動物試験で得られた成果等を用い「DNAマイクロアレイ法を用いた食品機能性評価システムの開発」において、データベース化を進めた。
 本事業3年間進めてきた中で得られた有益な研究成果等をベースに、地域の産業創出等さらなる発展を目指し、本事業発展型に向け現在取り組んでいるところである。

=== 講演3 事業化事例======
【演 題】①「未利用資源の有効活用」
【講演者】コスモ食品株式会社

代表取締役社長 岡田  博 氏

<コスモ食品株式会社について>
 平成3年、北海道内の豊富な農水産物の未利用資源を活用することを目的に、十勝管内芽室町に工場を建設し、道内産のポテトプロテインを利用したアミノ酸調味料の製造技術を確立した。平成7年からは、乾燥ビール酵母の有効利用の一環として、キリンビール㈱との共同開発により、ビール酵母エキス系調味料を開発し、平成9年にキリンビールのグループ会社となった。さらに、北海道工場を生産と開発の拠点と位置付けし、平成10年に粉末化やペースト化工場を建設し、平成17年には、新製品開発のための食品技術研究室を設けている。その後平成18年には、乳酸菌専用工場の増築を行い、培地の製造から培養、粉末化まで一貫した工場になっている。

<保有生産技術と製品化の原点について>

 生産の基本技術については、大きく4つに分類される。1つ目は、酸アルカリ処理である。当社は一貫して酸加水分解により、ポテトとビートを原料にしたHVP系及びフィッシュミールを原料にしたHAP系のアミノ酸を製造している。2つ目は酵素処理である。これも原料特性を分析し、蛋白質分解酵素をはじめとする各種の酵素を選定しながら、ペプチド系の調味料を製造している。ポテトプロテインをはじめ乾燥ビール酵母や乳糖、シルクなどを主な原料に用い各種のペプチドを製造している。3つ目は乳酸菌培養である。培地の製造から培養さらに粉末化まで、一連のプラントを有した単独の工場により受託製造している。4つ目は動植物エキス及び有用成分の抽出である。キチン・キトサンやきのこからの機能性食品の抽出などである。コスモの製品群は、その殆どが未利用資源を用いたものであり、その原点は「もったいない」である。

<開発製品について>
 「ポテト蛋白質を原料にした調味料」について、ポテト蛋白質は澱粉工場で澱粉を取ったあとの副産物であり、各種処理等を行い、アミノ酸調味料の原液を得る。これを調整して、液体やペースト状の物、あるいは粉末にする。主な用途として、液体は漬物の味付け、水産タレ関連、冷凍食品全般、練り製品などで、粉末製品は、ラーメンスープや菓子スナックのシーズニング、焼肉のタレ、練り製品などに使われている。
 「ポテトペプチド」について、原料は上述のアミノ酸の原料と同じであるが、これは酵素処理により製品化したものである。特徴的なのは、産・学・官の連携により、ペプチドの健康機能性の検証が行なわれ、特に、帯広畜産大学での動物実験の結果、肝機能改善効果や生活習慣病の予防食品又は、生活習慣病の改善食品としての機能性が証明されたことから、当社では11月から「ポテ味」として販売を開始し、既に数社でこれを用いた新製品の開発を行なっている。これの用途は、発酵食品としての用途や調理加工食品として、さらに健康機能性食品としての用途である。
 「あずきの素」については、これも産・学・官の連携により商品化したもので、中心になっていただいたのは、十勝食品加工技術センターと十勝管内の製餡工場社である。原料は、製餡工場からの小豆の煮汁を回収して、不溶性物質を酵素によって分解除去し、それを高濃度のポリフェノールになるように濃縮したものである。出来た製品の一般成分では、ポリフェノールが16%以上含まれていることから、単に色付け剤に限らず、ポリフェノールによる退色防止効果があることが研究課程で検証でき、抗酸化防止剤としての利用も可能と考えている。これの用途は、赤飯をはじめ乳製品、冷菓、飲料、菓子パンなどを想定している。
 当社は地元北海道内の原料にこだわりながら、未利用資源の有効活用を通して、食による生理機能と健康増進を皆様にお届け出来るように、合わせて環境保全にも貢献できたらと頑張っている。

