「全国バイオ産業ネットワークフォーラム」参加報告 Part 1

 本年11月16日(金)14時から、(財)大阪科学技術センターにて、~全国7地域の連携を目指して~をテーマに標記フォーラムが開催され、HOBIAから淺野・富永・川村の3名が参加した。主催はNPO法人 近畿バイオインダストリー振興会議、後援は近畿経済産業局、(財)バイオインダストリー協会。17時からは、交流会を兼ねたパネル・成果物の展示も行われた。
 NPO近畿バイオ振興会議は、近畿地域におけるバイオシーズの産業化を推進してきた。その間、創出された多くのバイオベンチャーを、産業活性化に繋がるような企業に育成するためには、地域内のベンチャー間交流のみならず、バイオ研究が盛んな地域間交流も必要と考え、昨年は北海道から沖縄まで6地域のバイオベンチャーが集い交流を深めた。この交流により地域を越えた連携による成果も出てきた。2007年は、九州を加えた7地域を繋ぐ連携事業として全国バイオ産業ネットワークフォーラムが実現した。
 近畿バイオの清水當尚理事長(元 武田薬品)は、全体を通じての感想として、「1500社もの大学発ベンチャーができて、どうなるのかととても心配だったが、当日の発表を聞いて、日本人は器用だ、きっと道を切り開くことができる」と興味ある感想を述べておられた。
 以下に当日のプレゼン概要を記す。紙面の都合上、今号では12演題のうち7題までとし、後半は次号に掲載する。


1)【北海道発】「伝統的な発酵飲料と健康へのアプローチ」 
                    (株)ケルプ研究所 常務取締役 福士宗光氏
 まず、当社の事業概要を話す。当社は健康をテーマに3つの会社でグループを組んでいるが、(株)ケルプ研究所は製造部門を受け持っており、今日お話しする健康飲料を製造している。その他にも化粧品の製造や、受託製造も行っている。(株)サッポロケルプは販売会社であると共に、ヨガスクールを運営している。健康というテーマの仕事をしているわけだが、運動も健康の要素であると考えている。(有)けるぷ農場は福島県にあり、畜産をしているが、健康飲料で培った発酵技術を利用した飼料を使い、畜肉の生産をしている。
 我が社で作っている植物エキス発酵飲料は、古くからある健康飲料である。当社をベンチャーと紹介されたが、既に30年に渡って営業しており、同種の製品を製造・販売している企業の中には70年くらい続いている企業もある。野菜や果物などを糖で漬け込み、浸透圧の差で有効成分の抽出を行って、抽出液を発酵・熟成している。発酵スターターを使う企業もあるが、伝統的には原料由来の酵母等を使う。工程はシンプルだが、実際には熟成などに3年を掛けている。伝統的飲料であり、実際に効果があると言うことで固定客がついているが、当社ではエビデンスを重視している。食経験や体験のみではなく、客観的な証明をここ10年ほど取り続けており、当社では当地の総合医科学研究所にお願いして業界では初のヒト介入試験を行った。最初の肝機能障害に関する実験では、通常の使用容量より遙かに多い量を飲んでもらっているが、GOTやGPTの数値からは明らかな効果が見られ、γ-GTPの数値にも効果が期待された。血液検査では、コレステロールや中性脂肪、血圧についても改善が見られた。次に、道立食品加工研究センターでT-RFLPを用いて調べた腸内菌層の変化ではビフィズス菌の相対量に若干の変化が見られている。食事の管理の難しさもあり、何が影響しているかはまだ研究途上である。札幌医科大学や北海道教育大学などと協力して、好中球のスーパーオキシド生成能に基づく免疫調整機能についても調べており、一応の効果を確かめたが、さらに検討を進めている。若い人を対象とした酸化ストレス軽減に与える影響でも効果が見られたので、運動ストレスを掛けた場合や中高年への効果も検討していくことにしている。発酵液の肉豚に対する影響を見ると、肥育中でも肝臓への脂肪沈着を抑える効果があることが分かった。今後も、当社の発酵飲料に関してエビデンスを積み重ねていきたい。