【演 題】②「小豆のロマネ・コンティを目指して」
【講演者】株式会社丸勝

代表取締役社長 梶原 雅仁 氏

<㈱丸勝と新商品開発への取組み背景について>
 株式会社丸勝は、1953年に穀物卸売業者として創業し、創業以来今日まで、地元十勝産の豆類を広く全国に販売している。加えて、有機質配合肥料や飼料、豆以外の農産物などへと取扱商品を順次拡大し、現在では、取扱商品の3分のを十勝産が占めるなど、地元に密着した一次産品の卸業者として事業基盤を築いてきた。創業時(約50年前)と比べ、国産雑豆類の需要は、消費者の嗜好変化や輸入加糖餡の増加などにより、北海道産豆類の消費は年々減少しており、これまでのように豆類を単に仕入販売するだけではなく、自社で付加価値をつけた製品を提供し、豆の新しい食べ方を提案したいと考え、2005年に「豆を素材とし、豆本来の機能を活かした健康的で、かつ既存販売先とバッティングしない新製品」の開発を始めた。

<雑豆醗酵ペースト・雑豆醸造酢の開発>
 開発の過程において、大きな問題となったのが、餡粒子(あんりゅうし)の存在。雑豆類は、蒸煮時の加熱によって、餡粒子と呼ばれる頑丈な粒子が形成される。そのため、麹の酵素による分解が容易に進まないことから発酵はこれまで困難とされていた。また、この餡粒子の形成によりペーストにはざらつきが発生し、舌触りに不快感が生じる。そこで、この餡粒子を分解するために、北海道立十勝圏地域食品加工技術センター(以下、十勝食加技センター)からアドバイスを受けながら、様々な酵素の組み合わせを試し、分解能力が高く、かつ分解後の風味が良い酵素の組み合わせを発見、餡粒子を分解することにたどりついた。しかし、未だ従来の餡の域を出ないものであり、新製品といえる代物ではなかった。こうした発酵ペーストの開発から、酢の開発へと方針を転換したきっかけは、開発パートナーである十勝食加技センターからのアドバイスであった。発酵ペーストを分析の結果かなり糖化が進むことが判明、その糖分をベースにアルコール醗酵すれば、酢が作れるのではないかと新たなる展開が見えてきたことにあった。しかし、理論上、酢が作れるとわかっていても、我々は酢の製造には全くの素人集団であり、醸造免許を持つ北海道立食品加工研究センター(江別市)まで毎週泊まりがけで通い、研究を続けた。こうした努力の甲斐あって、2006年12月、ついに雑豆醸造酢の開発に成果を見いだした。
 雑豆醸造酢の最大の特徴は、黒酢などと比べて、栄養分やうまみ成分などが多い点である。例えば、「十勝あずき酢」には、アミノ酸が黒酢の約倍含まれており、特にうまみ成分であるグルタミン酸は約4倍も含まれている。(開発時分析データー)

<今後の展望>
 現在、酢の製造過程で副産物として発生する発酵ペーストの本格的な用途を開発中である。今年の10月から経済産業省の地域資源活用型研究開発事業として、十勝食加技センターや北海道立食品加工研究センター、帯広畜産大学、協力企業1社と共同研究がスタートした。今後、年程度かけて発酵ペーストを原料としたドレッシングや、ダイエットクッキーなどの製品化を目指す。「発酵ペースト」は面白い素材で、製品化が実現すれば、雑豆醸造酢製造過程においてゼロエミッション化を図ることも期待している。また、酢についても、豆類以外の地元農産物を活用したさらなる製品開発を目指す。既に十勝川西長いもの規格外品を利用した「十勝長いも酢」を商品化しており、今後かぼちゃをはじめ、北海道産、特に十勝産の農産物を活用した醸造酢にこだわった製品開発を行う方針である。

<小豆のロマネ・コンティを目指して>
 十勝地方は豊かな自然と肥沃な土壌と昼夜の大きな寒暖差、そして日照時間が比較的長いことや湿度の低さなど「小豆」にとっては世界一の産地といえる。限られた地域の最高の品質の「小豆」を作り上げ、それを原料素材に最高の『十勝純粋酢』の醸造を目指して行きたい。現在「ロマメッツ・エフ」というブランドで販売しているが、これは「最高のものとの出会い」、「雑豆醸造酢を豆のロマネ・コンティにしたい」との思いから「ロマネ=十勝」+「マメ」+「メッツ=出会い」を組み合わせて、名づけました。地域資源を活用した雑豆醸造酢の開発により、新たな事業展開を図りつつ、今後も地域の地場産業の発展に少しでも寄与して行きたいと考えている。