2)【東北発】「未利用資源を利用した機能性食品の開発」
                                      協同組合マリンテック釜石専務理事 佐々木荘法氏
 発端は、鮭の魚醤を東北大と共同開発したことに始まる。経産省のエコタウンに認定された。北大水産とも共同研究している。原料として天然素材、わかめ、鮭を使用。着目している素材は、コンドロイチン硫酸、コラーゲンなど。17の漁協を通して原料を得る。機械的に細かく分解したものを酵素分解する。隣に位置する海洋バイオ研究センターから微生物の菌株をもらって、経済的に優位に酵素源を得ている。製品は、フコイダン、コラーゲン、ペプチド。フコキサンチンからなる油脂も取っている。一つの原料から3種類を取る。最終産物でなくバルクを販売している。H19売り上げ予想は3億1千万円。売り上げトップはコンドロイチン硫酸、次にフコイダン、両者はかなり需要があり、韓国、中国へもかなり輸出している。

3)【中部発】「血管内皮機能検査 -検査装置 UNEXEF 18G-」
                        (株)ユネクス代表取締役 益田博之氏
 当社は医療器械を扱う会社で、血管の内皮機能を調べる機能がある装置を開発した。最近話題のメタボリックシンドロームは、生活習慣病のリスクファクターの一つで、血管疾患の要因となりうる。動脈硬化は血管のサビとも言えるが、血管内皮細胞の健康状態を見ることは重要である。健康な内皮細胞からは一酸化窒素が出ていることが分かり、発見者はノーベル賞を取った。一酸化窒素が動脈硬化を防いでいるとされ、この発生を血管依存性血管拡張反応(FMD)で調べるのが当社の機械である。従来の装置では測定に時間が掛かることから、計測には熟練を要した。簡単な操作で短時間に高い精度の測定できる様にしたところに、特徴がある。また、プローブの保持を自動的にするので、ニトログリセリン投与試験などにも利用することができる。

4)【中国発】「トランスジェニックカイコを用いた組換え
             タンパク質の生産」
                         (株)ネオシルク 取締役 富田正浩氏
 カイコへの遺伝子組換えを活用して、タンパク質の受託生産を行っている。最終的には、カイコで医薬品を作りたい。なぜ、カイコか?マユは、97%がタンパク質であり、迅速に作られるタンパク質を安価に大量に作る。マユからのタンパク質の精製は、簡単である。カイコのマユは、フィブロイン(不溶性)とセリシン(親水性)によって出来ている。異種タンパク質をセリシンに発現させると、マユを水に漬けるだけで抽出でき、目的タンパク質を容易に精製できる。カイコへの遺伝子組み換えは、ベクターをカイコの卵に注射して行くとある確立で形質転換される。組換えタンパク質の生産のデモンストレーションは、蛍光タンパクEGFPを使い視覚的に示せる。マユを水につけると蛍光物質が溶け出してくる。容易に純度の高いタンパク質が得られる。カイコで生産に成功したタンパク質は、抗体、アルブミン、成長ホルモン、サイトカイン類などで、長さを一定にしたヒト由来のコラーゲンも作っている。

5)【沖縄発】「新薬を開発してみて」
          レキオファーマ(株)取締役社長 奥キヌ子氏
 1991年那覇市、資本金8億円。
 レキオとはポルトガル語で琉球を表す言葉で、それに薬を表すファーマを付け、果敢に海に乗り出した先陣に肖りたいとして会社の名前とした。
 当社が開発した治療薬「ジオン」は、軽度の痔から手術が必要な重度のものまでに対応できるように、田辺三菱製薬と協力して開発した。元々は中国で使われていた漢方薬だったが、日本では許可されていない成分が含まれるなど問題があったため、技術開発の必要性があった。以前なら手術を必要とされたヒトにも処方できることなどから、専門医の間でも評価が高い。人口の1/3は何らかの痔に悩んでおり、非常に大きい市場である。痔の症状には4段階あり、それぞれに適切な治療法があるが、ジオンはⅡ~Ⅳ度の症状に適応でき、短期間の入院で治療ができる。硫酸アルミニウムカリウムとタンニン酸が主成分だが、キレート剤の添加により不溶物を生じず、溶存酸素の除去と酸化防止剤の添加で製品の安定化を図ることができた。特許は日本を初めとして、欧米・アジアの16カ国で取得している。入院や手術の面で患者のQOLに貢献し、同時に薬価の面からも社会に貢献できていると自負している。

6)【関西発】「中野BC株式会社の取り組みについて」
             中野BC(株) 取締役所長 我藤伸樹氏
 創立は昭和7年で、資本金8千万円、酒類、梅酒、みりんなどの製造販売をしている。純米酒、梅酒、蒸留した梅酒は良いが、梅の種の焼酎は珍しいが売れていない。季節商品であったため夏場に仕事を作りたかった。梅に糖分を入れて浸透圧で梅エキスを取り出す、とても酸っぱい液である。梅エキスの中には、つくばの食品総合研究所でウメフラールなる新規物質が見つかった。血流改善効果がある。梅エキスを煮詰める過程で出来てくるので煮詰め方によって、含量が変わる。製法を工夫して、安定的に1000mgを含む商品とした。
 青ミカンを商品に! 7月の実の青い時期に収穫した温州ミカンに抗アレルギー作用を発見した。花粉症を狙ったサプリメント、アトピタンを販売している。
 和歌山は、柿も有名だ。果実の半分が間引きされている。肥満マウスで試験したところ、未熟柿にトリグリセリドが含まれていることが分かった。H19の農水省の依託事業を活用している。

7)【北海道発】「北海道産植物の機能性成分を利用した商品開発」
        北見工業大学・国際交流センターベンチャー
        ビジネスラボラトリー 教授、
         (株)はるにれバイオ研究所 副社長 山岸 喬氏
 5年前に北見工業大学が文科省からベンチャービジネスラボラトリーの予算をもらったことから、無謀にもベンチャー企業立ち上げることになり、地元の産物を利用した製品を開発するために当社を創業した。「はるにれ」の名はエルムの学園の北海道大学に端を発しており、当社の社長でもある「はるにれ薬局」の社長も北大の薬学部の出身で、出資者の多くが薬学部出身であることから付けた。『胡地養生考』という古文書にアイヌがハマナスを壊血病予防に利用しているとあり、まずハマナスのビタミンCを計ってみたところ、確かに非常に多く含まれていた。だが、それだけでは説明できないような効果があり、抗酸化活性も非常に高いことが分かった。ネズミで抗酸化活性の動物試験をしていたところ、飼育中の臭いの軽減も見られ、ハマナスには便臭の抑制効果があることも分かった。人間でも効果がありそうなので耳の垢を分析したところ、加齢臭の軽減も明らかにできたことから、特許を取得することができた。ハマナスの花弁にはポリフェノールが多いことから、消化酵素の抑制効果が期待できたが、実験をしてみると今まで知られている活性物質中で最強の活性を持っていた。このことから、動物試験では肥満抑制の試験をしており、効果があることが分かり、関与物質も特定できている。ヒトに対する中性脂肪の抑制効果を見ており、非常に強い効果が見られたが、異常値で無いことを明らかにするため、しっかりしたプロトコールの下で再度試験をしている。
 北見及び周辺地域は日本の生産量の1/3を生産するタマネギの大産地であるので、その有効成分を増やす加工方法について検討している。光が当たるとタマネギは青く着色し、青果物としての商品価値が大きく落ちるが、フラボノイドは非常に増えることが分かった。特定の波長の光の効果が高いことが分かり、また増えたフラボノイドはより抗酸化活性が高いことも分かった。このフラボノイドはラジカルを生成して2量体に変化することがあり、これがまた抗酸化活性が高かった。含有されている糖の低減化も図ることで、光照射タマネギとして特許化できて、「太陽タマネギ」として市場に出すまでになっている。
 北見はハッカの産地でもあったので、これを利用した製品開発のニーズがあった。専門である生薬学の知識を利用して、キッソウなども加えることにより、犬が喜ぶ消臭剤を販売している。これに加え、猫が好きなキャットニップと言うハーブを用いて、ネコに効く消臭剤も開発している。漢方医と協力して開発した化粧水など、その他にも多数の開発した製品があるので、様々な企業と協力関係を広げていきたいと考えている。
 (文責:淺野行藏・富永 一哉)